隠れされた遺跡の前でユニは中に入ることに躊躇する
ラコナの街を背に、あたしたちは山のほうへ向かっていた。
目指すのは、教団から「聖域」とされて、立ち入りが制限されている山。その中腹に、誰にも知られていない“もうひとつの古代遺跡”があるらしい。
霧の中に浮かぶ石畳、ひび割れた階段、傾きかけた塔――。まるで世界そのものが時を止めたみたいに、音もなく静かだった。
鐘楼の鈍い音が遠くから響き、小鳥が驚いて飛び立っていく。
でも、参道の先にある観光名所があたしたちの目的地じゃない。あたしたちが目指してるのは、地図にも記されていない、もっと奥にある「隠された遺跡」だ。
「このへん、のはずなんだけど……」
シラが首をかしげながら、地図を見つめる。だけど、もうどこまでが道で、どこからが森かすらわからない。
「ねぇ……これ、ちょっとだけ遭難してるってことはない?」
「大丈夫だってば。最悪、このあたりの森を全部魔法で焼き払えばいいし」
「……じょ、冗談……だよね?」
「ふふん、さぁ? どうだろう?」
ニヤッと笑うシラ。でも、その目はたぶん半分くらい本気。
そんなシラが地図を折りたたんで、木々の間をかき分けるようにして進んでいくと――。
「――あった! 間違いない、ここだよ!」
その声に、あたしたちが駆け寄ると、そこには苔むした石の門がひっそりと隠れていた。山肌に半分埋もれていて、見逃しても不思議じゃないほどの存在感の薄さ。けれど、その門の前に立った瞬間、空気が変わった気がした。
「これ、魔王カーネルが残したメモに書いてあった場所。間違いないって」
「でも、開くのか……? この感じ、ずっと動いてなさそうだけど」
マティアが門をじっと見つめながら呟く。
「そのへんもメモに書いてあるもん。仕掛けがあるって」
そう言ってシラは門の横にある苔だらけの穴に、ずぼっと手を突っ込んだ。
「うわ、ヌルヌルする……でも、あった! ここにレバーがある!」
ギギッ――と小さな音と共に、シラが仕掛けを引いた。
――ゴゴゴゴゴ……。
地面が低く唸るような音とともに、石の扉がゆっくりと開き始めた。長年の苔と砂ぼこりが舞い上がり、中から冷たい空気が流れてくる。
「おぉ……本当に、開いた……!」
マティアが感嘆の声を漏らし、あたしは思わず剣の柄に手をかける。
この奥に、お父様が知ってしまった“何か”がある――そんな気がした。
……と、その時。
バサバサッ! バサバサバサッ!!
「ひゃあああああ!! こ、こうもりぃぃぃ!!」
中から飛び出してきたのは、何匹ものコウモリ! 暗闇から一斉に羽ばたいて、あたしたちの頭上を飛び抜けていく。
後ろにいたユニは悲鳴をあげながら、慌ててクロスボウを取り出し――。
「ひぃぃぃっ! やめてぇぇぇっ!!」
ドシュン! シュバッ! パンッ!
矢が次々に飛び出して、発煙するやつとか音が出るやつとかを撃ちまくってもうカオス。
「ちょ、ちょっと落ち着いて! もうコウモリいないからっ!」
あたしは急いでユニを抱きしめる。
「……ご、ごめん。大丈夫。もう、平気……」
しばらくして落ち着いたユニが、そう言って小さく息を吐いた。
「ふふっ、意外とビビリだねユニちゃん♪」
「う、うるさいな……」
そういってからかうシラちふくれるユニにちょっとだけ笑って、あたしは遺跡の入口を見上げた。
「……じゃ、行こう。ここまで来たんだもんね」
あたしたちはゆっくりと石段を降りていく。
奥へ、奥へと続く闇――。
閉ざされていた扉の先に、何が待っているのかはまだわからない。
こうして、ラコナの隠された古代遺跡の扉が、今、静かに開かれた。
――次回「ep31.シラは無邪気に遺跡の謎を楽しむことにした」
2025年08月17日 21時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/31




