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修道院に戻ってきたリナは院長を許せない

 あたしは――リナ。今、親友ユニを追っている。

 あたしをユニを信じているよ。何か理由があるんだよね。本当のことを話してほしいよ。

 ユニがいなくなって数日後、あたしたちはフルールフェルトに戻ってきた。

 山々に囲まれたその街は、どこか懐かしくて、どこか冷たかった。石畳の広場には旅人や巡礼者が行き交い、鐘楼からは、いつもどこかで鐘の音が聞こえていた。あたしにとっては馴染みのある街。小さな頃からいつも隣にいたユニがいないなんて。

 まだ昼間だけど、あたしには星空が見えていた。ユニと手をつないで、馬車に揺られていた、あの夜の星空が――。


『空は何でも知っている』

『目印があれば、俺たちはどこにでも行ける』


 目印があれば、どこにだっていける。あたしの今の目印はユニなんだ。


「……あたし、ひとまず修道院に行ってみたい」


 そう言うと、マティアもシラも黙って頷いた。

 向かう先は、フルールフェルトの丘の上にある修道院。高い石壁に囲まれたその場所は、かつてユニと一緒に暮らしていた場所。


 ──聖ヤーコプ修道院。


 門をくぐった瞬間、あたしの心がきゅうっと締めつけられた。懐かしさ。痛み。寒さ。いろんな感情がごちゃごちゃに渦を巻く。


「……()()()()戻ってきたのですね。リナ」


 振り返ると、そこにいたのは――院長。大量の金属の装飾を付けた黒衣の男。背筋はまっすぐで、でも目だけが、妙に冷たい。


「リナ。あなたはもうここに戻ってこないと思っていましたよ」

「ユニは……ここで、何を……?」

「彼女の“役割”は、あなたの観察でした」

「う、そ……」

「”魔王の娘”リナ。それは、最初からです」


 院長の言葉は、まるであたしの心を切り裂く刃だった。


「あなたが修道院に来たのも、すべてはラルヴァンダード様の計画のうち。あの孤児――ユニには、“親友”としてあなたを監視する“役割”が与えられていたのです」


 ――信じてた。あの子を。ずっと、親友だって思ってたのに……。


「まさか、タイミングよく、()()()()親切な”渡り鳥の民(リンドバーグ)”が通りがかってあなたを助け、()()()()彼らの中に同じ世代の娘がいてその娘と気を合い、()()()()ベルグシュタットから遠く離れたフルールフェルトまで連れて来られ、()()()()訪れた修道院に何事もなく入ることができた、とでも思っていたのですか? 渡り鳥の民(リンドバーグ)たちは何も知りませんが、あなたが“勇者”と出会い、“魔王の娘”として力を目覚めさせることも。“親友”がそばにいることで、その感情が増幅することも。全ては計画の通りなのですよ」

「『偶然は二つまでは許しても良いが、三つも重なったら何らかの必然と考えるのが当然だ』と教えませんでしたか? 今挙げただけでも、いくつの()()()()が重なってあなたはここに来たのでしょう?」

「……ユニが……最初から?」

 

 ――あたしの胸が、音を立てて冷たくなった。


「ユニは実に立派に“役割”を果たしてくれました。私のところに来て、私のいうことはどんな指示も聞き、素晴らしい報告してくれました。お前を導き、感情を揺らし、その力を観察し、そして力の源がペンダントにあると突き止め、それを手に入れたのです。すべては、“秩序”のために」

「ペンダントにそんな力が? たしかに古い構文らしきものが書かれていたけど……」

「あなたの話は聞いていますよ。“魔法少女”シラ。あなたはまだ若いようだ。その年齢の割に幼い見た目も私の好みです。私の手元に置いてやっても良いですよ。メルキオールの飼い猫など辞めて、私のところに来れば、ユニと同じように、特別に可愛がって差し上げよう」

「ひぇ。キモっ。なんなのコイツ……」

「ふふふ。まぁ良いでしょう……あと数年もすれば、あなたには興味がなくなりますから」

「お前、“聖職者”だろ? 自分が何を言っているかわかっているのか?」

「『色を好む』のに“役割”は関係ありませんよ。“秩序“を保てば、すべてが許されるのです。それに、ラルヴァンダート様が『正しい魔王』となられ、安定した“秩序“を作られれば、そんなことは仔細なこと。それまでのすべては、その布石にすぎません。そして、ここで”魔王の娘”、”勇者”、”魔法少女”までをも捉えれば、私こそが次の“執事”。私こそが、”魔王の執事”となり、いずれは世界の半分を手に入れることになるでしょう」


 あたしは剣を抜いた。マティアとシラもすぐに動いた。修道院の中庭――かつてあたしがユニと模擬戦をした場所で、あたしたちは“あたしの過去”に打ち勝つんだ。


「ふざけないで……!」


 その瞬間、院長の黒衣がふわりと揺れ、空気がぴんと張り詰めた。


「ユストやユニから聞いていますよ。私はあなたたちを侮りません。最大限のリスペクトを持って最初からイかせてもらいます」


 そういうと院長は異様な色をした小瓶を取り出し、その中身を一気に飲み干した。


「ユストは薄めて使っていたようだが、私はショットが好みでね……! 〈枝鋭断撃(ブランチランチ)〉ッ!」


 その瞬間、あたしたちの周囲に大量の枝が出現し、嵐のように襲いかかってくる!


「やばっ! これ、威力おかしくない!? こんな量……!」

「シラ! 燃やせ!」

「おっけー! 〈煉獄障壁(インフェルノバリア)〉ッ!!」


 炎が渦を巻き、枝を焼き尽くしていく。


「私、ほんとキモいおじさん嫌いなんだよね! 〈炎獄奔流(インフェルノウェーブ)〉ッ!」

「甘い! 〈葉盾防環(リーフリーフ)〉!」


 炎は回転する葉の壁に遮られ、届かない!


「ならば、これでどうだッ! 〈蔦界包縛(ヴァインライン)〉!」


 無数の蔦が地面から生え、あたしたちに絡みつく――!


「ぐっ……うそっ!」


 あたしたちは、全身をぐるぐると締め上げられ、身動きが取れなくなってしまった。

――次回「ep40.院長は自らの欲望に忠実にその力を誇示する」

2025年08月20日 21時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/40

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