リナたちは長い時間の中で諦めずに戦い続ける
――あたしたちは、戦ってる。お父様の遺したペンダントを魔法陣の核に使って、攻撃してくるラルヴァンダードを止めるために。
ラルヴァンダード。あの化け物は……もう人の形すらしてない。膨れ上がった身体は金属と肉がぐちゃぐちゃに絡み合って、天井にぶつかるほどで、まともに魔法が通じるとも思えない。
でも──。
「ユニ、今! 左脚、凍らせる!」
「了解っ、次はあたしの炎ね!」
あたしの〈氷刃〉が黒く光る脚を凍らせて、すぐさまユニの炎が焼き尽くす。それを、アリスタルコとマティアが叩く。その繰り返し。どれくらい繰り返しただろう。長い時間を書けて、少しずつ、少しずつ削っていく。
ギギギィ……。
軋んだ音とともに、金属の脚に亀裂が入る。
交互に、熱と冷気で攻撃する。何度も、何度も。熱膨張と冷却収縮。相反する力で、アイツの身体は少しずつ……崩れていく。
「愚かな……! 我が身は滅びぬッ……永遠に成長し続けるのだぁあああ!」
叫びながら、ラルヴァンダードの身体がまた肥大化する。ひび割れた場所から、不気味な魔力が滲み出て、周囲の空間すら歪めていく。
そして――。
「ふははは! この姿は相性が悪いようだ。別の力ならどうかな?」
ラルヴァンダードが再び奇妙な構えをする。すると、ヒビから魔力は漏れ出るが、何も起こらない。
「リナ! 今だ!」
あたしは、渾身の力で〈氷刃〉でラルヴァンダードの体を貫いた。氷の冷たい空気がラルヴァンダードの体に広がる。
「ぎぃやぁぁぁぁーーーー冷たいぃいぃ! おのれ。オノレぇぇぇ! 何故だ。ナゼだ! 何故だぁァ!」
ラルヴァンダードの叫び声と共にホールの柱を破壊した。
天井が──崩れる。
気絶していたシラが目を覚まして叫ぶ。
「限界越えた! 因果律がもう……まるっきり破綻してる! あれ、オルデン魔法でも、ゼーレン魔法でもない……化け物だよ!」
……このままだと、あたしたちだけじゃない。ここにいる全員、瓦礫の下敷きになってしまう。
その時――アリスタルコがあたしたちに突進してきた。あたしたちは全員扉の外まで吹き飛ばされる。
そして、アリスタルコは全体重をかけて重たい鋼の扉を引き寄せた。内部からガチャンと錠を掛ける音が響く。
「あとは……俺が引き受ける。お前たちは――行け!!」
「逃さん! 逃サんぞォ!」
ラルヴァンダードの咆哮と崩落の唸りの中、皆が言葉を失って固く閉ざされた扉を見つめていた。
扉の向こうから、アリスタルコの声が聞こえてくる。
「シラ! お前の魔法、すごかったぜ。ちったぁ女らしくして彼氏のひとりも作りな!」
「……バ、バカ……!」
「マティア! さすが元“勇者”だ。……いつか一対一でやってみたかったぜ!」
「アリスタルコ……!」
「リナ! お前の父ちゃん、強かったぜ。お前はいつか、あの人を超えるかもな」
「……え? お父様を、知ってるの……!? どうしてそれを、今……?」
「昔、一度だけ剣を交えたことがある。負けちまったがな……あれが最後だった。お前と似てたな、目の色が」
一瞬、心が揺らぐ。
「そして、ユニ……ユニ。……ごめんな。俺ぁバカだからよ……。こんな時にな、何て言っていいか、わかんねぇんだ。ただ……優しい子になってくれて、ありがとう」
ユニの目が見開かれ、張り詰めていた表情が崩れる。
「……お父さん……!」
その声に、アリスタルコはわずかに微笑んだ……ような気がする。
ゴゴゴゴゴ――。
あの遺跡と同じ。天井が崩れそうだ。
地下遺跡の崩落が始まり、奇妙な紅い閃光が空間を引き裂く。地鳴りが大きくなっていく。
「十何年ぶりに再会した娘と、その仲間たちを助けられるなんてよ……こんなカッコいいシーン、二度とねぇだろ……。雪山の借り、カッコよく返させろ……」
「早く行け……俺の犠牲を、無駄にする気か……!」
「すまない……。ありがとう」
あたしたちは言葉が出ない。
「この“秩序”は間違ってない! 私は正シいッ! 正しぃノだぁぁァあアァぁぁ!!!」
ラルヴァンダードの叫び声が聞こえる。
「もう。逃げたよな? よし」
「ユニ……もっと……お前と話したかった……。父親らしいこと、してやりたかった……ちくしょう……」
その言葉は、閉ざされた扉の向こうへ吸い込まれていった。崩れる音にかき消されるように……。
あたしは、何かを言おうとしたけど、何も言えなかった。ユニはその場に膝をつき、手を口元に当てて、声を殺して泣いた。
こうして、アリスタルコの犠牲により、あたしたちは崩落を免れ、道を継いだ。
――次回「ep47.リナは暗闇の絶望の中で光を見つける」
2025年08月23日 06時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/47




