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リナは風景を見る余裕もなく渓谷を下る

 あたしたちは、温泉郷ファルデンで一泊した後、古代遺跡のあるラコナに向かい、川沿いを下っている。

 ファルデンには、あたしたちを連れ戻しに来たと言っていたアリスタルコとユストがいた。彼らがいつまで「休暇」なのか知らないが、いつ追ってくるかもわからない。早く離れなければ。

 だから、あたしたちは夜明けすぐにファルデンを出発し、まだ肌寒い川沿いの小道をひたすら歩いていた。

 谷の奥から吹き下ろしてくる風は冷たく、背中を押すように流れていく。

 マティアは「山が雄大だ」とか「紅葉がキレイだ」とか言ってるけど、そんな呑気なことを言っている場合ではない。

 修道院に戻されたら、あたしたちは、お父様の想いを知ることができなくなってしまう。


 ――そんなのは、もうごめんだ。


 そんな風に思いながら、あたしたちは川沿いの道を歩いていく。

 しばらく歩くと、これまでの渓谷の小さな川が大きな川にぶつかって、ようやく視界がひらけた。そこには河畔の桟橋があった。朽ちた木材で組み直された船着き場には、小ぶりな帆船が揺れている。陽は傾きかけ、山影に沈みゆく光が水面に紅を差している。

 谷の向こうから冷たい風が吹き降りてきて、帆船の帆がぱたぱたと鳴った。その音が、なぜだか胸の奥をざわつかせた。

 ここから先は船を使うとのことで、マティアが雲の沸き立つアルペン山脈を指さしながら船員と何やら話し込んでいる。


「ここまで来れば、しばらくは追ってこられないんじゃないかな。船に乗ると少しかかるんだが、たぶんもうすぐ……」


 船着場で待っていたあたしたちのところに、マティアが戻ってきて、そんなことを呟くと、遠くから馬が駆ける音が近づいてきた。


「ちょっとー! アナタたち! 待ちなさーーーーーい!!」


 遠くから見てもわかる。風に揺れる特徴的なピンク色のツインテール――。ユストだ。

 器用に馬を乗りこなすミニスカートから伸びた脚が川光を反射する。


「やぁっと追いついた。もう! 行くなら声くらいかけてから行きなさいよね」

「私たちを捕まえに来たんでしょ? なんで声かけなきゃいけないのよ!」

「あら。ユニちゃん、こわーい♡」


 昨日のオフモードとはうってかわって、声のトーンを一オクターブ挙げているユストにあたしたちは戸惑いを隠せない。

 

「ユ、ユスト。あたしたちには大事な目的ができたの。”秩序”もわかるけど、もう少し待ってくれないかな」

「リナちゃん? 言われたことはきちんとしてくれないと困るんだよね。”秩序”が乱れちゃう。リナちゃんたちは、ラルヴァンダート様の巡礼の途中でしょう?」

「というわけで、大人しく付いてきてくれると嬉しいな♡」

「ユスト。俺がリナとユニはノートガルトに連れて行くから、それまで待ってくれないか?」

「……アナタは”勇者”マティアね? こんなおじょーちゃん達と旅するのもつまらないでしょう? もし、この二人を渡してくれると嬉しいナ♡ そしたら、アタシとお食事でも……」


 そういって、ユストはマティアに抱きつこうとするが、マティアはそれをかわし――。


「いやぁ。そうは言ってもね。俺は彼女らと約束したんだ」

「……」


 ユストは明らかに苛ついてきている。


「しょうがないなぁ」

 

 そういうと、ユストが腰から細いリボンが巻き付けられていた棒を引き抜いた。ユストがそれを振るうと、金属のように硬い響きがする。布のリボンに見えるそれは、微細な金属の繊維で編まれているらしく、風を裂いて煌めく。


「ちょっと怪我しちゃうかもだけど。ゴメンだよ♡」


 そういってユストはリボンを振るってきた。空気を切り裂く音は、布のリボンのそれではない。

 あたしたちも剣を抜いて応戦する。

 ユストはまるで舞うようにリボンを扱い、鋭利な刃物のような切れ味であたしたちを襲ってくる。その姿はまるで踊り子のようだが、攻撃は確実にあたしたちを狙っていた。

 あたしとマティアは近づくことさえままならない。ユニはクロスボウで狙っているが、踊るようなユストの動きに狙いが定められずにいる。


「何それ。エグっ。〈火輪斬(ファイアリング・レイ)〉!」


 炎の輪がユストに向かって迸る。だが、ユストはリボンを一振りするだけでその炎を霧散させる。そのリボンは布のようにしなやかなのに、金属以上の強度を持つ――厄介な防御手段だ。

 ユストはくるりと回転し、リボンが弧を描く。まるで踊るような軽やかさだった。


「シラちゃん。どんな凄い魔法も当たらなければ怖くないよーん♡」

「うっわ。ムカつく! あれ、攻防一体ってやつじゃん!」


 その時、ユストのリボンがユニの左腕を斬った。


「きゃっ」

「ユニ! 大丈夫?」

「大丈夫! ちょっとかすっただけ! でも埒が開かないよ!」


 その時――。


「おおい。待ってくれーい」

――次回「ep28.季節の移り変わりが戦況を変える」

2025年08月16日 21時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/28

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