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断崖を前に立ち尽くしたリナたちは勇気を試される

 正直、不安しかなかった。

 でも――進むしかなかった。マティアもシラも、そしてビッグスも前を進んでいく。

 けど、ユニの足取りだけが、どんどん重くなっていくのがわかった。ひと部屋越えるたびに、少しずつ後ろに回っていって……今じゃほとんど最後尾。遺跡に入ったきから、ユニはずっと遅れがちだ。もう、限界なのかもしれない。あたしは小さく息をついて、マティアにそっと声をかけた。


「……ねえ、本当にこのまま進んで平気かな……?」

「これを作ったやつが、試練をクリアした人間を帰す気がないとは思えない。信じて進もう」


 ……お父様は、この先にあった『何か』を知ってしまった。それが、あたしたちの旅のはじまり。

 だったら――今度は、あたしたちがその続きを知る番だ。


「おい、行き止まりっぽいぞ」


 先頭のビッグスが立ち止まり、振り返る。

 そこには、大きく裂けた地面。通路は対岸に続いているのに、橋が……ない。


「……シラ、なんとか魔法で渡れない?」

「うーん、やれなくはないけど……魔法も万能じゃ無いんだよね。橋にする素材がないと無理。下手に床の土を使ったら崩れ落ちるかもね」


 そんなとき、あたしは対岸に立つ石板に気がついた。


「ねぇ、あそこに……なんか書いてない?」

「うん、たしかに石板っぽい。けど遠いな。読める?」

「無理。暗いし、遠いし……あたし、わりと近眼だし……」

「ユニ、見える?」 

「えっ……? あ、ごめん……えっと……見えない」


 なんとなく様子がおかしい。心ここにあらずという感じだ。でも、それを言う前に、別の声が答えた。


「『真の道はそこにある。目に見えるものに惑わされず、神を信じ迷わず進め。神の道はまっすぐである』……ってとこだな」


 意外にも、それを読んだのはビッグスだった。


「……つまり、“信じて進め”ってこと?」

「素直に解釈すれば、そうなるな。ただ、見ての通り、道は見えない。これは『信仰心』を試されてるってやつなんじゃないか?」


 ビッグスが薄く笑った。……でも、実際、誰が最初に踏み出す?


「よし。俺が行こう」


 言ったのはマティアだった。


「リナとユニには『目的』がある。シラは魔法の『研究』がある。でも、今の俺には……“役割”が何もないんだ。リナの父さん――カーネルさんを、“恩寵(サクラメント)”で死なせてしまった。罪滅ぼしとかじゃない。ただ……これが、俺の選んだ“役割”なんだ。そのためにできることはしたい」

「何言ってるの。それは押し付けられた“役割”だったんでしょ? 自分を責めるためにここにいるんじゃないよ。 あたしと一緒に、ちゃんと全てを知るために来たんでしょ?」


 ユニの声も重なった。マティアは、小さく息を吸って、目を伏せる。


「……ありがとう。リナ……」

「あー。感動の場面の最中に悪いが……そういうテンションは勘弁してくれ。むず痒くなる」


 空気をぶった切るような調子で、ビッグスがすっと前に出る。そして――。


 ズカッ。


 崖の『何もないはずの空間』に、足を踏み出した。


「ビ、ビッグス!?」


 叫んだあたしたちを尻目に、ビッグスは何事もなく、空中を歩いていた。いや――


「……足元が何か変?」

「だろうな。いわゆる“騙し絵”ってやつさ。橋はある。ただ、そう見えないように描かれてる。職業柄、夜目が利くんだが、こういう時も便利だな」

「すご……」


 驚きながら、あたしたちも一人ずつ、足元を慎重に確認しながら進んでいった。

 こうして、あたしたちは――三つ目の試練を越えた。

――次回「ep34.シラは遺跡の奥で見つけた碑文を前に興奮を抑えられない」

2025年08月17日 06時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/34

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