表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/49

ユストはリボンで華麗に舞う

「やーっと捕まえた……♡」


 ツインテールが揺れて、ユストがにっこり笑う。その背後、鉄の鎧を着た巨体――アリスタルコが、地響きを立てながら現れた。


「狭い通路は嫌だったが……我慢してきた甲斐があったな。こんなところに来るとは、もはや巡礼ではあるまい。逃がさんぞ、リナ。……そしてユニ」

「なんでここが……」

「これ、なーんだっ♡」


 ユストの手には――お父様の、あの手紙。


「それ……どうして、あなたが……」

「ふふふ。ここに書いてあったの♡ お父さん、リナちゃんをここに呼びたかったんだって。でも、知らなくていいことって、あるじゃない?」


 ――逃げ場は、ない。


「リナ、どうしよう……修道院に戻る……?」

「……ううん。このまま戻ったら、お父様のこと、何ひとつわからないまま。“役割”に縛られ続けるだけ。それって、あたしが望む未来じゃない」

「でも、ラルヴァンダード様の許可を取ればきっと……」

「ダメだよ、ユニ。ここで止まったら、きっと後悔する。あたしは――走りたい。前に」

「リナ……」

「そうだ。振り返ってばかりじゃ、真実には辿り着けない。信じるんだ、いつか――きっと、カーネルさんの想いを知ることができる」

「マティア……」

「ん? 手紙が欲しいのか? だったらユストに返してもらえばいいんじゃないか?」


 ビッグスが軽口を叩く。わずかに、空気が緩んだ。


「ビッグスぅ? ファルデン以来かしら? アタシたちの邪魔をしに来たんじゃないでしょうね?」

「まさか。俺はラコナに用があるって言ったろ? お宝探してただけだ」


 でも――アリスタルコとユストの殺気は、本気だった。

 戦うしか、ない。


「うるさーい!!」


 突然、シラが怒鳴った。


「こっちは今、超重要な碑文を読み解いてるんだから! 静かにしてよねっ!」


 ノートを片手に怒るシラの額には汗が滲んでいた。


「シラよ。俺ァ難しいことはわからねぇが、知りすぎるとロクなことにならねぇぞ? あの男みたいにな」

「それでも、知りたい!」

「そうか。なら仕方ねぇな」


 そういってアリスタルコは構える。あたしたちも――武器を構えた。


「こうして……お前らとやりあうのも4度目になるのか……なんかうれしいな! ここからは本気で戦わせてもらう!」

「来るぞ――布陣を組めっ!」


 最初に動いたのは、アリスタルコだった。


「〈アリスタルコ・ギャラクティカ・マグナム〉ッ!」


 咆哮とともに、巨腕がシラに向かって振り下ろされる。マティアがすんでのところでそれを防いだ。


「シラ、今はそっちじゃない! 抑えきれないぞっ!」

「ああもう、わかってるってば!!」


 シラは両手を前に突き出す。


「〈烈火弾(フレイムシュート)〉ッ!」


 赤い火球が炸裂し、アリスタルコの腕をかすめた。……でも、びくともしない。


「へっ、いい感じに温まってきたぜ!」


 マティアは足元をじっと観察していた。


「ジャンプに、あの突進……あいつの戦いの要は、爆発的な脚力……?」

「シラ、足場を崩せるか?」

「任せて! 〈岩砕衝(グラニトクラッシュ)〉ッ!!」


 地面が隆起し、足場が歪む。その一瞬の隙を狙って、マティアの剣が鋭く突き込まれる――けど、鉄の鎧が鈍い音を立てて、受け止めた。


「くっそ……やっぱ、硬ぇ……!」

「おっ? こっからは白兵戦か? いいねぇ、アツいじゃねぇか!」


 ――そして、マティアとシラ、そしてアリスタルコの戦いは一気に激しさを増していった。


 ・ 

 

 一方、あたしとユニ、それにビッグスはユストと対峙する。

 

「ふふふ、ビッグス。今日はリナちゃんと楽しそうじゃない? お友達はどうしたの?」

「そっちこそ、この間はいい面の皮だったじゃないか。今日はその借りを返すぜ」

「リナちゃん、ユニちゃん? 今日はビッグスもいるし。本気をいかせてもらうね♡」


 そういうとユストはその厚い上着を脱いだ。肌の露出が増える。


「ユストよ。えらい格好だな。それは俺に対する視線誘導が目的か?」

 

 しかし、よく見ると露出された肌には数多の切り傷がある。


「それはどうかなぁ? 可愛いでしょう? いくよ♡」

 

 ユストがリボンを振るう前に、ビッグスが距離を詰めた。両手に構えたナイフが閃き、鋭く斬り込んでいく。その動きは、あたしたちと戦ったときとはまるで別人だった。機敏で、正確で――これが本気のビッグス……?

 でも、ユストも負けてなかった。くるくると舞うように身を翻し、軽々と攻撃を躱すと、すぐさま距離を取ってリボンを放ってきた。

 前に戦ったときのそれとは、まるで別物。動きも速さも段違い。身軽になったユストの仕草は、本当に踊ってるみたいだった。だけど――そのリボンは金属製。鋼のようにしなやかで、鋭くて、そして……自身も傷つけている。えげつないくらいに痛そうだ。


「これじゃ、近づけねぇ……」


 ビッグスが舌打ちする。

 ユニはクロスボウを構えている。


「ユニ、援護をお願い……!」

「……わ、わかってる……」


 だけど、矢は放たれなかった。ユニの指先が震えてる。瞳も揺れていた。矢を握ったまま、動けない。最初から怖がってたんだ。足がすくんで、撃てないのかもしれない。

 ユストのリボンはあたしたちを寄せつけない。でも、よく見るとユストも傷を負ってる。あの上着は……自分の体を守るためだったんだ。リボンを振るたび、パンッと乾いた音が響く。

 そのとき――。


「ぐっ……」


 ビッグスが呻いた。太ももから血が流れてる。鋭利な刃物で切られたような傷。


「隠し武器……? なんだあのリボン……」

「まるで魔法みたいでしょ?」


 ユストが笑う。


「魔法が使えなくても、努力すれば――こーんなこともできるんだよっ♡」


 ドンッ!


 リボンの射程外のはずなのに、あたしとビッグスに衝撃が走った。


「なに……? 見えない何かで……攻撃されてる……?」

「あはは♡ ビックリするよね。アタシのリボンの先端が音より速くなる時、衝撃波が出るんだよ」


(このまま、何もできずに……? このまま捕まっちゃうの……? やらなきゃ……あたしには、やらなきゃいけないことがあるのに!)


 その瞬間、また体の奥から冷たい力が流れ込んできた。剣が、ペンダントが、光り始める。


「……この感覚……また……」


 剣に魔法を込める――この前みたいに。でも、もっとはっきりと、もっと強く。今度の力は、前とは比べものにならない。


「またそれ……!」


 ユストの視線があたしに向いた。すべての攻撃が、こっちに来る。でも、大丈夫。〈氷刃〉(仮)なら、リボンにだって対抗できる。


「おっと、ユストさんよ……こっちが隙だらけだぜ?」


 ビッグスが背後から切りかかる。


「くッ……! ビッグス……! 血筋や才能が“秩序”を乱すなんて、アタシは認めない! アタシは努力と覚悟で、“秩序”を守る!」


 ユストがポケットから明らかに異様な色をした小瓶を取り出し、その中身を一気に飲み干す。次の瞬間――彼女の肌に血管が浮かび上がった。


「ふふふ。これヤるとどうなっちゃうかわからないから、覚悟してね?」


 ユストは自分が傷つくことも厭わず、リボンを無差別に振り回す。その威力は先ほどよりもさらに跳ね上がってる。手がつけられない。それに明らかに様子がおかしい。錯乱している?


 そのリボンから放たれた衝撃波が、ホールを破壊していく。

 そのときだった。

 ホールの中心にあった庭園水晶(ガーデンクォーツ)が、ペンダントに呼応するように光り始めた。眩い光が脈動し、剣が震える。


「なに……これ……剣が……!」


 抑えようとしても、どうにもならない。どう動いているのかさえ、わからない。


「リナちゃん? それ、ズルいよ?」


 そういうとユストはあたしに襲いかかってきた。あたしは思わず、光る〈氷刃〉(仮)でユストを切りつけた。

 すると、ユストの破れた服の一部やリボンが凍りついた。


「何……これ……。”魔王の娘”ってだけで、ろくに努力もしないで……ッ!」


 ユストがあたしに襲いかかる。そのリボンは、あたしのペンダントに共鳴したのか、光り始めていた庭園水晶(ガーデンクォーツ)のひとつを倒した。


 ズズン――。

 

 とても重たいものだったのだろう。部屋全体が揺れるほどの振動があった。

 すると、天井からの光が点滅し、空間全体が揺れ始める。


 ゴゴゴゴゴゴ――。


 そして、ゆっくりと……少しずつ床が沈んでいくような感覚。


「え? ひょっとしてこの下って空洞なの? それなのにさっき〈岩砕衝(グラニトクラッシュ)〉なんか使ったから……不安定になって?!」

「やばい……っ! これ、崩れるやつだ……! そんな構造だったのか!」


 脱出するしかない。しかし、ユストは構わずにあたしを狙ってくる、


「……ユスト! 引き上げるぞ! ここで死なれちゃかなわん!」

「デも! コイつラ知らなクテモいいこトヲ……!」

「それより、脱出だ! こんなところで死んじまったらカッコ悪ぃだろ」


 そう言うとアリスタルコはこっちを振り返った。


「すまんな! お前たちとの勝負は楽しいが、勝敗はお預けだ。生きてたらまたやろうぜ! いや。またやれる気がするぜ! じゃあな!」


 そう言い残して、彼はユストと共に通路の奥へと消えていった。


 ゴゴゴゴゴゴ――。


 ――明らかに、ヤバい。

――次回「ep36.崩壊する遺跡の中でビッグスは煙草を燻らせる」

2025年08月19日 17時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/36

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ