Act 5. Last Stand 25
Chpt25 無限未来
RZDがあたしたちにむかって大声でいう、
「帝国軍がハン・グアリスにむかったことを知らせるんだ」
暗欝で、ほとんど言葉を発しない彼がそんな声を出すことに驚いたが、そんなばあいじゃないね。
そうだよ! ほんとーだ。このままじゃ、ANKAがやばい。
歩兵部隊が平原にせまっているってことだけじゃない。予想に反してレオン・ドラゴ軍がまとまりをうしなっておらず、じゅうぶんに機能しているってことがこの山上の戦いでわかったからだ。
つまり、平原にのこっている少人数のクラウドの戦士は、シルヴィエとレオン・ドラゴにはさまれることになる!
「もしもし、ANKA、作戦は失敗よ。それにレオン・ドラゴ軍があらわれたわ。ジンが指揮をとってるのよっ!」
「わかった。こっちは、いまのところだいじょうぶだけど・・・・けっこう、やばいね。気をつけるよ。いまのところそれしかない。
でも、いい知らせもあるのよ。〆裂が敵に壊滅的な打撃をあたえたわ。重機装甲部隊は決定的な損害をこうむって、進軍できない状態よ。
〆裂を、そっちへむかわせるわ」
そうなんだ。
すっげー。
さすが〆裂。
帝国の火砲附自走式装甲戦闘装軌車輛を、ティラミスみたいに2つ、4つに斬って、あっというまに、数百台を破壊してしまったらしい。しかも、重機装甲部隊の援護のために、ユヴィンゴから飛んで来た戦闘機の自動連射銃の襲撃に遭っても、敵の火砲附タンクや自走式連射ミサイル砲を奪って操作し、戦闘機数十機をたちまち撃ちおとしてしまったらしい。
すげー。すごすぎる。1人軍隊とよばれるものダテじゃない。まさに1騎当千だー。
なんて驚いているうちに、かがやく3首の白龍に乗った〆裂があらわれた。すでにボロボロだったイースと、闘気が火焔光のようなジンとのあいだに立ちはだかる。
「さあ、来てやったぜ。
俺の相手をするか、ジン・メタルハート」
「ゥムム」
ジンがうなる。
〆裂が青眼に(正面中段に)かまえ、全身から清流のような闘気をはなった。それは、美しい青白い炎となって、太陽のコロナのように、〆裂のからだの3倍くらいの大きさに、蔦のような渦を巻いて燃え上がった。
「ふんぬっ!」
空気を切り牽き裂き燃え上がらせる凄まじい風圧で、ジンの漆黒の剣が〆裂にうちこまれる。
「ふ」
〆裂は、ハエでもはらうように、かるくはらいのける。
「うらっ」
ジンが上段にかまえ、再び凄絶な勢いで、ふり下ろす。力でねじふせる気だ。〆裂は、かるく受けとめる。ジンがからだのバランスをくずす。
憤激したメタルハートが狂ったように息もつかせずうちこむ。〆裂は、よゆう。ジンがくやしさで蒼白になり、息を切らせ汗をしたたらせる。
「どうした、メタルハート。膂力では俺を斬れぬぞ。
剣は精神だ」
歯がみするジン。しかし毅然と姿勢をただすと、ふりむき、
「撤退だ。
任務は果たした」
そして、〆裂へ向きなおり、
「まさか女を背から斬ることはあるまいな」
そういって剣を鞘におさめ、背をむけて歩き出した。
「ふん」
鼻を鳴らすと、〆裂は、剣を鞘におさめてしまい、ジンを見送るだけで、それ以上、なにもしようとしなかった。
レオン・ドラゴ軍が退却態勢に入る。ソンタグやカノンやバロイが追おうとする。苦しそうな息をして膝を屈していたイースも立ち上がる。
あたしたちクラウドの追撃をふせぐように、2人の女戦士とレオン・ドラゴの騎士の十数騎が立ちふさがった。
「きさまらに、ここからさきをいかせない」
アンジェラとエピタフィラがそういって、追撃しようとするあたしたちをにらむ。
「見上げた心意気だ。
しかし、これも戦のならい。手かげんはしないぞ」
ボノがそうさけんで、さいしょに突っこむ。はげしい闘い。
死を決し、獅子奮迅の闘いをするアンジェラは、膂力にすぐれ、強力さにおいては、メタルハート以上だ。しかも、命をかけた者の強さって、はんぱじゃない。
そのアンジェラと互角に剣をまじえるイースは、すでにジンとの闘いで全身に傷を負っていた。まぢすごい。しかも、なぜだろう、イースの眸がだんだんと澄んだしずかさを湛えはじめている。それは死力を尽くし鬼気せまるアンジェラとは、まったく対照的だった。
あかるい、うすい青の湖みたい。
ちなみに、〆裂は、もうやる気をなくしていて、岩に坐ってギターを弾いている。くわえタバコで。
あたしの眼には、イースがやや押されているように見えていた。だが、はげしくイラだっているのは、アンジェラのほうだった。ふり下ろした渾身の一撃がかわされ、大剣が岩に刺さる。イースは、剣がぬけなくなったアンジェラをあえて攻撃せず、しずかなまなざしで見ていた。
「殺せ、おまえの勝ちだ」
イースは、ゆっくりうなずいた。
アンジェラの首を斬りおとす。それを見たエピタフィラは、哄笑し、自らの首を斬りおとした。おちた首が不敵な笑いを泛かべている! なんて女なの!
イースは、休むいとまも持たず、麒麟の背に飛び乗り、手綱をひいて、崖を落下するかのように駈け出し、
「追撃だ」
断崖を駈け下りるレオン・ドラゴ軍を追う。
あたしたちも非錄斗を乗せて、イースにしたがったが、
「ひゃーぁっ」
「わぁーい」
ジェットコースターの100倍こわい! あたしはさけび、ミーシャははしゃぎ、隘路に降りると、ジグザグなせまい道を岩にぶつかりそうになりながら、激突寸前すれすれの疾駈をする。
ジンは、帝国軍の歩兵部隊と合流していた。
「これ以上、追ってもムダのようだな。むりに闘えば、味方を犠牲にするだけだ。べつのルートでハン・グアリスへもどろう」
イースがそういった。
平地へもどると、雨が吹雪に変わっていた。
〆裂がいう、
「ANKAと合流してシルヴィエ正規軍をむかえ撃とう。そのうち、俺のいた第2部隊も帰って来るだろう」
チェバロが、
「ここでわかれよう。
俺は、義勇兵のなかから、有能なやつらをつれてヴォゼヘルゴのようすを見にいく。スパイ活動やゲリラ活動をしておきたいんだ。人選はすでにしてある」
イースが強くうなずき、
「わかった。お願いするよ。
だれかにやってもらわなければ、とおもっていたんだ。
とくにシルヴィエのジェット戦闘機部隊がどこにいるか知りたい。
ログからは発見できなかったらしいからね。
ヴォゼヘルゴに空港なんてあるはずがない(どこの国にもない。飛行機があるのがシルヴィエだけだからだ)が、どこかに滑走路になるような平坦地があるはずなんだ。
こわいのは、戦闘機とミサイルだ」
「承知しているさ」
チェバロとわかれ、数時間後、ANKAと合流すると、エリコの戦勝報告メールがあたしたちを待っていた。
エリコは、ミハイルアンジェロの設計した多石連射投石機で、河をさかのぼって来たシルヴィエの物資運搬船を、つぎつぎと航行不能にし、積み荷を奪ったという。
すぐに帰って来られないのは、戦利品の整理にいそがしいからだ。メールにそう書いてあった。
ところで、この多石連射投石機という新兵器は9機の投石機が1つになったもので、1度に9発撃てるわけだけど、ふつうの投石機が1回投石するたびに、セッティングしなおさなければならないのとはちがい、マシンガンみたいに連続して、びゅんびゅん石を飛ばすことができるらしい。
そんな武器があったんじゃ、敵はひとたまりもなかったろーな。
なん万人の兵士がいようが、なん百隻船があろうが、河のはばがそんなにひろいわけではないから、1隻ずつ順番にならんでやってくるわけで、投石機にとっては、絶好の標的だったようだ。
ちなみに、シルヴィエ軍は河の状況を調査する時間がなかったせいか、浅瀬に乗り上げてしまった船も、けっこうあったらしい。
「たぶん、重機装甲部隊が到着して、警護してくれることをあてにしていたんだろう。船には重武装がされてなかったらしい。
ところが、その重機装甲部隊が来なくなってしまったから、はだかの輜重部隊になってしまったんだろう。やつらにとっては、考えられるかぎり最悪のシナリオだったはずだよ。
だいたい、高性能な科学兵器を持った世界最強の重機装甲部隊が負けるなんて発想はシルヴィエがわにはなかったんだろうからね。
もっとも、ぼくもおもってもいなかったけれども」
イースは、そう解説した。
「やっつけた兵隊たちは、どうなっちゃったの?」
ミーシャが心配そうにきいた。イースがこたえる、
「海軍兵や船員はみんな縄でしばって、甲板にならべ、数隻の船に乗せて、あとは自然な河の流れにまかせて川を下らせ、帰らせたらしいね。
捕虜にしたら、あるていどめんどう見なくちゃいけなくなるし、どうしたって経費がかかる。
身代金をとろう、なんて提案すれば、どうせANKAに反対されるだろうから、おそらくさっさと強制送還しちゃったんだよ、エリコは」
ただ攻撃するだけで終わらないところがエリコらしい。かんぜん復活したみたいだ・・・。
この多石連射投石機はエリコよりも、さきに本部に帰って来ていた。むろん、ぜんぶではなく、数機だけど。
見れば、なるほど大きさもすごいが、木製の歯車がたーくさんあって、構造も複雑そうだった。
短い時間で、よくもまあ、こんなものをつくることができたもンだとおもう。
「帝国軍が来るなら、これが役立つわ」
エリコがそういって、これらをさきによこしたらしい。たしかに、そのとおりだ。
本部の周辺の景観が変わっていた。
昨日までは、ジョリーを中心に大きなテントがいくつかあっただけだったが、いまは、投石機や戦利品(大砲や銃や刀や鎧や火砲附自走式装甲戦闘装軌車輛、食糧や酒、金銀財宝のつまった箱、衣類、テント)が山のようにあり、本部の兵士たちは、周囲を壁でかこんで城砦とするために、休むこともなくあわただしく働きつづけていた。
イースは、キャビンに入ると、ロウソクを1本立てて、『kOO』をまえにおき、剣をにぎって瞑想に入った。
「もしも、ジン・メタルハートが勝つならば、このIEもただの物理的な法則だけが支配する無情の世界。物的な非情性のみがほこらしげにひるがえり、力だけが天帝のごとく栄耀栄華し、獣の欲望が謳歌するくさった世界になってしまう。
ぼくが勝てば、あるべき真実の世界、人が求める人間の世界、ほんとうの人間の世界、理想の大地、永遠の平和の大地が実現する。
命もいらず、名もいらず、すべてを捨てて闘う。この闘い、わがために非ず」
翌日、あたしたちの第1部隊の兵士全員がもどって来た。
はげしい戦闘と山岳地帯での行軍で、疲弊し尽くした彼らは、下山し終えても吹雪にさらされ、限界状態。急いで食事があたえられ、睡眠をとるように命じられる。
さまざまな情報が入ってきていた。
すでにシルヴィエ正規軍はハン・グアリスの平原を進軍中で、重機装甲部隊がいなくても、まったく気にするようすはなく、黄砂のように地をおおい、押し寄せて来ているらしい。
ANKAがいう、
「レオン・ドラゴは兵を増強して、ジンの指揮の下、シルヴィエと合流した。それだけじゃない。ヴォゼヘルゴも参戦してきた。
フォロワーからのフォローでわかった」
「なんで、ヴォゼヘルゴが! ボダシェヴィは、死んだのよ!」
って、あたし。
「でも、シルヴィエの属国であることに変わりないからね。
くわしくいうと、シルヴィエが進軍のとちゅうで、ヴォゼヘルゴに正規軍将校をのこしてきていて、重機装甲部隊や輜重部隊の損失を穴うめするために、そいつらに、急きょヴォゼヘルゴの軍をまとめ上げさせ、こちらへ進軍させたってことらしいよ。
敵は、昨日の闘いで、10万以上の兵をうしなっているけど、レオン・ドラゴとヴォゼヘルゴの合流で、総計50万にちかい兵力にもどっているわ」
その日の夕方、シルヴィエがユーコニー川を輸送路とすることをあきらめたらしいことがログで確認できたので、エリコたちへ、帰還するように連絡する。彼女たちが帰って来て、投石機がさらに数十機ふえた。
ノーロイの怪力とミハイルアンジェロ設計のタワークレーンや掘削機なんかの建設機械(木製だけど)のおかげで、周囲900メートルの城壁が一昼夜で完成した。食糧や酒をおさめるための大きな備蓄庫もつくられた。
城壁の上に48機の多石連射投石機がならべる。
さらにシルヴィエから奪いとった対空高射砲(!? なんで、帝国があたしたちと闘うために、こんなものを持って来ていたのか理解できない。だって、飛行機は世界中でシルヴィエにしかないんだから! エリコにいわせると、そういうところが神聖帝国なんだそーだ)をならべ、戦闘飛行機の襲撃にそなえる。重機関銃や大砲もたくさんある。
あたしたちは、籠城し、シルヴィエ多国籍軍をむかえ撃つことになった。かならず現実をうちやぶってほろぼしてやるぜーっ。
人間のささやかな希望、悲痛な願いをまったく意に介さずふみにじる非情なリアリティ。テメーだけはぜったいにゆるせねー。シルヴィエがそれだ。ぜったい、勝つわ。未来は無限にあるんだから。
城砦の名はIF(Infinite future)。




