その場所で魔王の娘はあの時のことを思い出す
――玉座の間。
重くて大きな扉の先に広がっていたのは、ひんやりとした静寂と、青白い燭台の光に照らされた、どこか厳かな空間だった。それだけで、胸がきゅっとなる。あたしの足は、部屋の真ん中で止まってしまった。
たった一歩――その一歩が、どうしても踏み出せなかった。
あの光景が、また目の前に浮かぶ気がしたから。
――お父様が、そこで、倒れている。そんな錯覚に、胸がぎゅっと締めつけられる。
「リナ。大丈夫? 無理しなくていいんだよ?」
ユニの優しい声が、そんなあたしの心をそっと包んでくれた。でも、あたしは思い出していた。
(……あれ?)
――お父様の遺体、どうなったんだろう。
たしかにここで見た。はっきりと。でも、いま考えたら……遺体はどこに行ったの?
子どもの頃は「死んだら体が消える」と思っていた。でも、あたしの飼っていた犬のロスは、後からお墓に埋められていた。
じゃあ、お父様は? 誰が……どこへ?
「うーん……それ、俺もちょっと気になってたんだよね。関係者に聞いても、誰も知らないって言ってた。教団が神格化を恐れて隠したんじゃないかって話もあったけど」
「“魔王”の遺体なら、研究材料として教団が絶対に確保するはず。でも、私のところには何も話が来てない。つまり、教団にも届いてないってこと」
マティアもシラも、首をひねるだけで答えは出なかった。
「誰かが……こっそり連れて行ったのかな。お父さん、慕われてたって言ってたし」
ユニが、ぽつりとそう言って慰めてくれる。
心配しているのか、その声の奥に、何かを押し殺すような、かすかな震えを感じた。――本当に優しい子だ。
「まあまあ。ここで考えても仕方ないでしょー? 謎は調べていくうちに解けるはず!」
そう言って、シラがスッと奥の執務室に消えていく。マティアもノートを取り出して、何やら地図とにらめっこしてる。
「ふむ……こっちの配置と合わせてみると……この辺に、隠し通路がありそうだな」
――って、なにさらっと本棚動かしてるの!? と思った瞬間、
「やっぱり。あったぞ。ここだ」
隠し扉が、音もなく開いた。
その奥には――あたしの、懐かしい、お父様の部屋があった。
埃っぽい空気、蜘蛛の巣、誰も入っていない匂い。
ここに、あたしは……帰ってきたんだ。
でも、シラはそんなのおかまいなし。
「うーん。やっぱりね。これ、わざと情報が中途半端に終わってる。誰かが意図的に、ここで探索を止めさせようとしてた形跡アリ。絶対、別の場所に本命がある」
「それって……また隠し通路……?」
あたしたちが部屋の中を見回していると――。
「みんなー! ちょっと来て!」
ユニの声。あたしはすぐに走っていった。
絨毯を剥ぐと、そこには――金属製の、鍵のかかった扉。
「こっちだよ、きっと!」
「おお、ナイス観察眼♪ さすがはユニ! この下に……研究室があるに違いないっ☆」
でも、肝心の鍵がない。どうするかと困っていた、そのとき――。
「……あーもう、イライラするっ!」
突然、シラが扉の前に立つと――
「岩砕衝!!」
ズドンッ!!
土魔法で――まさかの強行突破!?
「はーい☆ 準備オッケー! 行きましょー!」
階段の先に消えていくシラの背中を、あたしたちはただ唖然と見送るしかなかった――。
――次回「ep20.魔王は研究室に手がかりを残していた」
2025年08月14日 06時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/20




