誰もが理解できない言葉を語る魔法少女はそれでも言葉を緩めない①
そして、ついに到着した――研究都市トリシア。
ここに、ペンダントを見せたい人がいるらしい。
彼女の名前はシラ。マティアの元仲間で、“勇者”パーティの“魔法使い”。
〈天才魔法少女〉として有名だけど、それ以上に何かと世間を騒がせる問題児。
「トリシア魔法研究所史上最狂の魔法少女! 西街区を凍結させる!」
「またまたお騒がせ! お転婆ガール! 大聖堂での魔法実験で祭壇を破壊!」
「メルキオール大司教の頭痛止まらず! ローエン宮中伯の申し出により、魔法研究員シラ・ウルセス氏のウィザード級資格停止処分は保留へ!」
なんて記事が飛び交ってる。だけど、魔法の実力は本物で、今も“ウィザード級”として魔法研究所に在籍してるって。
……本当に信頼できるのかな。
そんな不安を抱えながら、あたしたちはトリシアの黒い石造りの門を抜け、坂道を上った先にある研究室へと向かった。
トリシア魔法研究所・魔法工学研究分室。そこがシラの研究室だった。
ノックもそこそこに中へ入ると、室内は生活感と混沌の塊だった。
実験器具、服、書類、食べかけの何か……全部散乱してる。
「おーい。シラ。俺だ」
マティアが声をかけると、奥から爆発音と共に甲高い声が飛んできた。
「うわっ!? 誰!? 今すごくヤバい魔法の調整中! 絶対にそこ動かさないで! 一歩間違うとこの辺まるごと消し飛ぶから、そっと入ってきてぇ!」
そして、白衣が半分脱げかけた少女――シラが姿を現した。
「え、“勇者”サマ!? マジで!? 久しぶりすぎでしょ!? 生きてたんだ!」
髪はぼさぼさ、ボタンはかけ違え、左右ちぐはぐな靴。
天才ってだいたいこういうものなのかもしれない。
「……お前、もう大人なんだろ」
「えへへ~そうだよ~。 この前、成人登録もしてきましたっ! って、”勇者”サマなんかオーラ減ってない!? おじさんみが増してるよ? 何年ぶり? てか今さら何しに来たの?」
シラはマティアどんどん言葉をぶつけてくる。
「落ち着け、シラ」
「無理。情報が多すぎる。どうしよう。見せたいものいっぱいあるよ。例えばこれ。魔法銃」
「弾丸に魔法を装填して撃つと子供でも魔法が打てるようになる銃なんだけど、誰も魔法に弾丸を装填できないのが欠点で、でも、その研究を今……」
「落ち着け。シラ。弾丸に魔法を、だろ? たぶん逆だ」
「え。そだっけ? ま。いいや。撃てればどっちでもよくない? で、何? お悩み相談? お金? 研究費ならローエン様に言えばいくらでも使えるけど、メルキオール様最近うるさいんだ。お金は貸せないよ。ごめんね」
この人、ぶっ飛んでる。
「今日は人を紹介したくて来た」
マティアが話を戻す。
「この子がリナ。俺たちが“魔王”として討ったカーネルさんの娘さんだ」
シラの表情が変わった。
「……あの人の娘? へえ……魔法、すっごく面白かったなぁ、あの人。もっと話してみたかったのに」
あたしの胸にチクリと痛みが走る。
「あなた、お父様を殺しに来たんじゃないの?」
「んーん。あの時、私はまだ恩寵出てなかったし、私の場合は、恩寵というか、依頼? は『魔王がどんな魔法を使うかの調査』だけ。あとは個人的に『私の最大火力の魔法がどこまで通じるかの実験』したくて……。ま、この実験はあたしの趣味って感じだけどね。死んじゃったのは気の毒だけど、みんなそういう恩寵だったみたいだしなぁ。あの時はみんなが自分の”役割”を果たしていただけだもの。あ。そうだ。あなたのお父さんの魔法凄かったし独特だったから、あなたもきっと魅力的だね! ね。魔法使える? どんな系統? 何が得意なの? あ。体触るね。うん。体も鍛えてそうだね! ひょっとしてお父さんと一緒で剣も魔法もできちゃうタイプ?! お話聞かせてほしいな!」
シラはあたしの体にベタベタ触りながら、息継ぎもせずに話しまくっている。
「ちょっと! あんた。いきなり何なの? 元勇者パーティの一人か何か知らないけど、私たち初対面だよね」
しびれを切らせたユニが怒り出した。
「あー。ごめん。ユニ。シラはいつもこんな感じなんだ」
「シラ。お前、昔よりも息継ぎしないで話す癖が悪化してるぞ」
「えー。そんなことないよー。私はぜーんぜん変わってないよ。小さな頃からずっとこう。私は魔法のヤバい深淵を知れれば他はどうでもいいの。そのためには少しでも早く話さなきゃ。あ。そうだ。最近、言葉じゃなくてイメージを転送する魔法を作れないかと思っていて……」
また別の話をしようとし始めたシラをマティアが止める。
「その話はまた今度にしよう。こっちの金髪の子はユニ。リナと一緒の修道院にいて、リナの”親友”だ」
シラは、今度はユニの体もベタベタ触りだす。
「……ユニは女の子らしい柔らかい体だね。魔法……は使えなさそうだけど、しなやかな筋肉は柔軟性があって身体能力も高さそう。素早い動きとか意表を突く動きとか得意なんじゃないかな。それに……武器はクロスボウが得意かな。指にタコができてる。魔法使いの詠唱中って隙ができやすいから、近距離も遠距離も対応してくれる人がいるとすっごく助かるし、安心なんだよね。さっきもリナの気持ちを汲んで代わりに怒ろうとしたし。リナとユニはいいコンビだね♪」
褒められ慣れてないユニはまんざらでもなさそうだが、口では怒りつつ微妙にニヤけている。
でも、一目でユニの特徴や性格を見抜いた。この人やっぱりすごい人なんだ……。
「リナ、ユニ。シラはこんな感じなんだが、魔法に関しては間違いなく国内でもトップクラス。上級を通り越して、ウィザード級なんだ。魔法のことを彼女に聞いてわからなかったら、国内にわかる人はいないってくらい凄いらしいんだ」
「えっへん! ”勇者”サマ、久々なのに私のことよく知ってんじゃん? やるぅ~。えらいえらい。でも、『らしい』ってなによ。よく変わってる言われるけど、私、突然変なポーズ取ったり、『エル・プサイ・コングルゥ』とか言い出さないよ? 私みたいに、魔法に命賭けて研究してる人そんなにいないんだからね。私以外だとクロイツフェルトにいる……」
「シラ。その話はまたにしよう。リナ。例の話、聞いてみて、いいかい?」
あたしは黙って頷き、お父様の形見のペンダントをそっと取り出した。
――次回「ep16.誰もが理解できない言葉を語る魔法少女はそれでも言葉を緩めない②」
2025年08月12日 21時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/16




