ラルヴァンダードは自ら手に入れた力を試す
あたしたちは、ユニを追って階下に向かう。そこは大聖堂の地下というより、ラコナの遺跡のような雰囲気のようだ。何故大聖堂の地下にこんなところが――。
そして、不思議な明かりが続く廊下の先、大きなホールに行き着いた。
そこには、巨大な庭園水晶と碑文、そして床には奇妙な魔方陣が描かれている。
その中心に黒いローブを纏った男がいた。ラルヴァンダードだ。
「やれやれ。結局、ここまで侵入を許してしまったか。使えん奴らだ。私が、バルタザールやメルキールの後塵を帰すのは部下に恵まれぬからだな。そうは思わんかね。“魔王の娘”よ」
「ラルヴァンダード……ユニはどこ?」
「ユニ? ああ、あの娘か。“秩序”のために、実に忠実に働いてくれる。何より父親に似て実にタフだ。私が力を得るための様々な実験によく耐えてくれる。これまで、いくつも駄目にしてしまってきていたが、よく持ってくれている」
「実験? ここで何の実験をしているっていうの? 見慣れない魔法陣だけど……」
「さすがの“天才魔法少女”シラでも、ゼーレン魔法のことは知らんと見えるな。この力は素晴らしい。これがあれば、バルタザールやメルキールなぞ目ではない。教皇様やカスパール様もお認めくださる。いや、ウィン教皇やカスパールも相手にはならぬ。この国は私のものだ」
「? 何を言っている?」
「“勇者”マティアよ。理解の範疇外か? この国の“秩序”は教団が“恩寵”決めている。カーネルが“魔王”となったのも、お前の“勇者”となったのも、教団が“役割”を与えたからだ。教団は“秩序”を維持するために、国民に“役割”を与える。それによって国民は“役割”を果たす。では、“役割”はどうやって決める?」
「え。神様から啓示が下るんじゃないの?」
「おとぎ話がすぎるな。“魔王の娘”よ。“役割”を決めるのは三大司教だよ。この三人が教皇から賜ったと称して“恩寵”を与えているにすぎん」
「え。そんな……。じゃあ、その三人の意思が“秩序”ってこと?」
「メルキオール様ってそんなに偉かったんだ……」
「学者風情が偉そうにしおって……。奴は魔法の研究に力を入れ、教団の中での力を増しているが、ねんがんの“これ”を手に入れた私の力はそれ以上だ。神王国で使われているものとは一味違うぞ? なんせ『魔法を物質に固定』できるからな。これがあれば、どんなことでもできる。いつまでも消えない松明、いつでも補給できる水、傷ついてもすぐに回復する兵士、そして、強力な魔法を使える兵器……。この力があれば、私は“神”にもなれる。いや、“正しい魔王”か。アリスタルコも、ユストも使いものにならぬ。しかし、お前たちは優秀だ。“勇者”に“魔王の娘”に“天才魔法少女”。肩書も申し分ない。『お前たちが私の“執事”になるというのなら、世界の半分をお前たちにやろう。どうだ? 私の“執事”にならぬか?』」
「は? 何を言っている?」
「そうよ! 私達は世界がどうとか興味ない! ユニを返して!」
「やれやれ。言ってもわからぬ馬鹿ばかり。ちょうどいい。少々性能実験をするとしよう」
そういうとラルヴァンダードはポケットから、あたしのペンダントを取り出し、魔法陣の真ん中で奇妙な構えをはじめた。
「あたしのペンダント……! 何故あなたが?」
「ふふ。これは、“魔王”の力を得るためのヒュレーなのだろう? お前の父親のノートに書いてあったぞ? ゼーレン魔法にはヒュレーが必要なのだと。そのヒュレーとはこの庭園水晶のペンダントに違いない。だからお前は“魔王”の力を取り戻すために探していたのだろう? “魔王の娘”リナよ。この魔法陣には、成長と再生が記されているのだ!」
そういうと魔法陣が輝き始め、ラルヴァンダードを包み始める。
「ははは。素晴らしい。見よ。身体の中に力が注がれていくようだ」
ラルヴァンダードの身体に光が入り、その姿が若返っていくようにも見える。
「何あれ……。因果律から言って絶対におかしいよ。閉じてない。あの魔法陣も見たこと無いし、言語も散漫で意味不明」
「ははは。なんとでも言うが良い。この力は試させてもらうぞ!」
ラルヴァンダードの身体が光に包まれ、全身から魔力が溢れ上がっていく。黒黒と鉄のような色にその姿を変えた。
「ふはははは……これが、ゼーレン魔法の力……!」
ドォンッ――! 次の瞬間、爆風が走り、あたしとマティアは吹き飛ばされ、シラがギリギリで〈爆衝防壁〉を張る。
「くっ……チートすぎるでしょ……あれ……!」
その時、煙の奥から足音が響く。
「ごめん! 遅くなった!」
「ユニ……!」
現れたのは、ボロボロの姿のユニ。髪は乱れ、服もところどころ裂けている。だが、その瞳には確かな意志が宿っていた。
「リナ。遅れてごめん。……私、やっぱり、リナと一緒にいたい!」
「え。本当? 本当に本当? 戻ってきてくれるの?」
「うん。色々考えたんだ。ずっと、私は“役割”として監視するためにリナの横にいた。でも、私の心は、“親友”としてリナの横にいたいよ」
「ユニ……」
そういうユニは全身に炎を宿していた。
「それって……」
「えへへ。リナの〈氷刃〉みたいだよね。ラルヴァンダード様の、ううん、ラルヴァンダードの実験で私は炎をまとえるようになったんだ。〈炎衣〉ってところかな……」
そういってユニはクロスボウを放つ。すると、炎を帯びた矢が線を引くように飛び、ラルヴァンダードの腕に直撃する。キンという金属音とともに、火花が散り、彼の動きが一瞬止まる。
「スヴァローグ気取りか……。お前……これまでの恩を仇で返すのか?」
「……。私は、私が決めた“役割”を果たしたいんです。私の“親友”がピンチなのを放っておけません」
「ふん。ならば、ふさわしい相手を見せてやろう」
ラルヴァンダードが振り返り、檻に向けて魔法を放つ。鉄格子が爆ぜ、そこから巨大な狼が現れた。
――次回「ep45.フェンリルは自らの獲物を見つけ品定めをする」
2025年08月22日 17時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/45




