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誰もが理解できない言葉を語る魔法少女はそれでも言葉を緩めない②

「……これを調べてほしいの」


 あたしはお父様の形見のペンダントを、そっと差し出した。


「ふむ……庭園水晶ガーデンクォーツだね。ちょっと貸して」


 シラは目にした瞬間、今までのふざけたテンションをすっと止めて、急に真剣な表情になる。


「俺の知り合いでズナーメンの“ガラス職人”レーマンさんにも見せたんだ。テルミン鉄鋼が混じってるかもしれないって――」

「そんなの見ればわかるでしょ、うっさい黙れ」


 シラは小さな眼鏡を取り出し、白い手袋をはめると、反射光の角度を変えながらペンダントを細かく観察しはじめた。

 眼差しが真剣になる。


「……これは二酸化ケイ素。石英……に鉱物が内包されたもの。内包物が複屈折してる。……クローライト……いや、これはエピドートか。でも、微細に混ざってるのが――うん。テルミン鉄鋼の母鉱の一種だね。普通、結晶中にこんな形で出てこない。混晶……いや、微結晶レベル……? えっ、これ天然物なの!? いや、人工成長か? 共晶点が……いや、待って……。ん……? ヤバっ。これ、中に……文字……いや、符号? C……に、△……? 記号系の魔法式にも見えるな。仮にそうだとしても、構文(コード)が成立してるように見えない。でも、どうやって? 失われた技術? ズナーメンの『失われた百年』で消された魔法技術があるって話を聞いたけど……これは、その体系? たしかに、テルミン鉄鋼はズナーメンでも取れるから、そういうことを考える人いてもおかしくないけど……。でも、それを知って人為的にやるとして……その技術は……不明。うーん。この先はこれだけじゃわかんないな。じゃあ――この研磨。もちろんコールドワーク。そういう点では専門家の国内トップクラスのレーマンに聞きに行った”勇者”サマは正解。……刃跡が残ってるけど、一定方向に揃ってない。おそらく機械加工ではなく手仕上げ。粒度の違う研磨材を段階的に使ってる。研磨材の選択も丁寧だな。最終的には極細目の千号シリーズを使ってそうだけど、その前は細目の四百号シリーズかな……うーん。素人作業にしては――あまりにも丁寧すぎる。長時間、集中して作業することが求められるけど、集中が切れたらすぐに刃がブレる……のに、その痕跡がない。相当大切な想いが込められてたのかな……」


 シラの高速な独り言は、色々なジャンルのよくわからない専門用語のいくつも飛び出し、同時に複数のことに話が跳躍し、あっという間にあたしたちを置いていった。


「……昔からこうだったが、ここまでとはな……」

 

(マティアは苦笑しつつも、どこか安心したような顔をしている)

 

「ええと。シラ。私達にわかるように訳してもらえるかな……?」


 ユニがあたしも言いたかったことを言う。

 

「……あ。ごめんね。えっと。まとめると――『テルミン鉄鋼をはじめとした複数の鉱物を内包した高密度構造を持つ特殊鉱物を長時間かけて相当な情念を持った人物が丹念に非工業的な研磨をして仕上げた民間工芸品』ってとこだね。内部には、何らかの魔法的情報があるようにも見えるけど、私が知る限り『物質に魔法情報を固定する』事象は私たちが観測した〈氷刃〉の一度しか確認されてないから、これはそれっぽく見えるだけで偶然かも。でも、ここまでのものが偶然なんてことはたぶんありえない」

「……仮に、『物質に魔法情報を固定する』技術があって、その片鱗がこのペンダントにある場合は、これを作った人は悔しいけど私が知らない魔法の技術体系を知ってることになるね」


 マテァアが軽く頷く。


「……覚えていないか? これは”魔王”――カーネルさんのものだ。あの時、デマスさんが俺に記念ってくれたペンダントなんだ。もしかしたら、このペンダントにはこの国の仕組みに関わる、重要な何かが隠されているかもしれない」

「マジか。あの時のか……もったいないことしたなー。もっとちゃんと見とけ十歳の私。でも、〈氷刃〉を見てテンション爆上がりしてたからな……。そうなるとこのペンダントにはマジで何かあるとしか思えないね。この国の仕組みとかには別に興味ないけど、このペンダントは面白そうだね」


 (『物質に魔法情報を固定する』技術は難しいことなんだ……。でも、あたしはたぶんそれを……)

 

 あたしにペンダントを丁寧に返し、手袋を外したシラには、普段の軽さやズボラさとは裏腹に、指先には研究者としての異様な集中と、魔法に向き合う者としての敬意が宿っていた。

 

「ペンダントを作るのにすごく時間がかかったのは覚えてるけど、これはお母様とあたしで作ったもので……。お母様に魔法の知識なんてなかったと思うのだけど……」

「……なるほど? ……で、リナは私に何をして欲しいわけ?」

「この石について、何かわかることがあったら教えてほしいの。さっき色々難しいこと教えてくれたけど――お父様が知ろうとしたことの手がかりがこれにあるかもしれないから」

「それなら、お母さんに聞けばいいんじゃない?」

「……お母様はあたしが小さい頃にはもう亡くなって……」

「どこで作ったのか覚えてる?」

「あたしはお父様が亡くなるまで、ベルグシュタットのお城の外に出たことはなかったの。でも、ペンダントを作ったのはどこかの小屋だった。そういえばあれはどこだったんだろう……」

 

 シラはしばらく黙ってペンダントを見つめて呟く。


「オッケー……」

 

 そして、急に真顔のまま、両手を広げて棒読みで叫んだ。

 

「……あー。大変だぁ! ”勇者”サマが天才である私を頼って、とんでもないものを持ってきてしまったぁ! 『魔法を物質に固定する』研究の上で必要な大変な発見かもしれないー。フィールドワークが必要だぁ。わー。どうしよう?! 私としては、困ってる”勇者”サマを放って置けないし、これは長い旅になるなぁ。今からすぐ支度しなきゃだー。わー。大変だあ」


 シラは、真顔のまま、大げさな身振り手振りで奇妙な動作をしながら、突然棒読みで言い出した。

 

「えっ?」

「実は私。来週までに研究の年次報告書と経費計算をしないといけないんだよね。それがまだ白紙なんだ☆ 書くネタはいくらでもあるけど、書くのが面倒くさくてさ。ここにいると事務の人――名前なんて言ったっけな――が、催促に来てうるさいんだよね。でも! 長期間のフィールドワークに出てるとその間はそれが免除されるのデス☆ 後から何年分かまとめて報告する形でいいんだよねー♪」

 

 そういってシラはにやりと笑う。


「お前、それ、俺を口実に報告書の先延ばしをするつもりか? 俺たちはただペンダントの情報がわかればよくて同行してくれだなんて――」

「あー。残念。私に、今、『”魔王”が自分の娘にもらったペンダントについて研究せよ』って恩寵(サクラメント)が下ったみたい☆ これは神のお導きだ♪」

「それ、恩寵(サクラメント)じゃなくてお前の勝手な判断だろ」

「わ、昔よりツッコミが冴えてる! え、待って、面白くなりそう! よろしくね! リナ、ユニ。それから……えっと。”勇者”サマ。名前なんだっけ? 私、興味ない人の名前覚えないからさ」

「……今更かよ。マティアだよ!」

「よろしくね! マティア! 荷物取ってくるか待っててね! さぁーいそがしくなるぞー」


(……この人、話してる内容のレベルは高すぎるけど、テンションの落差が激しすぎて……なんか……怖い)

 

 そんなことを感じながらも、こうして、あたしたちはちょっと面倒な、でも楽しげな旅の同行者が加わることになった。

 彼女があたしたちを巻き込むように動いているのか、それとも――。

 すでに誰かの「役割」に巻き込まれているのか……このときはまだ、考えないことにした。


 でも、シラは今までマティアを”勇者”サマと呼んでて、名前で呼んでなかったのか……。どういうことなんだろう……。

 そんなことを考えて、あたしがふとマティアを見ると、マティアは少し照れたように笑っていた。

――次回「ep17.執事は清く正しくあるために全ての支配を企てる」

2025年08月13日 6時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/17

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