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崩壊する遺跡の中でビッグスは煙草を燻らせる

「おい! 急げ! あいつらの通った道が、どこかにあるはずだ!」


 ビッグスが声を張り上げる。でも――。


「だめっ! この碑文……絶対に大事なやつだよ! 今写しておかないと、もう二度と見れないの! あと五個だけ、お願いっ!」


 シラは崩れかけた地面にしゃがみこんで、必死にノートにペンを走らせてる。


「バカ! 死んだら元も子もねぇんだぞ!? 天井、音してるだろ! マジで崩れるぞ!」


 ビッグスがシラの腕を掴んで、引きはがそうとする。


「いやああああっ! やだっ、こんなの、今しかないのにっ! これ逃すくらいなら……死んだ方がマシっ!!」

「シラ!」


 あたしは彼女の肩を両手で掴んだ。


「お願い、シラの魔法が、これから絶対に必要なの。一緒に来て……ッ!」

「そうだぞ! シラがここで死んだら、『魔法のヤバい真髄』、誰がたどり着けるんだよ!」


 ――数秒の沈黙。


「……わかった。行くよ。でも……あの板だけ。あれだけは……お願い、取らせて!」


 シラが指差した先。今にも崖から落ちそうな、小さな板。

 そこには《deus ex machina》と書かれていた。


「ん、あれくらい余裕だろ! 俺が取ってくる!」


 ビッグスが軽口を叩きながら駆け戻って――板を拾った、その瞬間。


 ――ゴウン、ゴウン、ゴウン!


 床が揺れ、低い唸りと共に崩れ落ちる。彼の立っていた場所が、あたしたちと引き裂かれた。


「……やっべ」


 ビッグスは孤立していた。距離は、どう考えても飛べる範囲じゃない。


「さすがにこれは……“想定してなかった想定外”ってやつだな。どこにも見えない橋は見えねぇし……」

「ビッグス!」

「シラ! この板、投げるぞ! 絶対落とすなよ!」


 ビッグスが投げた板を、シラがギリギリでキャッチする。


「ナイスキャッチ。それと、リナ。お前の上着のポケット、見てみな」

「え……?」

「ユストが持っていた手紙。ちょいと拝借しといた」

「いつの間に……!?」

「さあて、そろそろお前らは行けよ。ここは危ねぇ。長居することはない。さっさと脱出しろ」

「ビッグス、あんたは……!」


 ビッグスはポケットから煙草を取り出して、ゆっくり火をつける。


「どうするって? お前らとは、くぐってきた修羅場の数が違うんだ。俺のことは心配すんな」


 そう言ってビッグスは、煙草を燻らせながら、崩れかけた入口の方へと歩いていく――。

 その瞬間――。


 ズドォォォン!!


 大きな崩落音が響き、土煙が巻き上がった。視界が晴れた時には、もう――彼の姿はなかった。


「ビーーーーッグスッ!!」


 あたしたちは叫んだ。でも返事はなかった。


 ・


 アリスタルコたちが来たと思われる扉を進むと、そこには細いけれど整備された階段が続いていた。

 長く、狭く、そしてひたすら上へ――。

 やがて階段を登り切ると、ラコナの街の外れに出た。


「……こんな場所に繋がってたんだ……」


 あたしたちはしばらく言葉が出なかった。あまりにもいろんなことがあり過ぎた。


 ・


 宿に戻ったあたしは、ユニと一緒に部屋の片隅に座り、お父様の手紙を開いた。

 そこに綴られていたのは、優しい思い出話だった。お父様は自分が魔王として討たれる未来を覚悟していた。それでも、娘に伝えたかった気持ち。

 あたしは、その手紙の文字から、お父様のぬくもりを感じた。涙が頬を伝ったまま、あたしは眠りに落ちた。


 ・


 ――そして、朝。

 目を覚ますと、枕元からお父様のペンダントが消えていた。これまでずっと一緒にいた、ユニの姿と一緒に。

――次回「ep37.冷たいベッドに触れたリナは起きていることを理解できない」

2025年08月19日 21時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/37

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