蛸
「ふーん、んで、青春してるこの子らを消せ、と」
大樹たち3人を屋根の上から見下ろす2人がいた。スマホで話をしている関西弁の女が1人。ギターケースを背中に背負ってる。
「あぁ、計画に邪魔でね。【蛸】。君たちの腕見せてもらう」
「はいよー。ホテル代、交通費諸々ごっつーおおきに。んで、成功報酬は?」
電話の相手はボイスチェンジャーを使っているようで男女の区別も年齢も分からない。低く重なった声は耳触りが悪い。
「証1個でどうだ」
「少なすぎ、ちゃいますか?あの子らこちらに気づいてるみたいやし、いくらワイらがシングルでも厳しい思うねん。5個は欲しいわ」
「……3個までだ」
「ふー、まー、ええやろ。引き受けたる」
「確実に奪え」
「まいどおーきにー」
通話を終わると、彼女はにんまりと笑った。
「儲けた儲けた。」
「……悪いやつだな」
デカイ箱を背負った少年が、ジロッと見て言った。ゴツイゴーグルを首にさげ、三白眼をむける。
「やっぱ、証を10個集めてからは、みんな羽振りがえーなー。20個集めてダブルになったら、もっと増えそうや。あないなラブエナジー少ないやつが3個分やて。アイツ普通に倒すよりか3つも儲けたわ」
「……アイツらが、こちらに気づいてる様子なんて感じないぞ」
「嘘や嘘」
悪びれずに言う。
「いいか、相棒。覚えとき。これはお互いに、いー取引するために必要やねん」
「……なんだよ」
「交渉は欲しいよりちょい多めに吹っかけんねん。すんなり通れば儲けもんやし。あちらとしても、割引いたつもりになる。win-winの関係がええんや。そんために交渉にりありてぃ出す演出をすることも必要なんやで」
「…………演出ねぇ」
「それに」
「……それに」
「電話主は、ふっかけても、否定せずに思考した。つまり、それなりの実力者、みたいやな。県外のワイらにわざわざコンタクトとってくるし。割に合わへん仕事になる可能性もある。そんときゃ逃げるけどな。さぁさぁ、仕事やお仕事や。ワイらの夢のためにガンガン稼ぐでぇ!とりま、ホテルに戻って作戦会議や」
2人の影はいつの間にか屋根の上から消えていた。
日課のランニングをコースを代えて、俺はある高校の校門の前に立っていた。隣町にある公立炎城高校。広く名の知れた不良学校だった。だったというのは、この数年で大きく評判を変えたからだ。壁にあった落書きはファンシーに塗りつぶされ、生徒たちの髪型は個性的ではあったが、トゲトゲしさはなく。なく。なく?
「あぁん?」「おぉん?」「何見てんだコラ」「いてまうぞコラ?」「こいつが噂の?」「おぅ?シャベル持ってこいや」
あれ?怖い人たちに囲まれちゃったんだけど。シャベルやら三角コーンやら各々思い思いの武器を持って、俺は四方八方からメンチをきられていた。すると待ち合わせしていた人物が校舎のなかからやってきた。
「お、おはよう、ございます」
「ん、早いね」
いつものように車椅子でやってきた彼女は、すこし困り顔になる。
「……みんな、何をしてるんだい」
「「「「おはようございます!!!」」」」
「……何をしてるんだい?」
再び彼女がきくと動揺が輪に伝わっていく。
「こいつが怪しくて」「こいつが無礼で」「こいつが羨ましくて」「こいつが」
「「「川奈さんの連絡先を手に入れたって聞いて、ぶち殺していいですか?」」」
あ、圧がすごい。みんな血の涙を流しながら必死に訴えている。
「あぁ、なるほど」
彼女は納得したようだった。ぽんと手を打った。その仕草は可愛らしく、可憐だった。きっと女神のように崇拝してるのだろう。あの菩薩のような表情。きっと彼らをなだめてくれるのだろう。
「許可する」
「「「「「「ヒャッハー!!!!」」」」」」
マジかよ。
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