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勇者はならずものに出逢っても何もせず宿屋で寝息を立てる

 あたしはリナ。かつて“勇者に復讐する魔王の娘”として、自らに与えられた役割を信じて生きていた少女だった。

 今、私は違う道を歩んでいる。“親友”のユニと、そしてかつて父を討った元“勇者”マティアと共に、父カーネルが命を懸けて知った真実を探す旅に出ている。

 手がかりは、父の形見であるペンダント。

 マティアが「見せたい人がいる」と言ったその人物に会うため、私たちはクロイツフェルトを発ち、研究都市トリシアへ西進する道を選んだ。


 移動手段は馬車。ユニと私はそれに乗っていた。マティアはというと、あえて徒歩で旅をしている。


 「俺、基本歩きなんだよ。マインで“家庭教師”をしているヤーンさんが、鉄の棒を使って体を鍛える方法を考案しているんだけど、健康には歩くのが一番いいって言うんだ」


 根拠としてはあやしいが、マティア本人は信じているらしい。彼は、いつもどこかの誰かが語った知識と経験を糧に生きている。


 ・

 

 やがて私たちは、街道沿いの宿場町に到着した。マティアが宿の手配をしている間、私とユニは街の中を歩いてみることにした。

 その途中――。


「おい、そこの嬢ちゃん。見慣れねぇ顔だな」


 道の向こうから、数人の男たちが近づいてきた。彼らの目つきは鋭く、周囲の人々は視線を逸らしてその場から離れていく。明らかにこの街を牛耳っている“ならず者”たちだ。


「リナ、あいつら……」

「うん。あれは、どう見ても危ない連中」


 あたしたちは無視してその場を離れようとしたが、男のひとりが腕を掴んできた。


「おっと。そりゃ冷てぇな。せっかくだから、これで遊んでいかねぇか?」


 彼が差し出したのは、何かの薬品らしき包み。普通のものではない。明らかに非合法な薬物だと分かった。


「こんな上物。お嬢ちゃんたちにゃなかなか手に入れられないぜ?」

 

 こいつらは懲らしめないと。

 あたしは即座に判断を下す。剣を抜き、刃先を彼らに向ける。ユニは素早く構え、別の男を短剣で牽制していた。


「はっ、女が刃物かよ――っ!」


 男がこちらに飛びかかろうとした瞬間、ユニのクロスボウが火を噴き、矢が肩をかすめた。彼は苦悶の声を上げ、後退する。


「ユニ、右から来る!」

「了解!」


 あたしとユニは背中合わせになりながら、連携して相手の攻撃をいなす。あたしは風の魔法で敵の足元を崩し、ユニがその隙を突いて矢を放ち、あたしが片手剣で制圧する。この連携は、修道院時代から鍛えた戦い方だった。敵の動きは封じることができた。あたしたちが“ただの女の子”ではないことを、彼らに知らしめるには十分だった。


「もうこりごりって思わせないとね」


 あたしたちにとってこの行動は、自分のみを守るための正当防衛だった。だが、通行人たちの反応は冷たかった。誰ひとり声を上げる者もなく、皆が無関心を装ってその場を去っていく。

 街の空気が重くなる。まるで、正しさが通用しない世界に踏み込んでしまったような感覚だった。


「……空気、重いね」

「うん。この街じゃ、誰も彼らに逆らえない。怖いんだよ、きっと」


 正義感で動いたつもりが、周囲の沈黙によって孤立感を突きつけられた。

 私は、ユニの手がわずかに震えているのに気づいた。


「ユニ……怖い?」

「……少しね。でも、私たちが選んだ道だから」


 彼女は自分の不安を押し込めて前を見ていた。

 その横顔を見て、あたしも剣を強く握り直した。この旅を通して、あたしたちは確実に変わってきている――強くなってきている。


 ・


 夕方、あたしたちはマティアと合流し、近くの酒場で食事を取ることにした。ところが、その場で思わぬ人物と再会する。


「おい、お前ら……よくも昼間はやってくれたなぁ。こっちは何人ケガしたと思ってんだ?」


 そう言いながら、昼間の“ならず者”たちが、倍以上の人数を引き連れて現れた。酒場の空気が一気に凍りつく。

 あたしは一歩前に出る。


「懲りない連中ねぇ。こっちも――」

「いや、ここは俺に任せろ」


 そう言って前に出たのは、マティアだった。

 彼は、穏やかな口調と、柔らかな態度で男たちに向き合った。


「うちの子たちが、ご迷惑をおかけしました。でもね、あなた方も少しやりすぎじゃありませんか? せっかくの酒場で騒ぎを起こすなんて、あまり粋じゃないですよ」

「てめぇ、なに様のつもりだ!」


 怒鳴る男に対し、マティアは笑みを崩さず、何かの紙切れを渡した。


「誰でもないですよ。ただの通りすがりです」

「……今回はこれで済ませてやる!」


 男たちは引き下がった。その場にいた誰もが、マティアがなぜ彼らを黙らせられたのか分からなかった。後から酒場の店主や宿屋の老婆に聞いた話では、あの男たちは町を裏から支配している麻薬密売人たちで、住人たちは手出しできずに怯えて暮らしているのだという。

 マティアはその話を聞くと、「なるほどね」とだけ言って、宿に戻ると何事もなかったかのようにベッドで寝息を立てていた。

――次回「ep14.その旅人は自身について語らない」

2025年08月12日 6時00分公開→https://ncode.syosetu.com/n8261kh/14

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