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Act 5.  Last Stand 26-1

  Chpt26 いぶ(Evening)

       ☆Sept1 なぜ


 天候がさらに荒れた。

 城砦に()もるあたしたちにとっては、有利な状況だ。


「チェバロから連絡があった。

 ヴォゼヘルゴ国内で、シルヴィエ空軍が戦闘機をかくしている場所を見つけたんだ。朗報(ろうほう)だよ。

 やつらは、城砦に()もっているわたしたちを攻撃するために、かならず空軍をつかうはずだから、地上にあるうちにたたかなくては」

 ANKAがそういうと、〆裂が、

「俺がいって来よう。

 シルヴィエの大軍がここに来るまでは、まだ時間がある。今日中にヴォゼヘルゴに入って、明日の朝には帰って来るさ」 

 そういって、白龍に乗り、猛吹雪の空に1人で消えていった。


 あたし、悩んでる。

 ムジョーがきかないからだ。むろん、あたしの力が消えたのではない。そもそもムジョーは叡智(えいち)だから、魔法や神通力や呪術や超能力なんかとはちがって、なくなったりあらわれたりはしない。ある特定の相手にきかないだけだ。


 なぜだろう。

 この世でムジョーでないものなんてない。

 じゃ、なんできかないの?

 すべてがムジョーなのに。

 だれもムジョーから(のが)れられないのに。

 いま見ているものは、一瞬まえの過去でしかない。意識はつねに過去でしかない。もう、なくなってしまったもの、おもい出でしかない。

 こころHeartの表象Representationでしかない。

 表象(イメージ)とは、なにか。人は物事を()(デア)にしてとらえる。イデアは、意味というかたちを持っていて、そのかたちで、あたしたちに理解をあたえる。そういうふうに原的(げんてき)に感じられる。

 うむもなく、ぜひもなく、こんげんてきにそう感じられる。


 でも、なぜ、そんなふうに理解は生まれるのか。

 なんで、そんな在り方? 

 なんで、そんな〝か・た・ち〟なの?


 意味って、なに者なんだ。

 それは、この世界に来るまえからの、あたしのつぶやきだった。


 もし、だれかにこんなことをいえば、くだらないたわごとといわれるだろう。「じっさい、現実って、そーなってるンだからいいじゃん」

 ほんとうにそうならば、あたしも「ま、いいか」ってゆーとおもう。でも、そうじゃない・・・・・・・・・・・・


 暖炉の炎をじっと見ながら考える。

 だれかが来た。

 エリコか、ANKAだとおもった。

 ちがった。

 RZDだ。彼は、あたしのとなりに坐った。

「悩んでるんだな、青龍」

「そうよ。おかしい?

 いま、青龍とかいわれても、皮肉としかおもえないんだけどー」

「悩むことなど、なにもないじゃないか。

 ユリイカ、おまえもいっていた。なにも知らない、ってな。

 そうさ、知ることなどできない。わかるって、なんだ?

 この世は・・・無常だから」


「わかったようなこといわないで。つか、あんたにいわれたくないわ。

 あたしは、青龍の称号を持っているのよ、いちおー」

「そうさ」

「なんなの?」

「いや。

 ただ、それだけだ。

 それじゃ」

 去った。


 ただ、それだけ、って、なにがそれだけだったの? RZDがいっていたそれって、なにをさしているの? ぜんぜん、わかんなかったんだけど?


 なんか、この感じ、まえにもあったような気がした。茶碗をじっとにらんでいたころをおもい出す。


 あたし、じぶんの考えが理解できなくて、しばらく、ぼうっとしていた。

 なにかがわかりかけていて・・・・・。なにかがわかりそうで、わからない。


「ユリイカ、なにしてんのよ?」

 こんどは、ほんとにエリコだった。

 あたし、少しまよったけど、RZDにいわれたことをエリコに話した。いままで、こういう悩みを語ったことはなかったようにおもう。


「なんか、わかる気がするけど、よくわかんないや。叡智(えいち)はあんたの仕事だよ。

それよか、少し外の空気を吸ったほうがいいかも。いこうよ」

 あたしは、だまってうなずく。立ち上がった。篝火(かがりび)の燃える石の廊下を歩く。

2人で城壁の上をわたった。ビュービュー、うなる猛吹雪だ。凍てつく風のせいで生命がよみがえる。


 24人の兵士が24の方向を見はっていた。2時間おきに交替して24時間体制だから、延べで1日288人が見はっていることになる。まぢでここゎ戦場なんだね・・・


「エリコは、えらいよね。敵の船をやっつけてさ、たくさん戦利品も持って帰って来てさー」

「そうでもないよ。

 シルヴィエ軍も、わたしたちが待ちぶせしてることを予想していたとはおもうけど、地理もよく知らず、水の深いところや浅いところもわからず、ながれのはやいところやおそいところもつかんでいなかったみたいだったからねー。かんぜんな調査不足だよ。力を過信していたんだね。

 逆に、こっちは、地元だもん。河のことはくわしかったから、ぜんぜん、有利だったってだけのことよ。

 だから、少人数でも、おもうぞんぶん料理できたよ。さすがのシルヴィエ軍用艦も、警護するはずの重機装甲部隊が壊滅(かいめつ)しちゃー、もーどーしよーもないよね。そんなことは想定外だったんだろーね。

 まあ、とうぜんだけど。〆裂のような人間って、ほかになかなかいないからね。〆裂が来てから、すべてが変わったよ。

 だいたい、彼がいなかったら、こんなに人が集まらなかったとおもう」

「そーか。そーいえば、そうだねー。

 それにしても、視界わるいね。これじゃー、敵がちかづいてもわからないよ」

 すると、大砲の調整作業をしていたタイラクがふりむいて、いった、

「だいじょうぶだよ。

 ガリア・コマータたちが城外を巡回してるし、チェバロも、特殊部隊をつくって城外の木や岩に身をかくしながら、ちかづく敵を警戒しているし」

「そうなんだ。寒いのに、たいへんなんだねー。あたしたちって、こんなにのんきでいいのかしら」

「つーか、そろそろもどろー。冷え切ったよ」

 エリコがそういった。あたしは、まったくきぶんが晴れない。


 非錄斗が来て知らせてくれた、

「ANKAがいっていたよ、『ログでわかるはんいでいえば、帝国主導の多国籍軍がここに到達するのは、おそらく明日』だってね」


 つまり、その日はなにごともなくすみ、夕食のあと、みんなで集まった。牛1頭まるごと入るぐらい大きな暖炉のまわりに輪をつくってかこんだ。


 ANKA、あたし、エリコ、ミーシャがさいしょの輪だ。それぞれ大きなアームズチェアにゆったりと坐って、深くしずむ。顔がはんぶん、かくれるくらいに。

 暖炉の炎は強く、スリッパのさきっぽが()げそうだった。


 外がわ第2の輪には、ジャジュ、非錄斗、エチカ、ユユ、ユリアス、バロイ、カノン。ソファやベンチに、おもいおもいに坐っている。


 第3の輪には、ソンタグ、ノーロイ、カブキ、タイラク、RZD、ボノ。絨毯の上にちょくせつ坐っていた。


 ANKAが語りはじめる、

「IEは、理想の世界。そうおもって、ここに来たんだけど、なんだか、そんなの、とおい、とおい、むかしのことのようにおもえるわ。いろんなことがあったわね、ユリイカ」 

「なによ、ANKA、もう人生の終わりみたいじゃん」

「ごめん、なんか、ふしぎでさ。

 こんなつもりじゃなかったのにね。あんたには、わるいことしたとおもってるよ」

「そんなことない。よかったよ。すごいよかったよ。

 だよね、ミーシャ」

「えー、急にふらないでよー。そーかな、わたし、よくわかんなーい。なんかつらいことばっかりのような気もするし・・・。

 でもねー、正義の意味が学べたよぉー」

 ミーシャがめずらしくそんなことをいう。

「ある意味、リアル・ウイルスの存在には、意義があったのかもしれませんね」

 ユリアスがそういった。

「でも、いまのままを肯定する気はないよ」

 ってボノ。あたしは、

「肯定できないけど、意味はあったんだ・・・・正義か。

 正義が真実なのは、それが自己超越だからだって、そういっていたよね」

「イクシュヴァーンか。

 なつかしいな」

 イースがそういった。

「でも、またアカデミアには、いくことになるのね。

 あまりうれしくない用事で」

 ANKAがそういう。だれもがだまった。


 (まき)が燃えるパチパチという音がするのみ。窓の外は、はげしく吹雪いている。


 ミーシャがいった、

「じゃ、ジンにも意味があったのね」

 エリコがとおい眼をする。うつむいて暗い表情になった。

 あたし、いう、

「そりゃー、あるでしょ。わるい意味がね。意味があるってことと、肯定するってことは、べつだから」

「ジン・メタルハート・・・・か」 

 そうつぶやいて、イースがなんとなく、(いいえ、たぶん、意識的に)、ジンとの過去を語り出した。


「かつて、ぼくは、メタルハートに殺されたんだ。

 そのころ、ぼくたちは、南大陸(スール)にいた。

 羅氾(らはん)が皇帝になって、マーロを世界帝国にした時期だった。

 彼女も、ぼくも、まだマーロという国をくわしく知らずにいた。武人を重んじる気風というだけで、そこに雇われたいとおもっていたのさ。

 志願者は、勝ちぬき戦で闘い、生きのこらなければならなかった」

 ミーシャが眼を丸くする。

「イースが負けたの?」

「ちがう。

 いや、あのころなら、負けていたかもしれない。

 ぼくは、ロード国出身の男と闘い、勝ったが、彼の命を奪わなかった。そして、もうその段階で、帝国に志願したことを後悔していた。

 試験官は、ぼくを殺せと命じた。ぼくは、試験をやめるといった。だから、殺さない、と。

試験官は、ぼくを殺す自信がある者はいるかと、みんなにきいた。自身のある者は、まえに出よ、といった。

 そして、ジンがすすみ出た」

「ありそうなことだ」

 ANKAがそうつぶやく。

「ぼくは、剣をぬかなかった。うしろをむき、そのまま、試験場となっていた闘技場を出ていこうとした」

 エリコが声を上げた、

「そうか。

 まさか、うしろから斬りつけるような()(きょう)なまねはしない、武人ならば、だれでも同じようにおもう。じっさい、ジンも、〆裂に同じことを先日いった。

 当時のイースも、そう考えたんだね」

「そう。しかし、ジンは斬ってきた。

 ぼくは、殺気を感じ、無意識に剣で受けていた。そして、彼女を蹴りたおして」

「やったー」

 あたし、おもわずいっちゃった。

「蹴りたおして逃げたのさ。残念ながら」

 イースは、そういって笑った。

 ANKAがうなずき、

「わかってきたよ、それでジンに報復されたんだ」

「そう。

 ぼくに蹴りたおされたせいで、ジンは不合格になった。その夜、ぼくは、あの5人組にかこまれて、ジンと1対1の勝負をしなければならなくなった。

 私闘はしたくないと、ぼくは、ことわったが、こんどは背をむける気にならなかった」


「ごもっとも」

 ANKAが笑う。あたしも笑った。ミーシャも。エリコも少し笑う。


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