Secret Track 銀色に輝く月の光の中で男たちは思わぬ人物に出会う
そこは「魔王城」と呼ばれる場所。銀色の月の光の中、静かに歩く小さな影があった。
「……どうか、覚えていておくれ。きっと約束だよ――リナ。……シエル。ああ、ようやく君のところへ……」
そう呟いた”魔王”の動かなくなった身体の片隅にその小さな影、ぬいぐるみを抱えた少年がしゃがみ込んだ。
「君、全然大人になりきれないまま、自分から死のうとするけどさ。せめて、娘の未来くらい見届けたら?」
少年から発せられたものとは違う声が玉座の間に響く。
しばらくすると、静かな旋律とともに巨大な魔法陣が現れ、あたりが光に包まれる。
その光が収まった頃には、”魔王”と少年の姿は消えていた。
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そこは「フルールフェルト大聖堂」の地下深く。崩壊が続く中、静かに歩く小さな影があった。
「ユニ……もっと……お前と話したかった……。父親らしいこと、してやりたかった……ちくしょう……」
娘とその仲間たちを救うため、大男が異形の姿となったかつての上司との戦いに挑む。
娘への想いを語った男の後ろに、ぬいぐるみを抱えた少年が現れた。
「”役割”を全うするだけが人生じゃないって、君が一番知ってたはずなのにねぇ」
少年から発せられたものとは違う声が崩壊していく遺跡に響く。
そして、神々しい旋律とともに巨大な魔法陣が現れ、あたりが光に包まれる。
その光が収まった頃には、大男と少年の姿は消え、“大司教だった者”が灰となって残されていた。
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大男――アリスタルコはベッドに寝かされていた。手厚い治療がされているが、アリスタルコは身体を動かせない。
「……ここは……?」
その声に気がついた別の男が話しかける。かつて、”魔王”と呼ばれた男カーネルだ。
「気がついたかね? 君はラルヴァンダードとの戦い一度死んだ。その後、彼に救われ、今ここにいる」
「ッツ……。お前は……カーネル?!」
アリスタルコは驚きを隠せない。それはそうだ。十年前に“勇者”に討たれて死んだ男が目の前にいるだのだから。
「なるほど。ここは天国、あるいは地獄か?」
「当然の反応だな。だが、私達が考える死とは少し違う場所らしい。」
カーネルはそういってくまのぬいぐるみを見るように促す。
「やぁ。どうだい? 一度死んじゃった気分は。……ああ。驚かせてごめんね。僕は……そう。君の目の前にいる――そう。そのくまのぬいぐるみが喋っているんだ。僕のことはくまちゃんと呼んでいいよ。さんはつけないでね」
「はぁ? どういうことだ? カーネル。お前の腹話術か?」
「落ち着け。アリスタルコ。信じられんだろうが、かつてこの国にいた“大魔法使い”。その本人だそうだ。その知識や技術は底が知れん」
「僕はずっと魔法の真髄を求めているんだけど、それには悠久の時間が必要なんだよね。でも、残念ながら人間は老いて、死ぬ。とてもじゃないけど、人間の寿命なんかじゃ足りないんだよね。そこで、僕は自分の魂を写し取ることにしたんだ。ところが、ちょっとしたアクシデントがあってね。手近にあったこのぬいぐるみに写すことになっちゃったんだ。それ以来、この姿ってわけ」
「……物に魂を固定……?まさか、ラルヴァンダードの言っていた、ゼーレン魔法……?」
「お。いいね。勘のいいガキは嫌いじゃないよ? そんなところだね。とは言え……。この姿には不便なこともあってね。そこで……少年。頼むよ」
いつの間にかそこにいた少年がくまちゃんを抱え、くまちゃんに身振り手振りをさせ始めた。
「こうやって、少年にジェスチャーをさせるんだ。どう? 愛らしいでしょう?」
アリスタルコはあまりのことにあんぐりと口を空けている。
「さて。それじゃ、本題に入るね。オルデン魔法は神王国でよく使われている魔法だよね。でも、これとは別の魔法体系があるんだ。それが――」
「古代遺跡で書かれているゼーレン魔法だな」
カーネルがそう答えると、くまちゃんは大げさなジェスチャーをして見せる。
「そう! 神王国では言葉を話すのは人類しかいないけど、この世界には人類以外の言葉を使う者たちがいるんだ。彼らは僕たちが使う魔法の構文よりももっと古い別の構文を使うんだ。それがゼーレン魔法。ラルヴァンダードもそれの研究はしていたのだけど……馬鹿に使いこなせるものではないね」
くまちゃんは、このあとこの国の歴史と魔法の成り立ちについて説明していった。
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「と、言うわけで、知りすぎてしまった僕は教団には追われているんだ。ま、教団も僕がこぉんな可愛いぬいぐるみの中に入っているとは思わないだろうけどね。そこで……」
「……つまり、俺に協力しろと?」
「イグザクトリー! そのとおり」
「……?」
「む……。若者の間で流行っていると聞いたのだけど、滑ったか。まぁ、良いや。協力、とはいっても雑用係だよ。それに、娘に会いたいだろ? ここにいれば情報が来るよ。なんせ弟子から僕のところに定期報告はあるからね」
「……カッコワリィことになりゃしないか?」
「その感覚、僕にはわからないけど、拾った命で”役割”をちゃんと生き抜けば、娘から見ても、カッコいい父親なんじゃない?」
「……わかった。協力させてもらう」
「ただ、君が生きているということが教団に――特にメルキオールやバルダザールに知られるとちょっと面倒でね。君にはおつかいをお願いすることもあると思うけど、外にであるときはこの仮面をつけてね」
「!」
そういって少年に仮面を持って越させる。特徴的な仮面はかえって目立ちそうだ。
「これをつけて出歩けってのか……」
アリタルコは躊躇しているが、くまちゃんはお構いなしに話を続ける。
「それから、教団の他にも、気をつけてもらいたいのは他にもいるんだ。まず、ズナーメン王冠領の女王ノエルミナ。通称“姫様”。妙に勘が鋭くてね。時々、ここ――クロイツフェルトにお忍びで来るんだけど、ぬいぐるみの姿の僕と目が合うことがあるんだ。バレていないと思うけど気をつけて欲しい」
「それから、“帽子屋”。他にもみたいだけど、彼らは”秩序”の外側にいてね。神出鬼没だし、まったく行動が読めないんだ」
「……お前も敵が多いんだな」
「長く生きていると、色々とね。というわけで、君にも外に出るときにはこの仮面をつけてもらう」
そういって少年に仮面を持って来させる。
「……。こんなのつけてたら目立つじゃないか?」
こうして、カーネル、アリスタルコは、くまちゃんと一緒にクロイツフェルトで過ごすことになった。
娘たちは、自分たちの父親が生かされていることをまだ知らない。彼らが再会するのはまた別の機会となる。
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くまちゃんを抱えた少年がこちらに振り返る。
「さてさて、この先どうなるか、君も気になるよね? だけどそれはまた別の話――ってやつだよ。気に入ったらいいねと登録を――って違うか」
少年はニヤリと笑い、くまちゃんを抱えて部屋を出ていった。
以上で完結になります!
ここまでご覧いただいた方、ありがとうございました!
リナたちの物語はまだまだあるのですが、一旦ここで区切っています。
もう少し読みやすくできるよう修行します。。




