院長は自らの欲望に忠実にその力を誇示する
「ついに……ついに捉えたぞ! ”魔王の娘”、”勇者”、”魔法少女”……このクロパスの手で!」
「……クロパス。あたしが十年もいた修道院の、院長の名前。今、初めて聞いたかも……」
「えっ……リナ、名前知らなかったの?」
「いや……みんな“院長”って呼ぶから……」
「マジで? ぷぷぷ。かわいそ……誰にも覚えてもらえてないとか、終わってる」
「やめろシラ! 挑発するな!」
「ふふふ。なんとでも言うが良い。無駄だよ。好きに言うがいいさ。お前たちは私が完全に拘束している」
そういってクロパスはあたしを舐めるように見る。
「お前は観察対象だったからな……。これまで何もしてきていないが……」
クロパスは独特な手つきであたしの体を触る。ゾクゾクして気持ち悪い。
「辞めろ! 何をする気だ!」
「ふふふ。”勇者”、いや、”元勇者”マティアよ。俺はフィレモンの報告書にも目を通している。お前が魔王討伐で実は何もしていないことも知っているぞ。バルナバやデマス、テモテ、そして、そのシラにキャリーされただけ。お前はただの渡り鳥の民にすぎん。”役割”のないお前にできることなど何も無い」
「……」
マティアは黙ってしまった。
「……そんなことない! マティアはお父様――”魔王”を死なせてしまったことをずっと後悔してた。それで色んなところで人の役に立って、それでも名乗らなくて。そうして、色んな人が”勇者”に助けられてる。それに、マティアを殺そうとしていたあたしと一緒に、お父様の想いを探す旅をしてくれた。マティアは”勇者”の”役割”をちゃんと果たしているよ!」
「リナ……」
「……そんなものは”役割”とは言わん。”役割”とは教団が”秩序”のために与えるもの。教団が与えていない”役割”など”役割”ではない」
「違う! 誰かが喜んでくれれば、それは”役割”だよ!」
あたしの熱い感情とは裏腹に、体の中でなにか冷たいものが駆け巡るのを感じた。そして、それはあたしを捕らえていた植物も凍らせた。あたしが少し動くと、すぐにそれは粉々に砕け散った。
「これは……なにこれ……冷たい……でも、力が湧いてくる……〈氷刃〉……?」
それは剣だけではなく、あたしたちを拘束していた植物を凍らせ、砕いた。
「そ、そんな馬鹿な……。魔王の力の源泉はあのペンダントではないのか……? ま、まぁ、良い。これを手に入れれば、ますます俺の手柄が増えるというもの! 〈蔦鞭連打〉!」
「そうはさせないよ! 〈重爆震撃〉ッ!」
「魔法だけじゃないよ!」
シラの魔法とマティアの剣、そしてあたしの〈氷刃〉でクロパスを追い詰めていく。
「く、くそ……。こんなはずでは……」
そういうクロパスの手には、小さな銀の瓶があった。クロパスはそれを一気に飲み干した。
「ぐうぅぅ! かぁぁぁ!」
あの瓶の中身を飲んで、苦しんでいるように見えるがしばらくすると静かになり――。
「この感覚……実に馴染むぞ。ククク……これが、話に聞く『最高にハイって奴』だな?」
顔は紅潮し、血管が浮き出し、筋肉が増強されている。瞳孔が開き、充血した目は明らかに常軌を逸している。
「喰らえ、“魔王の娘”よ! 〈巨樹轟砕〉!」
巨大な大樹が現れ、あたしたちに襲いかかる。
「そうはさせない! 〈炎獄奔流〉!」
ズズーン――。
巨大な大樹が燃えており、あたりは火の海だ。これではクロパスも迂闊に近づけないだろう。
――と、マティアとシラが何やら話している。
「そのアイデア。面白そうだね! やってみよう! リナ、どいてどいてー! 〈鋼貼盾〉! 〈鋼貼盾〉!」
「え……。何を?」
「さっき、クロパスの服の飾りの金属板が光ったろ? あれを見て、大昔の有名な“数学者”が使った作戦ってのをセルディガで“漁師”の奥さんたちに聞いてね。それをここでやってみる。準備ができたら、俺のところまでクロパスの奴を誘導してくれ」
「? うん。わかった」
そう話していると、火の中からクロパスが現れた。
「この間に逃げなかったのは褒めてやろう。リナよ。しかし、このクロパス様に逆らう者は誰であろうと許さん」
「い、院長先生。あたしはあたしの道を行くよ。ユニと一緒に」
「ユニと一緒に? はっはっは。笑わせてくれる。ユニはラルヴァンダード様とともに、新たな力を得る準備をしている。お前と一緒に行くことなどありえない」
「院長先生に何がわかるの? ユニは話せばきっとわかってくれる!」
「お前は大人しく俺の言うことを聞けば良いのだ。〈種刺弾〉! これであれば凍らせることはできまい?」
植物の種子が大量に撃ち込まれてくる。
「やはり量はすべてを凌駕する! 量が全てなのだ!」
あたしは、クロパスの攻撃をかわしつつ、斬りかかりながら、マティアの待つ場所までクロパスを誘導していく。そして、その場所に来た時――。
「今だ! シラ!」
「はーい。〈枝鋭断撃〉! 木属性魔法は、あなたの専売特許じゃないよ♪」
シラの〈枝鋭断撃〉がクロパスを拘束する。
「これが何だと言うのだ……なんだこれは、まぶし……熱……?」
「えっへっへっ。なんだと思う?」
「お前の好きな『量』だよ。大量の光はどうだい? クロパス」
周りにある大量の金属の盾が太陽の光を反射し、そのすべてがある一点に収束する。そう、マティアの指定した場所。今はクロパスがいる場所。灼熱の閃光が黒い服を着たクロパスを包む。
「があああああああああっ……!!! 私は……私は……“執事”に……なれる……だったのに……!」
まるで太陽のような爆光の中で、クロパスは苦悶の声をあげ、崩れ落ちる。衣服は焼け焦げ、膨れ上がった肉体も萎びていく。立ち上がろうとした彼の手が、虚空を掴んだまま、止まった。
「通称”数学者の熱光線”。まさか、これほどの威力とは。院長はやたらと”量”にこだわっていたが、大量の金属の反射に敗れるとは皮肉なもんだな」
そのまま閃光を浴び続けたクロパスはそのまま黒焦げになり、そのまま黒い灰となった。それを見届けたあたしたちは、ただ静かに修道院をあとにした。
――ユニは、ラルヴァンダードのところにいる。
――次回「ep41.ユストは自らの任務を完遂することに固執する」
2025年08月21日 06時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/41




