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ユニは馬車に揺られながら自分の“役割”を思い出す

 私はユニ。リナを裏切り、教団の馬車に揺られてフルールフェルトに向かってる。


 ・


 あたしには、“役割”があった。


「ねぇ、アリスタルコ様。リナたちがあそこにいたの、わかってたましたよね? 無視してよかったですか?」

「いいじゃねえか。ユニがこうして戻ってきたってことは、『“魔王”の力』の秘密がそのペンダントだって確信したってことだろ?」

「はい……。報告します。以前から、“魔王の娘”が〈氷刃〉を発動する気配は以前からありました。〈氷刃〉は魔王の力の特徴であると教団側が結論付けた、『物質に魔法を固定する力』を象徴する力。数少ない〈氷刃〉の目撃者である“勇者”や“魔法少女”もリナの力が顕現するごとに、“魔王”との共通性を指摘していましたので、“魔王の娘”が使っていた力は同じものと見て間違いありません。この力が初めて顕現したのは、私との修道院での模擬戦闘でした。この際は、私がムキになってしまい、発動には至りませんでした。その後も、私は観察を続けましたが、この時点では、『何らかの事情があり、発動できないのだろう』と推測していました。そこで、”勇者”に出会うことでなにか変わるかもしれないということで、引き合わせた結果、“勇者”から“魔王”の形見だというペンダントを手に入れたことによって、飛躍的にその力が顕現したように見えます。その力は御覧頂いたとおりです。『このペンダントが物質に魔法を固定する力の鍵である』と結論づけられるのが妥当かと思われます」

「ふーん。どうでも良いけど、あんたキャラ変わるわね? リナと一緒にいた時と、まるで別人」

「当然です。”魔王の娘”といるときの私の“役割”は、”リナの親友”ですから」


 そう。私には感情なんていらない。私はただ、“秩序”のために――。


「ま、どうでもいいけど。それ。リナちゃんが聞いたら泣くでしょうねぇ」

「そのへんにしておけ、ユスト」

「はーい。でも、メルキオール様より先に『物質に魔法を固定する』を手に入れられれば、ラルヴァンダード様ももっと偉くなれそう♡」

「正直、気に入らねぇけどな。『物質に魔法を固定する』ことで、人の魔法に頼るなんて。何を解決するにしてもおのれの力。筋肉がなければ!」


 アリスタルコ様はムキッと筋肉を見せてきた。


「ふふ。アタシたちか弱い女子は、いつでも色んな魔法が使えたほうがいいんですよ~。黒服ちゃんたちも魔法を使えたら、もっと便利ですし」


 ――そう。ラルヴァンダード様は、“力のない人”のことも、いつも考えてくれる。


「……ラルヴァンダード様が魔王の力を得れば、教皇様にも認められて、“四大司教”になって、もっと“秩序”を守れる存在になれるかも」

「ああ。細けぇことはわかんねぇけど、ラルヴァンダードならうまくやるだろ。はっはっは」


 (私、ちゃんと頑張った。ちゃんとリナと“親友”になって、ちゃんと“勇者”と出会わせて、ちゃんとペンダントを手に入れさせて――全部、ちゃんと“秩序”のために頑張ったんだもん)


「ラルヴァンダード様、褒めてくれるかな……」


 そう。私の“役割”は――「魔王の力を手に入れること」。


 ・


 それは十二年前。私が六歳のとき。

 一番古い記憶は、大きな男の人に手を引かれて、ラルヴァンダード様の元へ行った日のこと。

 そこには、あたしと同じような子が何人もいて、皆でラルヴァンダード様のお世話をしてた。ラルヴァンダード様は、私たちのことをまるで本当の子どもみたいに可愛がってくれた。毎日、“秩序”の話を聞いて育った。私たちの生活は、“秩序”を守るためにあった。

 ある日、私はついにラルヴァンダード様から“役割”が与えられた。


「ユニ。お前には魔王の娘の力を手に入れてほしい。これはお前にしかできない、大事な“役割”だよ。任せたぞ」

「はいっ! “ちつじょ”のために、がんばります!」


 私は、ただただ嬉しかった。


 ・


 その後、私は聖都レギオナで孤児のフリをして、教団の人の指示で渡り鳥の民(リンドバーグ)のサリーという女性に近づいた。


「おねーさんたち、どこ行くの? わたし、行くとこないの。一緒に連れてって」


 渡り鳥の民(リンドバーグ)の人たちはみんな優しかった。私を疑いもせず受け入れてくれた。

 そして、リナ――“魔王の娘”が現れた。


『俺たちの相手じゃねぇッスよ、こんなの……!』

『……こっちは命懸けで盗賊やってんだ……!』


 リナは助けられた。そして、あたしは“親友”になった。


『あたしはユニっていうの。八歳だよ。あたしのほうが少しおねーさんだね。よろしく!』


 そうやって、少しずつ、リナの心に入り込んだ。


 ・


 リナは「勇者に復讐したい」と言っていた。

 だからあたしは、あの子が力を発揮する瞬間をずっと観察してた。


「はい。今のところ、魔王の力の兆候はありません」


「模擬戦で感情的になりすぎてしまい、力を発動させかけましたが、未発動に終わりました」


「勇者の情報は、バレないように操作しています」


「……勇者と会えば、何かが起きるかもしれません。接触を許可しても?」


「……シラがペンダントに興味を。鍵はそこにあるかもしれません」


「……戦闘によって力が顕現する可能性も。ユストさん、お願いできますか」


「アリスタルコ様……ご無事でしょうか。リナたちはラコナへ向かっています」


「遺跡に入ったら、目印の矢を撃ちますので、合図を見てください」


 あたしは、ただ“役割”を果たしてきただけ。裏切ったわけじゃない。


 ・


「……ごめんね、リナ」


 夜の馬車の中で、ガタガタと揺れながら、あたしはぽつりとつぶやいた。

 あのとき、あの子と一緒に見た星空を、今も思い出す。

 でも、もう戻れない。あたしの“役割”は――「リナの親友だった女」だから。

――次回「ep39.修道院に戻ってきたリナは院長を許せない」

2025年08月20日 17時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/39

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