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エピローグ “役割”を見つけた者たちは自らの道を歩み始める

 崩壊したフルールフェルト大聖堂の外。

 灰色の空の下、ビッグスは肩をすくめて、ひとりの男に報告していた。


「いやぁ、今回はマジで危なかった。命張ったんだから、報酬は弾んでくれよ。ラルヴァンダードはアリスタルコが止めたみただが、最期は……見てない。とはいえ、あの崩れっぷりじゃ、助かってるとは思えねぇな」


 男――ニカノールは、目を閉じて静かに頷いた。


「……了解しました。“秩序”の維持には無用な研究でしたが、実験データは惜しいですが、ラルヴァンダード卿のような輩を削除できたことは良しとしましょう。……ご苦労さまでした」


 彼はすぐに、上層部へ報告を上げる。

 宛先は――“トリシア大司教”メルキオール。


 ・


 数日後――。

 テルミンタール自由伯領。


 あたしは、新たな“領主”としての任を受けていた。

 トリシア大司教のメルキオールさんが、成人もしていないあたしの“後見人”になってくれた上、昔、お父様の元で働いていた人たちを集めてくれた。

 結果としては、基本的にはあたしたちは自由にしていて良いらしい。お父様の想いも調べて回って良いそうだ。

 マティアは、メルキオールさんはその影響力を帝国内に広げたい狙いがあるんだろうと言っていたけど、あたしはそんなことどうでもいい。

 あたしはまだ、政治のことなんてよくわからない。でも――。

 「ここで生きていく」って決めたから。それだけで、十分だった。

 

「……ただいま」


 あたしは静かに呟いた。誰にともなく。それでも確かに、ここは、帰るべき場所だった。ようやく帰ってこられた。

 ここで、お父様の残してくれたものを調べよう。

 

 ユニには、“執事”になってもらった。ユニは、与えられた“役割”と自分の選んだ“役割”とで揺れていた。

 でも、あたしの隣に立つことを選んでくれた。あの子の選んだ“役割”がここにあるなら、きっと守ってくれる。今度も、ちゃんと信じられる。

 テルミンタールの“秩序”のために、働いてくれるだろう。

 〈炎衣〉はあの薬を飲まないと出せないらしいけど、あの薬はもうないし、出す必要もないだろう。


 シラは、お父様の研究室にあった資料の研究をしたいと言い出し、拠点をベルグシュタットに移した。

「トリシア魔法研究所魔法工学研究分室ベルグシュタット別室」だそうだ。もうわけがわからない。自由すぎる……。

 そんなシラのもとに、メルキオールさんの“執事”ニカノールさんが訪ねてきた。

 

「シラさん? 別室はメルキオール様が認めているので、仕方ありませんが、今回の件、成果をレポートにまとめてもらわないと困ります。いつ提出するつもりですか?」

「んー? 来月かな?」

「では、ベルグシュタットに正式に移ってくるのはいつですか?」

「来週だね?」

「……私としても小言は言いたくないんですが……。念の為聞きますが、『レポートを書きたくないから、ベルグシュタットに逃げて来ようとしている』わけではないですよね?」

「……君のような勘の良いガキは嫌いだよ」


 そういってシラは走って逃げていってしまった。

 その後、ニカノールさんはめちゃくちゃ嫌そうな顔をしていたが、それでも強引に要求を通してしまった。ああいう強さは見習わないとだ。

 彼女の知識と探究心は、まだまだ終わらない。


 マティアは、旅に出た。世話になった人への挨拶が終わってないと言っていた。彼も失った時間は長い。

 渡り人の民(リンドバーグ)のマーキュリー一団(ノーツ)のみんなと一緒に国内を回るんだそうだ。

 マティアはもともと一箇所に拠点を持たない渡り人の民(リンドバーグ)。自由気ままに、自分の“役割”を探すつもりなのだろう。

 彼も失った時間は長い。

 

「……これから、ちゃんとお礼を言って回るよ」


 マティアはそう言って笑ってた。

 あの人も、取りこぼした時間を取り戻したいんだと思う。


 ・


 最近、“帽子屋”が城に訪ねてきた。この人はいつも唐突に現れる。


「どうですか? 最近は。ずいぶんと晴れやかな顔をしていらっしゃる」

「日記を見てわかったの。お父様は信じてくれていた。きっと出来ると。だからもう私は迷わない。あたしは自由に生きることにしたの」

「そうですか。あなたの選んだ“役割”が、この世界を少し変えるかもしれませんね」

「あたしはあたしの夢のために。明日を信じて飛び続けるんだ」

 

 あたしが見上げた青空に、小さな鳥が羽ばたいていた。


(見ていてね、おとうさま――)


 こうして“魔王の娘”だった少女は、“自由を手にしたリナ”として、新たな空へと羽ばたいていった。


 ・


 そして、ひとり“帽子屋”は呟く。

 

 「これから、面白いことになりそうですね。おっと。そうだ。このカーネル氏の形見のペンダントはリナさんに返すのを忘れていました」

 

 そう呟きながら、“帽子屋”は懐からひとつのペンダントを取り出した。


 「……さて……この物語の続きは、誰に渡しましょうかねぇ」

 

 ペンダントを見つめながら、“帽子屋”は笑っていた。

――次回最終話「Secret Track 銀色に輝く月の光の中で男たちは思わぬ人物に出会う」

2025年08月23日 21時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/49

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