生徒会選挙の演説と花井唯香
「そういえば今日からなんか生徒会選挙のポスターが校内に貼られるんだっけ。俺の、どんな感じになってるかなあ」
次の日、俺は登校しながらそんなことを考えていた。そうして俺が学校に到着すると、下駄箱を通ってすぐの掲示板に生徒会立候補者のポスターがずらっと貼られていた。そこにはしっかり俺のものもある。
薄い水色のバックに昨日撮った俺の写真。右端には縦に青く、白で縁取られたフォントで彼作大翔とある。下には『会計候補 1年6組』とあった。これはその部分だけ青い横に長い長方形があり、その上に白いフォントで書いてある感じだ。そして俺の写真の胸の前に、名前と似たような、けれど丸みを帯びたフォントで『会計として生徒のために動きます!』と決めゼリフが書かれていた。
なんと立派にできたポスターだろうか。惚れ惚れする。
他の立候補者のポスターも同じような感じだ。違うのは色やポーズだろうか。
(会計候補は……同じ1年の『花井唯香』さんと『坂上星』さん、それに『安元安人』さんの3人か。俺が当選する場合、この中の誰かとやるんだよな。会計は二人だから。正直全員別クラスの1年みたいだから誰が当選しようとあまり変わらないかな。できれば関わりやすい人がいい。それか可愛い子)
そんなことを考えながら俺は学校生活を過ごしていき、そして日々は過ぎていく。
そして俺は今日、全校生徒の前で演説をすることとなっていた。
「大翔たちってこの昼メシの時間の後演説するんだったよな。どういうこと言うとか決めてんの?」
いつも通り共に昼メシを食べていた琉揮が俺にそう問いかける。
「言われてみれば……ん? あれ、そういえば」
そんなことを口にした俺はあることを思い出し、自身のバックを漁り始めた。そしてそこから一つの紙を引っ張り出した。
『生徒会選挙 演説台本』
「大翔……多分それ、書いて練習しとけってものじゃないのか……?」
俺が机に置いたその、何も書かれていない真っ白な用紙をみて琉揮は俺に言う。
「忘れてた……。どうしよう、俺アドリブでやるしかないのか?」
俺はその演説で自分が話す時、何を言うかをまったく考えていなかったのだ。
「まあ……頑張れよ。自業自得だよ、それは。それに大翔なら多分なんとかなる。普段からバカなんだからちょっとくらい変なこと言っても大丈夫だって」
琉揮は俺を励ますようにそう言う。
「おい……それちょっと貶してるだろ……」
俺は琉揮の言葉にそう言い返す。それを聞いた琉揮は「ははは」と笑って誤魔化すのだった。
そして昼メシの時間は終わり、ついにその時間が訪れてしまった。俺たち立候補者は舞台の裏に誘導され、待機させられている。
(くそ。結局何も演説の内容は思い浮かばなかったよ……。本気でアドリブで全部なんとかするのか。やば……)
俺は舞台の裏にまで聞こえてくる司会の「生徒会選挙を始めます」と言う声に絶望している。
それからすぐに抽選によって1番となった坂上星さんが話し始めた。
俺は彼と軽くだけ話したが、すごく真面目な人という印象で、演説の内容もテンプレートなようなものをすこしアレンジしたといった印象であった。そして「ご清聴ありがとうございました」という言葉で彼の演説は締め括られる。
(次の人が終われば俺の番か……この人はテンプレートみたいな演説だった。俺もそうするか? いや、どうせやるんなら本気で当選しにいきたい。パクリみたいなテンプレートで終わらせるのは嫌だ。となるとちゃんと考えなきゃな。俺が選ぶ側ならどんな人を選ぶかを考えよう。真面目そうな人か? いや、違う。俺なら親しみやすい人を選ぶ。それか面白そうな人。となるとそんな感じの演説をしよう。別に全員が俺と同じ感性をしているわけじゃないだろう。けど全員に投票させたいわけじゃないんだ。他より多い量の票をもらえばいいんだ。だから俺は俺と同じ感性の人を対象に演説をする。俺が好む演説は俺が一番できるに決まってる。これは賭けだ。どれだけ俺と同じ感性を持った人がいるかの……だ)
そうして次の安元安人さんの演説も終わり、俺は彼と入れ替わるように表に移動する。そしてマイクを手に取り、俺は話し始める。
「みなさん、初めまして。彼作大翔です。まずはみなさん。僕の話を丁寧に聞いてくれようとして、ありがとうございます! それでお願いしたいんですが、今からは楽に聞いて欲しいんです! 楽っていうか、自由に……って感じです! 姿勢を崩しても、友達のところに移動しても、それで友達と俺について話してもらいながら聞いてもらっても、とにかく自由にいて欲しいです! 」
俺は舞台の下で俺の方を向いてくれている全校生徒の方へ、そう語りかける。
「ちなみになんでかってのは、俺が皆さんと対等な位置にいたいからです! これ、俺だけかもしれませんけど、一般の生徒として生徒会とかに意見するのって、なんか躊躇っちゃったりしませんか? まあ、もう一回言うけど俺だけかもしれませんけど」
俺は笑顔のまま、軽く笑うような声でそう口にする。
「それで俺は、皆さんにいろいろたくさん意見を言ってもらえて、それをちゃんと学校に反映させていけるような会計になりたいです! てか絶対なります!」
声を張り上げ、俺は宣言する。そのまま続けて俺は話す。
「短いですが俺の演説はこれだけです! ただ、多分これ以降の時間は俺の演説じゃないので、しっかり姿勢を戻してこれ以降の方の演説を聞いて欲しいんですけど、もしまだ友達と話したいなとかありますか? あったらまだ俺の演説の時間が余ってるので、その間をそういうのに使う時間にしようかなって思うんですけど、どうですか? 手あげてください! たくさんいたらそうしようと思います!」
俺はそのように、全校生徒に確認をとる。
(正直これはあってもなくてもあんま変わらないとは思うが、まあ……これで確認だ。どれだけの人が俺を受け入れてくれてるかの)
ここで手を挙げてくれている人は俺のことを受け入れてくれている人で、俺に投票してくれる可能性のある人だ。だから俺は手を挙げてくれている人数を確認する。
(おお! 半分以上はいるんじゃないか!? これなら当選も夢じゃあない! 真面目に演説してよかったー!!)
俺は心の中で、まるでフラグのようなことを大声で叫ぶ。
それからなんだかんだで俺がとった自由時間は終了し、それにともなって俺の演説も無事終了した。
そのまま他の人の演説も終了し、俺たち生徒は解散するのだった。
「なあるき、会計候補の中で誰に入れようと思った? 友達だからとか知り合いだからとかなしで、演説だけで考えてくれよ」
放課後、俺はるきにそんなことを聞いていた。理由は単純で、他者からの俺の演説の評価を聞きたいからだ。
「うーん。まず最初の二人はなしだな。ということで会計候補の中で投票できるのは二人だから、お前とあとあの人、花井唯香さんの二人だな。俺が投票するなら」
るきが言う花井唯香という方は、俺の後に演説をした会計候補だ。テンプレとはどこか違う、けれど真面目さを感じ、しっかりとした理想などを語る演説であった。
「とりあえずありがとう。てことは俺に入れてくれるんだよな?」
「まあ、実際大翔の演説は良かったと思う。入れたくなる演説だったと思うよ」
琉揮は笑顔を浮かべて俺にそう言ってくれる。
「おお、珍しく琉揮がしっかり褒めてくれてる」
「珍しくって、まだ1週間ちょいくらいの付き合いだろ」
琉揮は俺の言葉にそう指摘する。それに俺は「そうだったな」と返し、そこで彼と別れた。
そのまま俺は帰宅しようと帰路に着く。が、俺は途中で丸バツ製麺といううどん屋に立ち寄っていた。
(……演説で疲れたし、猛烈に腹が減ったからな。自分へのご褒美だ)
「いらっしゃいませー。ご注文はいかがなさいますか?」
男性の店員は俺にそう問いかける。そんな問いに、俺はいつも通りの注文をする。
「ぶっかけうどん。サイズは普通、冷ためで」
「かしこまりました。お進みください」
俺はうどんの注文を完了し、天ぷらの前を通る。この店は多彩な天ぷらを取り揃えてあり、うどんと組み合わせて食べることで満足感を得ることができるようになっている。
そんな中俺の出す答えは……天ぷらを購入しない、である。バイトもしてない学生のサイフに天ぷら追加は厳しいのだ!
ということで俺はそのままお会計に向かう。
そしてきっちり代金420円を払い、そのまま少し経って注文したうどんを受け取る。そうした俺が次に行くのは、薬味エリアである。こちらもさまざまな薬味が取り揃えてられているが、これらは全て無料である! つまり常識の中であれば好きなだけ薬味を入れることができる。
そんな中俺が入れるのは……わかめである。
(俺が入れる薬味はわかめのみ。わかめの魅力はいろいろあるが、やっぱりうどんに入れるとつゆが染み込んで美味しくなることだよなあ)
そんなことを考えながら俺はうどんにわかめを投入していく。
(よし、これくらいだな。ちょうどいい。完璧な量だ)
ちょうどいい量のわかめを投下した俺は、そのままうどんを手に、一人用の席に移動する。そのうどんがのったおぼんがコトッと机に置かれると同時に俺も椅子を引いて座る。
「いただきます」
俺は手を合わせてそう口にする。そうして俺は黙々とそのうどんを口に放り込み続け、いずれ器の中身はスープだけを残し、他は無くなっていた。それを見た俺は、もう一度手を合わせて「ごちそうさまでした」と口にした。
空になった器をのせたおぼんを手に取り、俺は席を立ち上がる。そんな瞬間、俺は「えっ」とほうけたような声をあげる。それは俺の隣で、同時に立ち上がった少女の影響である。
「あなたは……大翔さん?」
その栗色のややウェーブのかかった髪をした、俺と同じ会計候補である花井唯香さんは俺にそう問いかける。
「う、うん。そうだけど、奇遇だね? まさかこんなところであうだなんて」
俺はややその状況に困惑しながら答える。
「そうだね、私も驚いてる。そっちも夕食? 私はそうだけど」
「いや、俺はあれだよ。腹が減ってたところにちょうどここを通りがかったからさ」
「なるほどね。大翔さん、わりと大食い?」
彼女は俺の言葉を聞いてそんなことを俺に言う。だが俺はその言葉を否定する。
「そんなことないよ。これ食べたから夕食は減らすつもり」
「つまり大翔さんは、ひどくお腹が減ってて、とにかく何かを食べたかったからここに立ち寄ったってことね」
彼女は俺の状況にそう結論をつけて俺に語る。
「そういうことだね。全くのズレなく正解だよ。さすがは唯香さん」
俺はそんなふうに彼女を褒めてみる。
「ありがとう。そういえば、話変わるけどさ」
俺の言葉を聞いた彼女は突然そう切り出した。なんの話だろうと俺は「どうしたの?」と聞き返す。
「選挙が終わったら会計の仕事、一緒にやると思うからよろしくね」
「……気が早くない?」
「うん、そうかもね。けど私は私が当選することを疑ってないし、もう一人は大翔くんだと思ってるから」
彼女はやけに自信のある様子でそう語る。
「そう言ってくれるのはありがたいけど、結果はまだ確定していないと思うよ。ちなみに俺がもう一人当選させるなら唯香さんだな」
「ありがとう。けどまあ、彼ら二人と比べたら大翔さんの方が全然いい演説だったよ。だから私は私と大翔さんの二人で会計をやっていくんだと考えてる」
(うーん。確かに唯香さんの言葉は真実になりそうだな。まあ開票されないとわからんけども)
俺がそう考えていると、唯香さんは別れの言葉を切り出し始める。
「それじゃあ私、そろそろ帰らなきゃだから」
「おーけー、確かに俺もそろそろだな。バイバイ」
「うん、バイバイ」
そうして俺と唯香さんはお互いに手を振ってそこから離れるのだった。




