Act 5. Last Stand 28
リアル・ウイルス解消のため、意外な根源であるアカデミアへ行く。
Chpt28 アカデミア再び
シルヴィエ多国籍軍は武器も食糧もなく、ヴォゼヘルゴへ逃げ帰ったが、ヴォゼヘルゴ愛国主義者による容赦ない苛烈なゲリラ的攻撃に遭い、まったく軍隊の体裁をもたない最悪の状態にまでおちいった。
パトリオットたちは、同国人であるヴォゼヘルゴ兵に対しても過酷で、シルヴィエに追従した政府関係者や軍人を裏切り者として、容赦なく追いこみ、攻撃し、死の刑罰をあたえた。
シルヴィエ兵たちは、食べる物も、防寒の装備も、なにもかもをうしない、ユヴィンゴへの帰還すらかなわず、バラバラに逃走するも、シルヴィエ兵狩りによって、つぎつぎと殺されるか、とらえられるかした。
かくして、南下したシルヴィエ軍は全滅したが、ユヴィンゴに駐留していた軍の全軍が南下したわけではないから、とうぜん、ユヴィンゴにのこった軍がいるわけで、そいつらが本国からの支援でいつしか軍を増強して、ふたたびシルヴィエの脅威が復活し、もとの緊張状態にもどってしまうのは、あきらかだった。
そのとき、ヴォゼヘルゴのパトリオットたちがたどる運命は凄惨なものとなるにちがいない。それがわかっていても、積年のうらみはすさまじく、憤怒の炎となって、ほとばしったのだ。シルヴィエ兵を殺し尽くした。
なぁんて、人ごとみたいにいってるけど、あたしたちクラウドも、同じ運命の上にいる。
まあ、しばらくは安全だとおもうけど。
帝国軍がふたたび態勢をととのえるまでは、時間がひつようだろうし、なによりも、ヨセフがユヴィンゴ領内にもどって、滑走路をシルヴィエ製の爆弾で大々的に破壊したからだ。
空爆の危機からは、とうぶんのあいだ、まぬがれられる。
ちなみに、ヨセフは、あたしたちと同じ国民になった。
クラウド勝利のニュースは、全世界を駈けめぐり、世界に衝撃をあたえた。はじめて帝国が敗北したのだ。世界が震撼した。
無敗のシルヴィエの歴史的な敗北。
かっこよくゆーと、歴史がうごいた瞬間ってやつだ。
結果的に、北大陸全土の制覇をねらうシルヴィエの南下政策は大きく後退した。
シルヴィエ敗戦のニュースが知れわたると、ユヴィンゴ王国でさえ、レジスタンスの活動が活発になった。
神聖帝国の駐留軍が国境附近(ユヴィンゴとシルヴィエは境を接していた)まで数カ月間、撤退した。
マーロ皇帝の羅氾は、北上政策を急ぎ、東西南北大陸裂海洋をわたる軍艦数千隻にもおよぶ大艦隊の製造を工廠に急がせた。
同時に、羅氾は、クラウドに軍事協定を打診してきた(ソッコー断ったが)。
ヴォゼヘルゴでは、民族間の紛争が停止し、和解にむけたうごきが時代的な潮流であるという意見が一部の者たちから上がりはじめた。結果的には、一時的だったけど・・・・。
レオン・ドラゴでは、全軍を挙げて参戦したこの戦いで、潰滅状態におちいったため、苦渋の選択がなされた。
あたしたちクラウドに全面降伏してきたのだ。
すべての武器や装備がムジョーによってなくなってしまったんだから、彼らは、そうするしかなかった。
ANKAは、レオン・ドラゴをクラウドに合併することを、ネット上に宣言した。
むろん、シルヴィエを怖れて、この北大陸では合併を承認する国はなかったが、南大陸では、すべての国が承認と賞讃と祝意を表明してきた。西大陸の承認は少なく、東大陸の承認は多かった。
まさに、超大帝国の勢力分布図のとおりに賛否がわかれたことになる。
ともかくも、クラウドは国家の規模を拡大し、強い国々のなかま入りをすることとなったのだ。
一ヵ月後、生きのこった難民たちは(あちこちにおびえてかくれている難民をすべて見つけて救出するには、予想外に時間がかかったが)、全員帰国がかなった。
帰国後も、ヴォゼヘルゴやクラウド(レオン・ドラゴ合併で、国力は数十倍になった)が公費で、生活支援や物資配給、住宅の提供、ふたたび仕事をはじめるための補助金の支給をおこない、難民たちは、幸福を(かんぺきじゃないけど)とりもどした。
あたしたちが旅立てる条件がととのったことになる。
「やっと、最後の解決にいくのね」
あたし、そういった。
出発の日は土砂降り。
あたしたちは、ジョリーに乗って、なつかしい道を遡行した。ただし、今回は警護や雑役をやらせるために、兵士数十名を、龍馬の牽く龍車7台に分乗させて、随行させたので、あたしたちは、ほとんどすることがなかった。
まぢ出世したなーって感じ。
レオン・ドラゴの合併で、財政的には、かなり裕福になっていた。
ジョリーを改造して、金銀や螺鈿や漆や大理石や漆喰やウォールナットやマホガニーをふんだんにつかい、豪華で贅沢なものにした。
寝泊りにも、りっぱな旅館をつかい、車中泊などしない。大名みたいな感じだった。
旅の中心メンバーは、オリジナル・メンバーの女の子5人男の子5人に、ユリアスとRZDとソンタグ・バロイ・カノンだ。
クラウドで留守番するメインの人は、〆裂。
はっきしいって、彼にまかせておけば、あたしたち、永遠に国にいなくてもいいぐらい。じっさい。
天候はよくないが、旅はとても順調だった。
すでに1か月まえにアカデミアの事務局に申請し、大聖堂の地下に入る許可はとってあった。
あたしたちは、聖櫃のWの素材がなんであるか事前にしらべ、同じ素材をとりよせ、それをつかってWの欠けた部分をおぎなうVのかたちをつくっていた。お手製『V』だ。
接合面を正確につくらないとうまくくっつかないので、アカデミアの事務局にたのんで、欠けたWを写メに撮って送ってもらい、微妙な凹凸があうように精密に再現した。
その仕事をミハイルアンジェロとミーシャが精魂こめておこなった。かんぺきなし上がりで、ぜったいにぴったりあう!
・・・はずなんだけど。
エリコがそれを手にして、いぶかしげにいう、
「うまくいくかなー」
あたし、きく、
「なんでよ、かたちあわせたんだから、嵌まるっしょぉー」
ANKAが笑い、
「ただのパズルじゃないからね。
かたちがあえば嵌まる、ってわけじゃないよ。
コマンドが発せられて、プログラムが作動するような、なにかがなくっちゃ、かたちがあっても、嵌まらないとおもう」
平原を横断し、森をぬけ、丘陵地帯に入り、けわしい山岳がちかづく。雨が雪になる。
坂道はしだいにきつく、せまくなる。登ったかとおもえば、せまい峡谷に入り、それでも、じょじょに高度が上がっていくのがわかる。木が低くなり、数が減り、岩がいかつく、荒々しくなっていた。植物は見えなくなり、いかめしくとがった岩岳の世界。
吹雪だ。
やがて、岩山が見えてきた。アカデミアの尖塔は、あの日のまま、その上にそびえている。掘削された道を登った。アカデミアの門衛は、無言だった。雪風が虚しく石壁を敲く。
すべてが懐かしくおもえたが、同じには見えなかった。
大聖堂の偉容は雪雲の曇天を半ばおおいつくしている。石づみの壁がかなしく、切なくおもえた。
外国から来る学者のための大きなホテルを予約していた。
パレス・ガルニエ(パリのオペラ座)のように絢爛な建物で、内装の大理石は、やわらかな黄金いろにかがやいている。
あたしたち兵士もふくめて総勢50人ちかい。ワンフロアは貸し切り状態だった。
荷物を整理すると、あたしたちは、すぐに出かける。
ANKA、ジャジュ、ユリアス、エリコ、エチカ、ミーシャ、ユユ、あたし、非錄斗、イース、迦楼羅、ソンタグ、カノン、バロイ、RZDだ。
なつかしい、せまい路地をいくつかとおる。背の高い建物にはさまれたこの狭隘な裏路地からも、空をなかばおおいつくして、そびえる大聖堂が見えていた。
歩みにつれ、巨大なすがたがちかづく。
この日このとき、大聖堂にはだれもいなかった。あたしたちは、管理事務所にまわる。若い黒僧衣の男が鍵束を持って案内してくれた。鍵の束がジャラジャラと鳴る。
なかに入ると、どこかからイタルが見下ろしていそうな気がした。ユーザーが死んでも、永遠にうごきつづけるアバター。あたしは、そのまなざしを感じた。みんな、知らないふりをしているが、きっと、なにかを感じているはずだ。
まっ暗な階段を下り、聖なる部屋のまえに立った。
聖櫃の部屋に入る。
「さあ、嵌めてみようか」
ANKAがいった。あててみる。接合面のかたちはあっているようだった。けど、嵌まらない。