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黒服たちを従えた小柄な少女は異様な姿で現れる

 バァン!!


 爆音とともに吹き飛んだ扉の向こうから、現れたのは――。

 ピンク色のツインテールを風になびかせた、小柄な少女だった。

 上半身はゴツいくらいに固めてるくせに、下はミニスカートにニーハイ、厚底ブーツという謎すぎるコーディネート。異様すぎて、むしろ目が離せない。


「リナちゃんに、ユニちゃんだね? 探したよ〜♡ 安心して、ワタシは悪い人じゃないよ? ねぇ、みんな♡」


 その後ろにずらりと並ぶ黒服の男たちが、無言で睨んでくる。何者なのか、全く想像がつかない。


「……誰が信じるか!」

「お前たちは、いったい何者だ!?」


 マティアの問いに、少女はくすくす笑いながら言う。


「それを知って、なにになるの? 知らないほうが……きっと、幸せだと思うよ?」


 ――やるしかない。

 あたしは迷わず片手剣を抜いた。刃が高く、キィンと鳴った。


「へぇ〜、やる気なんだ? ……まぁ、想定内だよ。じゃあ、ミンナ。お願いね♡」


 彼女の甘ったるい声に、場の空気が一瞬だけ緩んだ――気がした。でも、それが一番の罠。

 その瞬間――!

 黒服のひとりが、音もなく距離を詰めてくる!


「はやっ……!」


 構えた剣でなんとか受け止めたけど、腕にずしんと鈍い衝撃。速すぎて軌道も読めない!


「シラ、援護して!」


 あたしが叫ぶと――。


「んー? 私はパスかなー」


 ……このピンチでパスって?!

 シラは資料に夢中でこの騒動でも目を離さない。


「マティアがなんとかするっしょ? 私は資料見てるから」

「この状況でっ!? お前な……」


 マティアがツッコミつつも、剣を構える。


「来るぞ!」


 あたしとマティアが前線、ユニは後衛でクロスボウを構える陣形になった。

 敵の一人が突っ込んでくる――! 剣を振るうと、まるで風が巻き起こったように相手のマントがはためく。

 あたしは剣を振るって応戦するが――。あたしの振るう剣から、一瞬、冷たい冷気を感じる。


「……っ!?」


(なに、これ……? あたしがやっているの……?)


 あたしの剣が敵の肩をかすめ、じんわりと血がにじむ。

 ユニがすかさず援護。


「リナ、右! 二人目が回り込んでるよ!」


 声に反応して振り向きざまに剣を構え、なんとか一撃をかわす。今度はいつも通りの剣だ。

 マティアが敵に飛ばされてぶつかった棚に目をやると――。


「これだ! ドラゴズヴァスのジャービル爺さんが言ってたやつ!」


 薬瓶と砂糖を掴んで叫ぶ!


「シラ、いいこと思いついた。実験だ! 小さなのでいい。火を出してくれ! リナは剣を頼む!」

「え、何? 何か面白い実験やるの? やるやる!」


 テンションが上がったシラが小さな火球をポンと出す。

 瓶に粉末と砂糖を詰めて加熱するマティア。その間にも、敵は距離を詰めてきていた!


「ユニ、合図したら瓶を撃て! いくぞ……今だ、撃てっ!」


 放たれた矢が瓶に命中し――。

 ――ドカン!!

 視界を覆うように、白煙が一気に噴き出した!


「ユ、ユスト様! 何も見えません!」

「ちょっ! どこ触ってんのよ!? って、痛っ! 殴るわよ!?」


 もう小屋の中は大混乱!


「今だ、逃げるぞ!」

「ちょっと! 資料は持ってくー!」


 煙に紛れて、あたしたちは小屋を脱出。川沿いの道を必死に駆けた。

 その背後――。


「追うな! 味方に当たる!」

「ったく、ほんと使えないな〜。ちゃんとしてよね? あのコたちは『生きたまま回収せよ』って言われてるんだからさぁ」

「申し訳ありません。ユスト様」

「ま、コレが手に入ったから最低限の収穫ありだよ」


 残された黒服の男たちと、いつのまにかお父様の手にしていた怪しい女ユストの声が響いていた。


 ・


 川沿いに戻り、あたしたちはようやくベルグシュタットの城下町に戻り、小さな宿屋に逃げ込んだ。

 誰もがしばらく、息を整えるだけで精一杯だった。


「ごめん、リナ……手紙、置いてきちゃった……」

「ううん、しょうがないよ。あんな状況だったし……」

「……でも、あの人たちなんだったんだろう……。教団の人間がなんであんな場所に……」


 ユニの呟きに、あたしの胸の奥もざわついた。


「ねぇねぇ! それよりマティア、さっきの煙のやつ! なにあれ!? めっちゃ面白かったんだけど!」


 と、シラがいつもの調子でマティアに詰め寄る。


「……あれは、ドラゴスヴァスで会った“薬屋”のジャービルって爺さんに教えてもらった煙幕。『趣味用』って言ってたけど危なすぎるし、もう使いたくないけどな……」

「えぇ〜? 私そのおじいちゃんに会いたい! 行こ! 今すぐ!」

「シラ、落ち着け! 今はリナのペンダントの話だろ」

「あっ、そうだったそうだった。……あそこには、私が今まで見たことのないことが書かれた本が、たくさんあったの。私たちが使う魔法って、定められた因果律を〈秩序(オルデン)〉として、世界を木・火・月・水・金の五大元素に分類。それを〈言語(ロゴス)〉で定義することで顕現させてるでしょ? その魔法体系には〈ゼーレン〉とか〈エネルゲイア〉って言葉は出てこないのね――なのに、魔法の根幹みたいな書き方がされてるの。何のことか、さっぱりわからなかったんだけど……」

「……難しいことはわかんないけど、そのペンダントに、次の手がかりがあるってこと?」

「そう! しかもその資料、ラコナの遺跡の拓本から写されたみたいだった!」

「ラコナか……山の向こう側だな……」


 敵が動いた今、こっちも止まってはいられない。


「西からじゃなく、東のルセリア経由で山を越えよう。あっちは監視が薄い」


 マティアの提案に、みんながうなずく。


 あたしたちはもう、“用意された道”なんかじゃなくて、自分たちで歩く旅を始めたんだ。

 ペンダントの謎。お父様の足跡。そして、敵が隠そうとする真実――。

 この旅の本当の意味が、少しずつ、姿を現し始めていた。

――次回「ep22.湖に向かう馬車の中で勇者は国の仕組みをざっくり語る」

2025年08月14日 21時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/22

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