表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/49

ユニは自らの心のままに従うために戦いを選ぶ

 階段を降りてっていくと、途中の踊り場で扉の開いた部屋を見つけた。


「ねぇ、この部屋……ちょっと気になる」

「あ? 何かあんのか?」

「うん、なんとなく……」


 導かれるように中へ入る。古びた石の部屋の奥には、木の棚。そこには整然と書物が並んでいて、机の上には一冊のノートがぽつんと置かれていた。

 あたしは、それをそっと手に取る。パラパラとめくると、見たことのない言語の文章と翻訳っぽい書き込みが並んでいた。


「シラ、これ……!」

「えっ、うそ……!? これって、遺跡の碑文と同じ……!?」


 シラが目を輝かせてノートに飛びつく。ページには、こう書かれていた。


 ***

 フルールフェルトにも碑文があった。ラルヴァンダードは是非見ていってくれと快く見せてくれた。ありがたい。

 重要と思われる箇所を翻訳する。

 

【フルールフェルト碑文】

 Quid ergo dicitur?

 では、何と言われているか。

 «Kosmos prope te est, in ore tuo et in corde tuo.»

 「(コスモス)はあなたの近くにあり、あなたの口、あなたの心にある」

 Hoc est kosmos fidei, quem praedicamus.

 これは、私たちが宣べ伝えている信仰の秩序(コスモス)のことだ。

 Si ore tuo officium tibi datum publice agnoveris, et corde tuo credideris hoc esse verum, salvus eris.

 自分の口で、自分に与えられた役割を公に認め、心でそれが真実であると信じるなら、あなたは救われる。

 Corde enim creditur ad iustitiam, ore autem fit confessio ad salutem.

 人は心で信じて義とされ、口で公に言って救われるのだ。

 Sacramentum autem hoc revelat: «Omnis qui credit in eum, non confundetur.»

 この恩寵はこう示している:「彼を信じる者は、だれも失望することがない」

 Idem Kosmos est kosmos omnium, dives in omnes qui invocant eum.

 同じ(コスモス)がすべての人の秩序(コスモス)であり、御自身を呼び求めるすべての人に豊かに恵みをお与えになるからだ。

 «Omnis qui officium sibi datum implet, salvus erit.»

 「与えられた役割を務める者はだれでも救われる」のだ。


 「役割は誰かに与えられる」そして、「それで救われる」とある。仮説は正しいようだ。これは教団の考え方にも合致する。シエルの話では彼女の故郷のズナーメンにも碑文があるらしい。私が“魔王”とされてしまうまで時間がない。是非見てみたい。

 ***


「この翻訳……見覚えある文字……、『私が“魔王”とされてしまうまで時間がない』、それに、『シエルの話では彼女の故郷のズナーメン』……これ、お父様が書いたもの……?」

「持って帰っていいよね!? ね!? バレないよね!? 翻訳つきとか超貴重じゃん!」


 シラがテンションMAXで盛り上がっていたそのとき――静かに、声がした。


「リナ……シラ……それ、持って帰っていいよ。でも……このまま帰ろう?」


 この聞き覚えのある声。


 ――ユニだった。


「ユニ!? よかった、無事で……! 連れてこられたんだよね? 信じてたよ!」

「……ごめん」

「えっ……? 何が……あたしたちが迎えに来たこと?」

「……ごめん」

「ユニ、ペンダントを持ってここに来たのには理由があるんだよね?」

「……私には、果たすべき“役割”があるの」


 その表情は泣きそうで、でもどこか決意に満ちていた。


「あなたたちが、このまま帰ってくれれば、『私は待っていたけど、ここにはあなたたちが来なかった』とラルヴァンダード様に報告します。しかし、この先に進み、ラルヴァンダード様の邪魔をするというのなら、私は私の“役割”を果たさなければなりません」

「なんで……」

「それが私に与えられた“役割”だからです」


 ユニの言葉は業務的で冷たい。あたしと一緒にいた、屈託がなく、優しいユニの口調とはまるで違う。


「どうしますか?」

「じゃ、じゃあ、ユニ。あたしたちと一緒に帰ろ? ペンダントはいらない。ラルヴァンダードにも関わらない。あたしたちと一緒に、ここから帰ろ?」

「……リナ。お父さんのペンダントより、私を優先してくれるんだね。ありがとう。でも、ダメ。それは“秩序”を乱すことだから」

「リナ。ユニは洗脳されているのかも……。そうなるとちょっとやそっとじゃ連れ帰れないよ」

「ユニ。嘘だよね? 一緒に帰ろ?」

「埒があきませんね……。私は、“親友”であることにこだわりすぎました。私の“役割”の本質は、弱い人たちのために“秩序”を守ること。リナ。あなたは“魔王”の力を自分のために使う。でも、ラルヴァンダード様は“魔王”の力を弱い人のために使ってくださいます」


 そういってユニはユストが使っていた紫色の錠剤を取り出し飲み込んだ。


「さあ、始めましょうか」


 見た目に変化はない。でも、あたしの胸が騒いだ。


「ユニは、本当は戦いたくないだけだよね……? お願い、やめて……!」

 錠剤を飲み込んだユニには、ユストとは異なり、大きな変化は見られない。


「……それ、大丈夫なの?」


 シラが息を呑む。


「ユニは本当は戦いたくないだけだから! みんな、怪我をさせないで……!」


 あたしの声は、ユニにはもう届いていない。


「私は、“秩序”を守るため、ここにいます。“秩序”を乱す者には全力をもって対処します」


 冷たく告げた瞬間、短剣を抜いたユニの姿がぼやける。


 ――速い!


 次の瞬間、床が爆ぜ、あたしの目の前にいたはずのユニが、マティアの背後に一閃を放っていた。だが、その一撃は寸でのところでマティアの剣によって防がれる。


「っ……! 本気で来る気か……!」

「反応できるのは凄いよ……あれ、身体能力そのものが強化されてる!」


 シラが即座に補助魔法を展開する。


「〈枝盾障壁(ブランブルバリア)〉!」


 大量の枝が現れて壁を作る。しかし、ユニは得意の短剣でそれを切り裂き、短剣とクロスボウであたしたちを攻撃してくる。その動きは素早く、魔法では捉えられない。


「俺たちが知ってるユニじゃない! 早すぎる!」

「……あたしはユニを止める! 薬も“役割”も関係ない! ユニは“あたしの親友”なんだから!」


 そう叫ぶあたしにユニが斬りかかってきた。


「リナ。リナは“役割”に囚われなくていいよ。私は私の“役割”を生きる。でも、リナはリナの“役割”を生きて」

「そうさせてもらうよ! あたしの“役割”は“ユニの親友”! あたしの横にはいつもユニにいてもらわなきゃダメなの。帰ってきて? ね?」

「あなたはいつもそうやって! 私が“役割”であなたを監視しているだけなのに! あなたの大切なペンダントを盗んで、こうして戦っているのに! どうしてあなたはそんな私をいつまでも“親友”だと言うの!」

「ユニ……」

「……もういい。わかった」

 

 ユニが突進してくる。その一閃一閃がこれまでのものとは違う。これがユニの本気なんだ。


「ユニ! “役割”ってそんなに大事なものなの?! ずっと一緒にいたあたしよりも?」

「だから! あなたと一緒にいたのは、私の“役割”のためだったと言っているでしょう?」

「そうじゃなくて! 教団に与えられた“役割”じゃなくて、あたしはユニが“役割”を選ぶことが大事なんだよ!」


 ユニの攻撃が止まらない――。ユニの動きは鋭く、あたしたち三人がかりでも簡単には止められない。だが、その動きのどこかに――ほんのわずかに迷いがあるのを、あたしは見逃さなかった。


「ユニ……! “役割”に生きるのがあなたの正しさなら、それでいい。でも、“役割”は、誰かに一方的に与えられるものじゃない。自分で選ぶものだよ!」


 あたしは、ユニの動きを封じるために、前に出る。


「“秩序”って、誰が決めるの? “役割”って、誰が与えるの? 教団? ラルヴァンダード? それとも、自分? 『あたしたちは、涙の数だけ強くなれるんだよ』って言っていたよね。あの時、『ああ、ユニもたくさん涙を流してきたんだろうな』って思ったよ。そんなあたしたちはずっとに一緒にいた。ずっと強くなったんだよ」


 ユニの短剣が、あたしの首元に迫る――でも、止まった。その切っ先は小刻みに震えている。


「……リナ……。それ以上、言わないで」


 その顔は、泣きそうだった。


「ユニの“役割”は、あたしの監視だった。でも、ユニはあたしと親友になるって“役割”を自分で選んだんだ。それが本当のユニの心なんじゃないの?」

「『“リナの親友”であること』が、与えられた“役割”じゃなくて、『自分で選んだこと』だったなら、私は……私は――!」


 その瞬間、リナはユニの手を握る。


「選んでよ。自分の心の“秩序”に従って。――ねぇ、ユニ。“親友”ってそういうことでしょ?」


 ――ユニの身体が震える。視界が揺れる。


「私は……私は……っ! どうしたら!!」


 ユニは、そう叫んで部屋から出ていった。あたしたちもすぐに後を追ったが、姿を見失ってしまった。

――次回「ep44.ラルヴァンダードは自ら手に入れた力を試す」

2025年08月22日 06時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/44

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ