疲れ果てたリナはベッドの上に倒れ込む
夕陽が、川の水面に揺れていた。
船は帆をふくらませて、風を受けながら静かに進む。さっきまで激しく戦っていたのが嘘みたいに、川沿いは静まり返っていた。鳥の声も、風の音も、まるで全部が一度止まったみたいだ。
アルペン山脈が遠ざかり、代わりに視界に入ってきたのは、石造りの城壁に囲まれた街――ラコナ。
赤茶色の屋根が並び、古びた鐘楼がどーんと真ん中にそびえてる。漁師が網を干して、道端では商人が果物とかハーブを売ってて、窓辺の花壇には色とりどりの花が咲いていた。まるで絵巻物の中みたいな町並みだ。
「着いたら、すぐ宿を取ろう。今日はさすがに疲れた」
マティアがぼそっと言う。あたしも、うんうんと心の中で何度も頷いた。
早朝からの移動に、アリスタルコとユストとの死闘、それから川下り。正直、もう立ってるのがやっとだった。
「異議なし! 宿、はよ!」
シラが両手を上げて叫ぶ。ユニは無言でこくんと頷いて、目を擦っていた。
船が静かに桟橋へ寄っていく。
そして、ようやく――ラコナに到着した。
マティアが先頭で船を降り、あたしたちも続く。足が棒みたいになってて、みんなゾンビみたいな顔してたと思う。
目の前にはでっかい石の門。その奥には、崩れかけた石柱や古い城壁の後、円形闘技場のような、どこか遺跡っぽい建物がぼんやりと見えていた。
「ここが……ラコナか」
あたしの呟きは、自分でもびっくりするくらい疲れてた。
・
宿屋の扉を開けると、ほのかに木の匂いがした。カウンターにいた小柄な女性が、あたしたちを見るなり、にこっと笑った。
「いらっしゃいませ。お疲れのようですね。今夜はちょうど空いてますよ」
「助かる」
マティアが宿帳に名前を書いて、鍵を受け取ると、あたしたちは二階の部屋へ直行。
部屋に入るなり――。
「も、もう無理……」
ユニがベッドに倒れた。シラもその隣にバタッ。
「今日、マジで修羅場だったもんね……」
あたしも残ったベッドに腰を下ろし、そのままバタンと倒れ込んだ。
・
翌朝。窓から差し込む朝の光で目を覚ますと、外は雲ひとつない快晴だった。
ラコナの街並みは、昨日の夕方とはまるで別の顔を見せていた。
通りにはパンの焼ける香り。石畳の上では市場の準備が始まっていて、カゴいっぱいの野菜や果物が並んでる。鐘楼の塔では小鳥が飛び交い、川のせせらぎも聞こえてきた。
「おはよう、リナ」
ドアが開いて、ユニが顔を出す。
「よく寝た?」
「うん。体、だいぶラクになったかも」
「マティアとシラはもう下で朝ごはん中だって」
あたしたちも簡単に身支度して、階下の食堂へ向かった。
テーブルでは、マティアとシラがパンとスープを前にのんびりしていた。
「お、来たか。おはよう。さ、食べて食べて」
「いっただきまーす!」
スープはあったかくて優しい味で、パンは外カリ中ふわっ。ほんと、こういうのでいいんだよこういうので。
「ねぇリナ」
シラが、あたしの顔をじっと見る。
「昨日のアレ……あれって、何? すっごく興味あるんだけど、詳しく教えてくれない?」
……そうだよね。言われるまで、忘れてたわけじゃないけど……思い出さないようにしてたのかもしれない。
「……自分でも、よくわかんない。ただ……剣を握ったとき、体の奥からすごく冷たい感覚が走って……」
「冷たい……?」
マティアが少し真剣な顔になる。
「……それ、カーネルさんの〈氷刃〉と似てる気がする。何か心当たりは?」
「うーん……ないけど……わかんない……」
「まあいい。遺跡に行けば、何かわかるかもしれないしな。まずは食べて、準備して。少し街を歩くのも悪くないだろう」
マティアの提案に、あたしたちは黙って頷いた。
――このラコナの街で、きっとまた“何か”が始まる。
――次回「ep30.隠れされた遺跡の前でユニは中に入ることに躊躇する」
2025年08月17日 17時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/30




