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魔王は自らの役割を終えて舞台から降りる

 いやいや、マジで、どうなってんだこれ。

 目の前にあるのは、でっかくて重そうな扉。その先から、冷たい空気が流れてきてる。あれか? いわゆる『魔王の間』ってやつか?

 バルナバが先に進む。俺もそれに続いて、恐る恐る一歩踏み出した。すると、部屋の中の青白い燭台が一つずつ、まるで歓迎するかのようにぽっ、と灯っていく。いや、怖いって。

 奥には玉座。そこに――いた。黒ずくめの鎧。仮面。でっかい剣。

 あれが、“魔王”。


「よく来たな、歓迎しよう……」


 声が、響いた。低くて、でもどこか冷静で、余裕がある。俺は飲み込まれそうになったけど、後ろからバルナバさんの声が飛ぶ。


「“魔王”カーネル! お前が秩序を乱す元凶だとわかっている! この“勇者”が聖剣グラムをもって成敗する!」


 (えっ、俺!? 今の言い方、なんか紹介された!?)


 “魔王”が、ゆっくりと俺の方に顔を向けた。


「ふむ……お前が“勇者”か。名は?」


「お、俺はマティア! 渡り鳥の民(リンドバーグ)で……その、“勇者”、やってます!」


 言ってから、自分でも何を言ってるのかわからなかった。だが、“魔王”カーネルは意外にも笑った。


「ほう……渡り鳥の民(リンドバーグ)の人間を“勇者”にするとは。なかなかの皮肉だな。……いいだろう。それが“恩寵(サクラメント)”だというのなら、私も“魔王”として応じよう。勇者マティアよ。……いや、こういう時のセリフは……『”勇者”マティアよ。私の味方になれば世界の半分をお前にやろう。どうだ? 私の味方にならぬか?』だったかな?」

「なっ!? そ、そんな誘いに乗るわけないだろ!」


 俺がそう叫ぶ前に、テモテが鋭く割って入った。


「秩序を乱す者は、削除あるのみです!」


 そして、戦闘が始まった。

 “魔王”が片手を突き出し、そこに魔法陣が現れる。


「〈氷裂閃(シャードバースト)〉」


 寒気とともに、凍てつく風が押し寄せる。それを見てフィレモンが叫んだ。


「あれは氷属性の範囲攻撃! 防御を!」

「〈岩障陣壁(ジオウォール)〉!!!」


 バルナバさんが盾を構えて魔法障壁を展開。吹雪はそれに防がれたが――。


「……甘い」


 “魔王”がもう一発。今度は足元から這い寄る冷気、〈凍洗陣(クリオクレンズ)〉。それが防壁を崩す!


「くっ、なんて魔法だ……」

「やるねぇ。こういう時は……こっちも全体攻撃♪」


 シラが陽気に指を鳴らし、炎の魔法を放つ。


「〈超撃爆裂火炎(ふれあ・ばーすと)〉! どっかーん♪」


 爆炎が“魔王”に直撃! だけど……まだ立ってる。


「この程度か。ならば……」


 “魔王”が剣を振るう。バルナバとデマスが防ぐも、受けるたびに押し込まれていく。


「こいつ……物理攻撃もやばい……」

「回復します!」


 テモテが祈りを捧げる。が、その隙に“魔王”が剣を掲げた。


「〈氷刃〉」


 “魔王”がそう言うと剣が青く輝き、地面が凍りつく。

 ……見たことない技だ。皆も驚いてる。その攻撃は一撃一撃が氷の属性を帯びている。


「な、なんなんだこれ……」


 百戦錬磨のデマスも驚き、パーティーのみんなも防戦一方だ。フィレモンはぶつぶつと何かを記録してる。

 その時、何もできていない俺は思い出していた。冷気、金属、温度変化……。


「シラ! 火の玉をたくさん剣に当て続けるんだ!」

「いいよ〜♪ 〈爆裂火炎(ふぁいあ・ばーすと)〉!」


 剣に熱が伝わった。次の瞬間――。


「今だ! デマスさん、連撃お願いします!」

「おうよっ!」


 これを繰り返しているうちに、デマスの剣撃が炸裂し、ついに“魔王”の黒剣が折れた!

 “魔王”は折れた剣を見下ろし、ひとつ息を吐いた。

 

「なかなか。やるな」

「やった……!」


 でも、まだ終わってない。


「では……こちらも本気を出すとしよう」


 “魔王”の背後に、巨大な魔法陣が現れた。空間が震える。


「これは……!」


 フィレモンが震え声で叫ぶ。


「最強クラスの魔法、〈真空の斬撃(ヴェントスラッシュ)〉です!」


 空気を裂く千枚の刃が、俺たちを切り刻もうとしている。

 そのとき、みんなが一斉に振り返った。


「……“勇者”様、決めて」

「……は?」


 俺の手にある、聖剣グラム。

 ここで、俺がやるしかないのか。


 「うわあああああああああ!!!」


 俺は叫びながら、勢いよく突っ込んでいった!

 そして――剣を、振り下ろす!

 その一撃が、“魔王”カーネルの胸を貫いた。

 背後の魔法陣は崩れ、光が消える。“魔王”の身体が、崩れ落ちた。


 「見事だ……”勇者”マティア……。ふふっ……渡り鳥の民(リンドバーグ)のお前ならあるいは……」


 何が起こっているんだ? 俺が? ”魔王”を? 倒したのか?

 擦れる声で、”魔王”カーネルは呟く。

 

「これで私は“役割”を終えられ……すまない……迎えにいけな……」


 それが“魔王”の最期の言葉だった。誰かを迎えに行くつもりだったのか? その言葉は俺の心にずっと残っていた。

 そして、戦闘が終わった魔王の城に静寂が訪れた。


 (……え? これで、本当に終わりなのか? こんなあっさり? 俺はキャリーされただけで……)

 

 俺はその疑問を口にする。


「終わった……のか?」

 

 その言葉が静寂を破り、”勇者”一行の勝利の歓声がこだました。

――次回「ep03.勇者は凱旋の中で孤独に想う」

2025年08月08日 17時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/3

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