ラブリーバトルレッスンワン
「ん?」
スマホが鳴り出す。初代ラブリーズシリーズのオープニングテーマだ。軽快なリズムに重低音がしっかり響く。幼稚園あたりに聞いた曲だから妙に覚えている。
「お、妹からの電話だ。」
スマホを取り出し、話をし始める。いや、スマホあるなら、最初からかけとけば。
「ん、あ、仕事中は電源切ってんだよ。あいつ。」
「仕事中?お姉さんの妹さんはなにを」
「やめてくれよ。杏でいいよ」
彼女は名刺を取り出した。《三歌月芸能事務所 三歌月 杏》と書かれていた。裏面にはラブリーズの皆様大歓迎共に夢を叶えましょう。とあった。ラブリーズ。ダメ元でも聞いてみるか。
「三歌月さん。ラブリーズで記憶を操作する人って聞いたことないですか」
「記憶を、操作?」
おれはお嬢様に視線を向けた。
「あの子は、記憶を封じられていて、ラブリーズの話題に関することになったら、記憶がとんだようになるんですよ。」
「ふー、ん。なるほどねぇ。」
つかつかと近づいていく。彼女はそでからピンクの棒を取り出す。爪楊枝ほどの大きさだ。なにをするのだろう。
「おぉい!お嬢ちゃん。不思議なピンクの棒だよ。グネグネって長くなーる」
爪楊枝をヒラヒラと見せる。次の瞬間には、すこし長くなった。ただ腕を振って、錯覚をおこしてるだけだろうけど。
「え?すご、マジック?」
お嬢様は騙されやすい。……お嬢様はだまされ。あれ?めっちゃ長くないか?!すご。
「この棒はね。特別な力を持ったラブリーピンクの、」
「ステッキ、きれい」
「アイテムなんだけど、さ。ふーん、おい、大丈夫か?」
「棒、長い。」
急に会話が噛み合わなくなった様子に驚き、彼女は腕を組んで考えた。
「記憶、喪失とはちがうな。これは。」
「違うんですか?何か分かりますか!治せますか!」
「落ち着け、落ち着け。記憶を失っていたら、その記憶だけ抜けるはずだろ?キーワードに反応するタイプの暗示。まぁ、催眠みたいなものか」
「催眠。こ、心当たりはありませんか?催眠するラブリーズとか。どんな手がかりでもいいんです。」
今まで手がかりらしい手がかりがなかった。芸能事務所の社長なら、顔や知見が広いはずだ。可能性があるなら。
「んー、なんでお前はそんなに必死なんだ。」
「そりゃ!幼なじみが困っているなら!誰だって」
「……。幼なじみ、ねぇ?案外思い出さないほうが良いかもしれないぞ」
「な!思い出さない方が良いってどういうことだよ」
おれが、どんな気持ちでいるか。
「おいおい。どうしたよ。秋道庶務。落ち着けよ」
慌てた白崎先輩が近づいてきた。予想以上に大きな声が出てしまったようだ。落ち着け落ち着け。秋道家訓第10条 ジェントリィ!ダンディ!Everyday!
だ。父さん。だんだんめんどくなってんだろ。家訓考えるの。荒だった呼吸を落ち着けていく。
「ラブリーズバトルロワイヤルが10年ぶりに開催された。」
「……なんですか、それ」
「ラブリーズ同士の証の奪いあいさ。
普段はそんなことしないんだけどな。のんびり平和を守ってるんだが、ある一定数ラブリーズが溜まると、発動するイベントさ。こないだ。100人集まった。知ってる奴は、爪を研いでいた。世界に証やラブリーズが増えるのを待ってたってことさ。長いこと暗示にかかってるってことは、そういった準備をしてきた強力な相手だ。ただの一般人がどうにかできる世界じゃない。お前も悪いこといわないから、ラブリーズバトルロワイヤルには関わるな。正義のヒーローでも、中身は人間。醜い世界をみることになる」
「……何があろうと、おれは、お嬢様を治す!もし、そいつにお嬢様をこんな目に合わせたやつがいるのなら、この俺が!!」
ふいに、カバンが光り出す。奥にしまってたはずのパンツか?普段の輝きとは違う。鈍い光り。
「?!……ふん!」
「グは?!!」
杏に思いっきり殴り飛ばされた。
「な、なにす、る」
カバンが彼女の手の中に。輝きは消えた。
「あれ?秋道くんの?」
白崎先輩も戸惑っている。
「返せ!」
「憎しみを持って、ラブリーズに関わるな。飲まれるぞ」
「いってぇなぁ!」
憎しみ?知らん!!
「若いって凄いわ。……無謀で」
彼女はステッキを振るう。
「ラブリーふぃーるど」
地面についたステッキを中心に、光の輪が広がる。
「な、なんだ」
「へぇ、意識があんのかい」
ドサッとお嬢様や白崎先輩、周りの人々が倒れる。
「ラブリーズの基本技能のひとつさ。この結界の役割は2つ。1、ラブリーズバトルロワイヤルの証拠隠滅。この結界内で起こることはラブリーズ以外認知されない。2.ラブリーズの身体能力の強化。ラブリーズは超人的な力を授かる。こんなふうにな。」
投げ飛ばされたカバンにあたり、吹っ飛ぶ。
「ぐわっ」
「そのカバンの中にラブリーズの変身アイテムがあることはわかってた。あの嬢ちゃん。いや、大道寺桜子のもんだろ。なんであいつが倒れて、少年に意識があんだよ」
「くそ!」
カバンの中に大急ぎで探る。既にステッキを大きく振りかぶっているのが見える。
「導き出される答えはひとつ、考えたくないがな」
「ラブリーベイベー!!!」
頭にパンツを被る。
「おまえがラブリーズってことだ」




