シラは無邪気に遺跡の謎を楽しむことにした
あたしたちは、ついにお父様がいう「あそこ」――ラコナの古代遺跡に足を踏み入れた。
でも、ここ、思ってた以上にボロボロだった。階段は急で崩れてるし、天井から滴る水で床はツルツル。しかも湿った苔が滑りやすさに拍車をかけてる。あたしが何度か足を取られそうになるたび、ユニがすっと手を差し出してくれる。
「気をつけて。ここ、マジでいつ崩れてもおかしくないよ」
「だよね……。しかもコウモリとかまた出そう……」
「やめてーっ! もうほんと、あれはトラウマだからっ!」
こんな不気味な空気の中でも、あたしたちはなんとか会話で場の空気をほぐしながら進んでいく。頭上ではツタがゆらゆら揺れて、冷たい風が背中をなでる。
「……これ、ほんとに誰も来てないんだな」
マティアがぽつりと呟く。
「うん。ここは観光用の遺跡とは違って……『ずっと昔に隠された場所』なんだと思う」
シラが珍しく、真剣な顔をして言った。ようやく階段を下りきると、広い空間に出た。まるで地下のコンコースみたいな場所。正面にはどっしりとした石の扉があって、その上には、風化した石板が埋め込まれていた。
『神の息吹に抗うなかれ、信心深き者にのみ道は開かれる』
「……なにそれ。なんか、ヤな予感しかしないんだけど」
あたしが読み上げると、マティアが顎に手を当てて「むむむ……」と唸り始めた。
「信心深き者、か……。これは……どこかで……」
考え込むマティアの横で、シラが何の迷いもなく扉の前に立った。
「じゃ、開けるね!」
「ちょ、ま、待って!? ちょっとは考えよ!?」
あたしが止めようとした瞬間にはもう、シラの両手が扉を押していた。
ガシャン――!
扉の開閉かと思いきや、すごい音とともに床が揺れた。
ゴウン、ゴウン、ゴウン……。
「え、今の音なに!? なんかヤバくない!?」
ユニが後ろから顔を出した次の瞬間――。
ゴゴゴゴゴ……!
天井が開いて、いくつもの円盤状の巨大な刃が姿を現した。しかも、高速回転しながらあたしたちめがけて一直線に――!
「ぎゃーーーーっ!!」
「ひゃあああ!? 回転してるぅぅぅぅっ!!」
「避けろっ!!」
マティアの叫びと同時に、あたしたちは四方に飛びのく!
シュンッ!!
刃の1つが目の前をかすめて、壁にドガンと突き刺さる。石が弾けて、粉が舞った。
「次来るよ!!」
マティアの声に反応して、あたしはすぐ身を低くした。
「なにこれっ!? 罠とか聞いてないし!! でも……こういうの……テンション上がるかも!」
シラは目をキラキラさせて、謎に楽しそうだった。いや、怖がってくれよ!
マティアは何かに気づいたように、石板の文字をもう一度思い出して呟く。
「これは魔法じゃない……『神の息吹に抗うなかれ』……『信心深き者』……」
そして、ひとつ大きく息をついたあと、静かに膝をついた。
「マティア!? なにやってんの!?」
「頭を下げろ! 多分、“ひざまずけ”ってことだ!」
迷ってる時間はない。あたしもマティアに倣ってひざまずく。
ユニとシラも、ちょっと戸惑いながら同じように頭を下げた。
直後――。
シュバァァァァアアッ!!
真上を回転刃がギリギリで通過していった。空気が震えて、頬をかすめる冷たい風が、ほんの少し遅れて頬をなでた。
「なるほど……『神の前では頭を垂れろ』ってことね……」
あたしがつぶやくと、シラがようやくホッとした表情で言った。
「ふぅ~……最初からそうしてればよかったんだよねー!」
「いや、シラが最初から突っ込んだからでしょ……」
肩をすくめるあたしに、シラは全く悪びれずニッコリ。
「でもさ、ここからが本番って感じじゃない? これだけ厳重に封じられてたってことは、よっぽど『大事なもの』が眠ってるって証拠だよね」
その目は、まるで宝探しに出かける子どものように、きらきらと輝いていた。
あたしは――小さく息をのんだ。
胸の奥が、どくん、と高鳴る。
これが、あたしたちの旅の『本当の始まり』なのかもしれない。
――次回「ep32.ユニは神の名前を踏み外す」
2025年08月18日 06時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/32




