欠けた証
杏の手の中のスカートが消え、その手の中に証が残る。指で弾いて掴みとった。
「ん、半分?」
半分に欠けた歪な形の証を透かしてみる。
「はは!秋道。勝負に負けたが、心根じゃまけてねーとでも言うつもりか?いいね!若いね!サイコーだね!!」
杏は楽しそうに笑う。そんな様子を水族館を見に来た客たちは不思議そうにながめていた。
すでに結界は解かれ、気を失っていた人々は動き出していた。杏のスマホが再びなる。
「社長ご無事ですか?」
「誰に物言ってんだ。大道寺は、リタイアだろうな。懸念材料は1つ消えたさ。そっちは?狩り終えたか?」
「えぇ、うちらの担当分のラブリーズは狩り終えましたよ。ラブリーピンクに釣られてきたミーハー連中は」
「ピンクと合流して、事務所にかえるぞ」
「あ、あと、変な反応が。かなり少ないラブリーズの反応がありますが」
「ほっとけ、ほっとけ。まだ、証も取れてないやつだろうよ」
「わかりました」
スマホを切り、証をポケットにしまう。
「あんなおもしれーもん見せてくれたんだ。これは、その貸しだぜ。秋道。もし生き残ってたら、次は狩る。」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
人を2人を抱えた全力ダッシュ。さすがに、もう走れない。2人を支えた腕が緩み、膝をつく。どうやら深海魚コーナーのようで、辺りは薄暗かった。
「ん、んー」
「いったぁ!」
2人とも無事な様だ。緊張が解けて、倒れ込む。
「きゃああああ!!大樹が下半身脱いで、プリケツで白崎先輩に覆いかぶさってるぅうう!!さいってぇ!!」
「は?ちょ、え、待って!?!」
2人の意識が覚醒する。いやまてまて、語弊があるぞ?!体に力が入らないし、声にもならない。
「は?」
「この盛った駄犬め!お嬢様拳法で、優雅に成敗してくれるわ!!歯ぁ!食いしばりなさい!!大樹!!!」
彼女の鋭い蹴りが股間を貫く。
「金〇潰しぃ!!」
「ふぁっはあああああ!!!殺す気か!!」
「どこが優雅なんにゃ?」
「く、白崎先輩!なんとか言ってください!」
先輩はまじまじと俺の姿をみつめる。上半身は普通だが、縞パンを履き、靴下と靴のみ履いた姿は、なかなかにハードモードだった。
「さいってー、」
ジト目でこちらを見つめる先輩は。生ゴミを見るような目でこちらを見ていた。
「はぁ?」
「最低最悪塵屑最低最悪塵屑最低最悪塵屑最低最悪塵屑最低最悪塵屑最低最悪塵屑最低最悪塵屑最低最悪塵屑最低最悪塵屑最低最悪塵屑最低最悪塵屑最低最悪塵屑最低最悪塵屑最低最悪塵屑」
「呪詛か!!」
「玉、潰す」
「最低最悪塵屑……」
「俺は必死になって戦ってたのに、あんまりだよ!!」
彼女らを落ち着かせるのにしばらくかかった。
「なぁ、許してくれよ2人とも。」
水族館のショップで特大パフェをおごるということで手打ちになった。あれ?そもそもなんでおれが謝らないといけないんだ?
「んぐもぐむにゃもぐ?」
「んぐんぐ、ごっくん?もぐむしゃぺろり?」
「何言ってるのかわからねーよ」
「「もぐっむっしゃ!!」」
リスみたいにほぉばりやがって。イルカ型のクッキーとかシャチをイメージした2種のチョコレートソースとか凝りにこったパフェは、成長期の彼女たちの胃袋に眺める間もなくあっという間に消えていった。
「食べた食べたにゃー」
「ごっそさん!大樹!」
「…あいよ」
テーブルから、のんびり泳ぐ魚たちを見て、一息つく。
「なぁ、どうやったら強くなれるかな」
「?どうしたの、秋道くん。頭……悪い?」
「大樹。あんた、あれほど道に落ちてるもの食べるなって」
「ちっげーわ、」
2人ともまだ弱冠辛辣である。
「いや。今回みたいなことがあった時に、……守れるぐらいの強さが欲しいなって」
恥ずかしくなってお嬢様をって言葉を飲み込んでしまった。
「己の尊厳を?」
「シマシマパンツ履くの辞めてから話をしようかにゃ?」
「ぐぅ」
そんな、俺の頭にポンッとお嬢様は手を置いた。
「……大樹。あんたがいつも私のために頑張ってくれてることはちゃんと知ってるわよ。ごめんね。わたし、こんなんで」
「いえ、お嬢様のせいでは、あ」
「気にしないにゃ。お泊まり会の時に、色々聞いたからねー」
その暖かな手に、目頭が暑くなる。
「ぐっ、つぎは、絶対、負けないから」
「うんうん。」
2人の様子をにまにまと白崎は見つめていた。




