水族館オープンセレモニー1
「うっし」
日課のランニングを終え、着替える。時計を見ると朝5時。なんだか異様に時間が余っている。いつも遅刻ギリギリになるのに。
Tシャツにジャケットを羽織り、あることに気づく。
「あ、」
お嬢様の朝の支度はいつも俺がしていた。あらゆる準備をして送りだし、急いで自分の支度をしていたからだ。
「お嬢様、朝ですよ」
「あと、5分」
「遅刻しますよ」
「あと10分」
「増えてんじゃねーか。早くおきてくれ」
「あとちょっと」
「色々準備しないといけないんですから」
「あともっと」
「だから増えんな」
「はい、歯磨きして、お顔拭いて、トイレいって」
「うん……お顔いって、歯をして、トイレ磨いてくりゅ」
「そうそう、お顔いって、歯をして、…………早く顔洗って来なさい!」
「もー、なんでもっと早くおこしてくれなかったの!」
「起こしたわ!」
毎朝こんなやりとりをしている。
しかしいま、白崎副会長の家に泊まっている。……うん、まぁ、考えないようにしよ。あとは、
「パンツをどうすっかな……」
幼なじみのお嬢様は別として、女の子と出かけるわけだ。白崎先輩にパンツを見られてしまうと、うーん。だが、最近誘拐事件があったとか物騒な話をよく聞くし。念の為持ってくか。カバンの奥底にしまった。
「おまたせ!珍しいね大樹が遅刻しないの」
「おはようございます。お嬢様」
まったく誰のせいだ。誰の。だが、はじめてのお泊まりは、俺にとっても新鮮であった。お嬢様の服装は、白崎先輩から借りたもので、Tシャツにオーバーホールを組み合わせたものだった。髪もまとめて、帽子の隙間から出していてポニーテールにしていた。すこし見蕩れる。
「お、おはよう、秋道く、ん」
白崎副会長は対照的に、髪ははね、服はよれよれで若干くたびれた様子の白崎先輩がいた。
「おはようございます。副会長。……大丈夫でしたか?」
「まったく、君のことを尊敬してしまうにぁ。毎日ああなのかい?」
「えぇ、毎日ああです」
「大樹!わたし、昨日とっても楽しかったの!毎日先輩の家に泊まりたいくらい」
「ひ、」
顔が引き攣る白崎副会長。
「ま、毎日は、いいんじゃないんかな。時々にしとこーぜ」
「それもそうね!」
「秋道くん~。」
街に出かけるためにバスに乗り込む。バスで30分ほど、街が近づくにつれて建物が高くなっていく。様々な商品は芸能人とともにラブリーズが起用されているケースも少なくない。
「やっぱりラブリーピンクが人気か」
「そうだね。彼女は女の子たちから人気だもんに。TVシリーズも第12期くらいだったにゃ。毎回毎回主要アイテムが違うし、ストーリーも登場人物も複雑で面白いにゃ」
「副会長は、詳しいんですね。」
「この街の出身らしいし。昔調べたことがあったんだよ。」
「朝日キレイ」
「なんか、桜子ちゃんラブリーズの話題になるとあんな感じになるの」
やっぱりか。どう説明したものか。
「昔、ラブリーズ絡みでトラウマになった事件があったみたいですよ。くわしくは分からないんですけど。」
「へぇ。秋道くんでも知らないんだ」
「本人があんな状態ですからね。僕らはしばらく分かれて暮らしてて、最近一緒になったので、当時のことは知らないんですよ。たまたま、会話したときに、分かって、色んなお医者さんも行ってみたけど原因不明で。街に行くのは不安なんですけど、今回は頼りになる先輩もいますし、町はともかく水族館の中なら問題はないでしょう」
「まかせなよ。先輩としてちゃんとお家に帰るまでリードしてやるにゃ。」
山中の学校に通っているのもラブリーズの情報が少ないからという理由である。
「見えてきたにゃあ」
水族館に到着したのだが、ここでの出会いが、今後の僕らの運命を知らしめることになることはこの時は知る由もなかった。




