2.異世界でお見合い=ありよりのなし?
その頃、ガーディアック家の食堂ではギルベルトの大きな声が響き渡っていた。
「どう言う事だ、父上。見合いをしろと言うのは!?」
「言葉通り、お前には異世界のお嬢さんと見合いをしてもらう。正午にシュベルトの屋敷に行け、命令だ」
「わざわざ、ヒューズを部屋の前で待機させていたのは、この為ですか。勝手に決めたられたのですか、俺の意見も聞かずに」
「お前の命に関わる事なんだ。呪いが進行したら、どうするんだ?ギルベルト」
オルタニアの言葉を聞いたギルベルトは、口を閉じざる終えなかった。
ギルベルトの様子を心配そうに見つめながら、マーヴェンとサバサが朝食をテーブルに並べて行く。
ギルベルトかけられた呪い、古代呪術蝕むモノ。
上級魔術師でさえ、古代魔術の解読すら出来ていない中。
幼少期のギルベルトは謎の人物に古代呪術、蝕むモノをかけられてしまった。
オルタニアはすぐに、術者の後をコンラット達騎士団に追わせたのだが…。
発見した礼拝堂の中で、喉に短剣を突き刺し死亡していた。
本来、呪を時には呪いをかけた術師を殺せば呪いは解ける仕組みであるが、ギルベルトの場合は違った。
術師は死亡したのに呪いは解けず、今だに呪いで体を蝕まれていた。
*蝕むモノ名前の通り、この呪いは体の神経の根を蝕み、いずれ心臓や脳に到達してしまう呪い*
ギルベルトの体の至る所に、黒い棘が浮きでており、体の右半分が出ている状態である。
「右手を使えわなくなったのは、神経が痺れたような感覚がしているからだろ?違うか?」
「…、分かりました。会ってこれば宜しいんですね」
「このカーディアック家の次期党首は、お前なんだ。ギルベルト、俺は呪いを解いてやりたいんだよ」
「呪いを解きたいって言うのは、建前なんでしょ?父上は、世継ぎの事を気にしているのでしょう?俺が、フィアンセをいつまでも作らないから」
そう言って、ギルベルトはオルベルトを睨みつけるように見つめる。
「ギ、ギルベルト様、旦那様は…」
「マーヴィン、お前は黙っていろ」
「申し訳ありません、旦那様」
オルベルトの静止させられたマーヴィンは、口を閉じながら頭を下げた。
「俺の友人でもあるエルミナの予言で、お前の呪いを解く鍵となるレッドピンクの瞳を持つ女が、満月の夜に現れると言っていた。昨日の夜は満月だった、そして突然現れた異世界人の少女。まさに、エルミナの予言通りじゃないか」
「確かに、エルミナ公爵の予言が当たって来ましたよ、ルナ帝国軍を何度も勝利に導いてきた。ただ、俺は異世界から来た少女を、呪いを解く為にだけに利用するつもりは…」
「利用なんてするつもりはないさ、彼女が心から協力してくれれば…」
オルベルトの言葉を聞いたギルベルトは、溜め息を吐きながら立ち上がる。
「俺はこれで失礼します。安心して下さい、異世界人には会って来ますから」
「あ、待って下さいよー、ギルベルト様ー」
ヒューズは慌てて、食堂を出て行くギルベルトの後を追い掛けて行く。
廊下を早歩きするギルベルトに、ヒューズは声を掛けた。
「ギルベルト様、芣婭ちゃんめちゃくちゃ可愛かったんんですよー。あれは、かなりの上玉ですよ?」
「は?ふ、芣婭ちゃん?誰の事、言ってんだ」
「昨日の夜に来た異世界の女の子ですよ!!」
「そうか」
興味なさそうに返事をしたギルベルトを見て、ヒューズは更に言葉を続ける。
「珍しく、団長も芣婭ちゃんに優しいんですよ?普段の団長から考えられます?」
「何?コンラットが?」
「そうですよ、あのコンラット団長が芣婭ちゃんに笑って優しくしてたんですから!!今も、帰って来ていないでしょ?芣婭ちゃんの事が心配らしいですよ」
ヒューズの話を聞いていたギルベルトは内心、とても驚いていた。
彼の知っているコンラットは笑う事は滅多になく、表
情を変えずに戦場に出る男だったのだ。
ルナ帝国の中でも腕が立つと有名なコンラットは、皇帝直々に護衛を頼まれる程の腕前である。
「珍しい事もあるものだな」
「でしょ!?」
ギルベルトとヒューズがこんな会話をしている中、ローベルク家では…。
***
甘野芣婭(17歳)
芣婭の姿を見た3人は、固まったまま固まっていた。
マダムに着せられたパステルカラーのパープルオフシ
ョルドレスで、小さな菫の花がドレス全体に散りばめられていて、とっても可愛い。
髪の毛はハーフツインテールにセットされ、ドレスと
同じ菫の花が散りばめられているのだが…。
「やだぁぁぁあ♡芣婭さんに見惚れちゃってるー!!!フォンクライス卿までもがねぇ」
「ちょ!?ロザリア様!?ご冗談を言うのはやめて下さい」
コンラットが耳を赤くさせながら、芣婭から視線を逸らす。
「ケロちゃんもベロちゃんも、何か言ってよーっ」
タタタタタタタッ。
芣婭はそう言いながら、ケロちゃんとベロちゃんに駆け寄った。
「「可愛い」」
2人は頬を赤く染めながら、そう言って芣婭の事を褒めてくてたのが凄く嬉しい。
「本当?本当の本当?だったら、凄く嬉しい!!このドレス、マダムが作ったんだって、めちゃ可愛いくない?」
スカート部分を軽く持ち上げながら、芣婭はその場でクルッと回って見せる。
「元々、芣婭は可愛いんですから何着ても似合わない筈がないですよ。息してるだけでも可愛いですよ」
「呼吸してるだけで!?ケロちゃんって、もしかして女慣れしてるな?」
「はい??何です、それ」
「女の子相手に言ってるんじゃない?って事」
そう言った瞬間に、ハッと我に帰る。
しまった、芣婭の悪い癖が出てしまった事に気が付いた。
ケロちゃんがせっかく、褒めてくれたのに疑ってるみたいな言い方しちゃった。
容姿の事を褒められても、本当なのかなって思うようになってしまった原因は分かってる。
お母さんが嫌って程に、芣荒の容姿、瞳の色を罵倒されて来たから。
お兄ちゃんは普通なのに、芣婭だけが赤ピンク色の瞳で産まれたから。
あ、色々あって忘れてたけど、お兄ちゃん心配してるかなぁ…。
芣婭が突然、いなくなっちゃったから。
「あ、あのケロちゃん。今、言った事はわす…」
ギュッ。
芣婭の言葉を聞いたケロちゃんが、芣婭の手を優しく握りながら見上げて来た。
「お世辞は言いません、芣婭には」
「お前は何を着ても可愛いんだよ、元が良いからな。それに俺達は、今まで人間と契約をしてこなかったんだぜ?そんな俺等が、可愛いって言ってんだ、芣婭は、素直に俺達の言葉を受け取れば良い」
ケロちゃんとベロちゃんが、芣婭に優しく笑い掛けてくれて、2人が嘘を言っていない事が言っていない事が分かる。
会ってから全然、一緒に時間を過ごしていないのに、信じられるのはなんでかな。
「ありがとう、ケロちゃん、ベロちゃん。2人に可愛いって言ってもらえて嬉しい」
「ケロベロスの言う通り、君は愛らしいお姫様だよ」
「え!?急にどしたの??」
「目の前に素敵なレディがいるのに、褒めないのは失
礼だろ?あ、勿論、君にお世辞を言ったつもりはない。俺の本心だと言う事を知っていてほしい」
コンラットが突然、とんでも発言をブッかましてっきた。
「ちょっと、待った。異世界の男の人って、こんな女たらしのメンズが多いの?ハッ!!ここは異世界じゃなくて、乙女ゲーの世界!?だったら、タイトル名を教えてほしいんだけど!!」
「ん、ん? お、乙女ゲー?え、なになに?なにかの呪文?」
「「ギャハハハハ!!」」
芣婭の言葉を聞いて困惑してるコンラットを他所に、ケロちゃんとベロちゃんは大爆笑している。
「あらあら!!フォンクライス卿ったら、芣婭さんにすごっく優しいのね。芣婭さん、コンラット卿は凄く
女性から人気があるのに、女性に優しくしている所を見た事がなかったの」
マダムがコソッと、芣婭に耳打ちをしてきた。
「え?」
「ふふ、いつも仏教面でね?近寄りがたい雰囲気を漂わせていたんだけど、芣婭ちゃんには優しくしたいのね」
「まさに乙女ゲーの展開やなかーい!!」
タタタタタタタタタッ!!!!
マダムと話していると、廊下から数人の足音が聞こえて来た。
「大変だー!!!ロザリア、いるか!?」
バンッと勢いよく扉が開かれ、現れたのはシュバルト
お兄さんと執事とメイドさん達も部屋に入って来る。
「シュバルトお兄さん、めちゃくちゃ慌ててるんだけど、大丈夫そ?」
「あ、ふ、芣婭さん!!起きたんだね、体は平気かい?あ、そのドレスはロザリアの物だね、とても似合っているよ」
「あ、再びのスルー?」
「ちょっと、貴方。何をそんなに慌てているのよ?」
芣婭とシュバルトお兄さんとの会話に、マダムが参加してきた。
「連絡鳥から手紙が届いたんだよ、オルタニア公爵からね」
連絡帳?
へー、異世界でも、連絡帳があるんだ!!
うわ、懐かし過ぎる!!
⚠︎連絡帳×→連絡鳥○
「あら、そうなの?でも、貴方がそこまで慌てる程の内容だったの?」
「芣婭さんとギルベルト様との見合いが、正式に決まったんだ。それも、今日の正午にギルベルト様がいらっしゃる」
「何ですって!?」
「本当何なんですか!?」
シュバルトお兄さんの言葉を聞いたマダムとコンラットが、同時に驚きの声を上げる。
ケロちゃんとベロちゃんも目が点になっていて、芣婭自身も状況が飲み込めていない。
お、お見合い?
お見合いって、あのお見合い?
よくドラマとかに出て来る、あのお見合い?
「あのギルベルト様が、お見合い!?相手は芣婭さん!?って、正午って、もうすぐじゃないの!!!こうしちゃ、いられないわ!!」
パンパンッと手を叩きながら、マダムは大声で叫んだ。
「皆んな、急いでお見合いの準備をするわよ!!ランチの用意と、最高級の茶葉を買いに行かないと!!」
「あ、奥様!!お待ち下さい!!」
メイドと執事達は、出て行ったマダムの後を急いで追い掛けて行く。
「おい、オッサン。何で、芣婭が見合いをしなくちゃなんねーんだよ」
「オ、オッサン!?それは…」
ベロちゃんの問い掛けに、シュバルトお兄さんが口籠る。
その姿を見たケロちゃんの手から、黒い炎がメラメラと燃え盛っていた。
「貴方、何か隠していますね。芣婭に何をさせようとしているんですか」
「ケ、ケロちゃん!?手、熱くないの!?大丈夫そ!?」
「俺は強いので、こんな炎に負けませんよ。俺よりも、この男が芣婭と俺達に隠し事をしてるんですよ」
「シュバルトお兄さんが?」
確かにケロちゃんの言う通り、シュバルトお兄さんはどこかよそよそしいような…?
「旦那様!!ギルベルト様がいらっしゃいました!!」
再び勢いよく扉が開かれ、おじ執事がシュバルトお兄さんに駆け寄る。
「分かった。芣婭さん、確かに君に隠している事がある。ただ、この事はギルベルト様の命に関わる事なんだ」
「え?い、命って、死ぬって事?」
「これ以上は、オルベルト公爵から口止めされているから言えない。申し訳ない、芣婭さん」
そう言って、シュバルトお兄さんは芣婭に頭を下げてきた。
隣にいるコンラットも、シュバルトお兄さんと同じような顔をしてる。
「アンタ等、芣婭を利用する気なら、殺すぞ」
「2人きりにするのも反対ですね。話す気がないのなら、俺達も同席します」
ボンッ!!!
ベロちゃんとケロちゃんが黒毛の子猫の姿に変身し、芣婭の胸に飛び込んできた。
キュュン!!!
何、この可愛い生き物は!!
可愛過ぎるうう!!
「ちょっと、貴方!!ギルベルト様が中庭でお待ちなのよ!?芣婭さんを案内しないと!!」
部屋に入って来たマダムは芣婭の手を掴んで走り出す。
マダム、力強!!?
「フォンクライス卿も早く来て!!ギルベルト様がお呼びなのよ」
「分かりました」
「あー!!忙しいわぁぁぁぁああ!!」
「「お前だけだろ!?」」
ケロちゃんとベロちゃんマダムに対するツッコミが、屋敷中に響き渡った。
この世界で一番の陽キャは、マダムだと芣婭は思ったのであった。
シュバルト家 中庭
赤い色のチューリップが庭一面に咲いており、青々とした木々達が心地良さそうに風に揺れている。
「ほら、あそこにいらっしゃるのがギルベルト様よ。
このルナ帝国で、美形だと有名な殿方なのよ?」
マダムはそう言って、テラス席の方に視線を向けた。
「「うるせー、女だな…」」
芣婭の胸の中でマダムに毒吐く、ケロちゃんとベロちゃん。
芣婭は一瞬で、視線を奪われてしまっていた。
雪のように白い肌、長い睫毛の間から見える銀色の切れ長の瞳、襟足が長い黒髪ロングウルフヘアの男の人がいた。
全身黒で揃えられていて、耳には煌びやかなピアス。
カッコイイと言うよりも、尊いって言葉の方が似合う。
パチッと、男の人と目が合った。
芣婭達の間に静かに時間が流たような感覚がした時だった。
「お前が異世界人の女か」
頭上から低い男の人の声が聞こえ、顔を上げると黒髪美形お兄さんが目の前に立っていた。
「そうですよ、ギルベルト様。彼女が、異世界から来た少女です」
コンラットがそう言って、芣婭と黒髪美形のお兄さんの間に入る。
「へ!?」
「あら!?」
その光景を見ていたマダムとヒューズは、驚きの表情を浮かべ、口をパクパクさせている。
「ヒューズの奴が珍しがっていたが、お前もこんな行動を取ったりするだな」
「すみません、この子はまだ…、こちらの世界に来たばかりですし。昨晩、倒れてしまったので」
「そうか、体っは平気なのか?」
コンラットの話を終わらせ、ギルベルト君が芣婭に尋ねてきた。
「あ、いっぱい寝たから…、大丈夫」
「そうか」
「えっと、なので…。お話出来ます?」
「何故、疑問形になる。俺からここに来たんだ、お前は気を使うな」
そう言って、スッと芣婭に手を差し出してくれた。
これは、どう言う意味?
「きゃあっ、ギルベルト様がエスコート!?初めて見たわ!!芣婭さん、ギルベルト様の手を取って!!」
「エ、エスコート!?お、おん。し、失礼しま〜す…」
マダムに言われるがまま、恐る恐る差し出された手を掴んだ。
冷たくて大きな手が芣婭の手を包み込み、ゆっくりとテラステーブルが設置された場所まで向かう。
すっごく、ドキドキして来た。
異世界では、女の子をエスコートするのが当たり前みたいだけど…。
「ギルベルト様が、女の子をエスコートしてる所を初めてみましたよ。ね、団長もそうでしょ?」
「おい、ギルベルト様に失礼だろ」
芣婭達の後ろ歩いていたヒューズとコンラットの会話に耳に入る。
こんなにカッコイイ人が、芣婭にだけエスコートをしてくれたんだ…。
「あの…、聞いてもいいかな…」
「なんだ」
「どうして、芣婭の事をエスコートしてくれたの?」
「嫌っだか?」
ギルベルト君はそう言って、芣婭の顔を覗き込む。
ただ見つめられているだけなのに、ドキドキし過ぎて心臓が苦しい。
「嫌じゃない…よ?えっと、こーしゃくさまは嫌じゃない?」
「あぁ、ギルベルトで良い」
手慣れた手付きで椅子を引いてくれて、芣婭を座らせてくれた。
対面にギルベルト君が座ると、メイドさんがテーブルに豪華な昼食を並べて行く。
ケロちゃんとベロちゃんは、ローストビーフを見て目を輝かせている。
ふふ、可愛い。
「お肉、食べて良いよ?ケロちゃん、ベロちゃん」
「良いのか!?芣婭!!」
「うん、他のご飯も食べて良いよ?あ、苺は食べたい」
「何故、食事を取らないんですか?芣婭」
芣婭とベロちゃんの会話を聞いていたケロちゃんが、不思議そうな顔をして尋ねてきた。
「嫌いなのか」
「ん?」
「肉が嫌いなのか」
「ううん,嫌いじゃないよ?自分が作ったご飯じゃないと、食べられないの芣婭」
ギルベルト君の問いに答えながら、目の前の苺を摘む。
「理由を聞いても良い話か」
「え?良いけど、明るい話じゃないよ?」
「構わない」
まさかギルベルト君が、この話を広げて来るとは思っていなっかったから驚いた。
コンラットもヒューズも、ケロちゃんもベロちゃんも聞きたそうにしている。
「面白い話じゃないよ?あのね、芣婭のご飯にだけ虫とか、賞味期限切れの食材とかが使われてたの。お兄ちゃんとか、お父さんのご飯とかは普通だったの。だからね?芣婭、自分が作ったものしか食べられなくなっちゃって。せっかく、用意しれくれたのに、申し訳な…」
パリーンッ!!!
音のした方に視線を向けると、コンラットの手から血が流ているのが見えた。
足元のは粉々になったティーカップの破片が落ちている。
「ちょ!?団長!?手、手から血が出てますって!?」
「許せないな、君に心の傷を付けた母親が」
慌ててるヒューズを他所に、マジギレコンラットがご降臨されていた。
「ど、どうしようっ。あ、これって、ハンカチかな?コンラット、これ使って」
芣婭は慌てて、ハンカチ物らしきものをコンラットんい渡す。
足元にいるケロちゃん、ベロちゃんの体からも黒いオ
ーラが漂っている。
「名前は芣婭で合ってるか?」
「うん、芣婭で合ってるよ?」
「そうか、芣婭。俺も人の手作りが食べられない。理由は違うが、幼少期に毒が何回か盛られた事があった」
「ど、毒!?それって、つまりPoison!?あの言いたい事も言えないこの世の中じゃ、Poison♪青春ヤンキー教師ドラマ、G○Oも主題歌の中に出てくるあのPoison!?」
「ん?言っている事がよく分からないが、Poisonはあっている。俺も自分で作った料理しか食べられない」
そう言って、ギルベルト君は葡萄を口に運ぶ。
「安心しろ、芣婭。俺達が毒味してやるからな」
「俺達は毒に耐性がありますが、味は分かります。この料理達は大丈夫ですよ、変な味はしませんでしたから」
「え!?味見してくれたの?ありがとう、ベロちゃん、ケロちゃん」
芣婭は2人を抱き上げ、膝の上に乗せる。
「ギルベルト君は、料理も出来るって事だよね?上手そうだね」
「ギルベルト様の料理はかなり美味いよ、芣婭ちゃん♡俺達、騎士団もたまにご馳走してもらってるんだ」
「へー、そうなんだ。ヒューズは料理出来るの?」
「え!?か,簡単な物ならね!?」
芣婭の問い掛けに、ヒューズはタジタジしながら答えた。
「元の世界に帰りたいと思うか?芣婭」
「そうだなぁ…、お兄ちゃんや菜穂には会いたい…、けど。帰りたいかって言われたら、帰りたくないかも。高校を卒業したら、一人暮らしするつもりだったから。お母さんに怒られるのは、嫌だし…」
「そうか」
ギルベルト君は淡々と答え、紅茶を啜る。
芣婭の周りにも、付き合ってきた男の子達とは違うタイプだな。
お喋りじゃないし、愛想がないイケメン。
芣婭が付き合ってきたタイプは、お喋りでヤリラフィー系だったし。
「ギルベルト君って、いくつなの?」
「歳か?20歳だ」
「そうなんだ、芣婭より3歳もお兄さんだね」
「なら、君は17歳か…、見えないな」
そう言いながら、芣婭の事を見つめる。
太陽の光に反射された銀色の瞳が、すごく綺麗。
「どうした、俺の顔に何かついているか」
「ううん、綺麗な銀色の瞳だなって思って。宝石にみたいにキラキラしてるなーって。思って」
ギルベルト君の問いに答えた芣婭だが、芣婭の言葉を聞いたギルベルト君とコンラット、ヒューズは驚いた顔をしていた。
あれ?芣婭、おかしい事言ったかな?
「俺の目は、そんな綺麗なものじゃない。周囲からは気も悪がられていr、それは今も」
「え、マ?それって、妬みとかじゃないかな?」
「妬み?」
「うん、ギルベルト君のお目目が綺麗だから、羨ましーって、妬んでるんだよ。そんな事、言わなくて良いのにね」
芣婭の言葉を聞いたギルベルト君は、「そうか」と言って小さく笑った。
芣婭はそれが嬉しくて、ニヤニヤしながら苺を口に運んだ。
***
甘野家のリビングで、甘野佳代子が血塗れの甘野冬馬の姿を見て怯えていた。
「酷いな、母さん。ほら、父さんの所に連れて行ってあげるっからさ?」
そう言って、甘野冬馬は床に転がっていた甘野修造の髪を乱暴に掴み、甘野佳代子に顔を向ける。
甘野修造の口から、赤黒い血がドボドボと溢れ出ていた。
「い、いや、やめて冬馬さ…、ギャアアアア!!!」
ブンッ!!!
ズシャッ!!!
振り下ろされた包丁は甘野佳代子の動脈を切り裂き、噴き出し血が甘野冬馬の体に降り注ぐ。
「アハハハ!!お前等はもう、用済みだ。今まで、ご苦労だった」
甘野冬馬がそう呟いた瞬間、ピーンポーンっとインターホンが鳴り響く。
「来たな、次なる僕の駒が」
赤く染まった包丁を握りしめながら、甘野冬馬は玄関に向かって行った。