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Act 5.  Last Stand 24-1

  Chpt24  WAR

       ☆Sept1 斬首


 聖域(サンクチュアリ)(フリ)(ダヤ)部にReal Virus.

 Real Worldのなかでも、最も美しく、気高く、きよらかで、精神的な理想のワールド、物質主義的じゃない、Ideal Earth. その(しん)(ずい)がウイルスに・・・・!


 RWがRV!

 だじゃれかよ!


 あたし、まぢショックだった。かるくめまい。

「あー、そんな・・・・ありえねーよ・・・

 ウイルスが・・・よりによって、アカデミアに・・・

 それも、ウパニシャッド大聖堂の中枢に!

 (アー)()に、アークの上にあるなんて!」


 あたしにとっては、真の叡智(えいち)の中枢、つーか、じぶんの真の奧の真がけがされたような、いままで考えたこともないショック、てゆぅか、奥底がゆらぐ不安だった。 


 雨がジョリーの屋根をはげしくたたく。

 もしかしたら、大聖堂の『kOO』が盗まれないのって、そのせいかしら? ・・・・でもだれがアカデミアの中枢にウイルスをしかけられるの? いや、データをいじれるようなやつなら、できるにちがいない。

 やはり、ウイルスをしかけたやつと盗難のためにデータをいじったやつは、同じなんだ。そんなユーザー、たぶん、かぎられてる・・・・


 その日、あたし、おもいにとらわれ、ずぅっと独りぼっち、ぼんやりしていた。みんながせわしくひそやかにうごいていることにまったく気がつかなかった。

 午後のお茶も無意識で飲んでいたし。

 けど、ミントティーだったこととか、ちゃんとおぼえてる(笑)。クッキーをかじりながら、考えこんでいた、とか・・・


 最も神聖な場所にウイルスが入っている・・・・・。そうとわかれば、IEの基本コンセプトが大きく変わってしまったのも、ふしぎじゃない。

 考えてみれば、はじめからわかり切ったことだ。じゃなくちゃ、こんなにも、IEが変わるはずがなかったのよ。

 でも・・・・・でも、なんで。なんで、そんなことができたんだろう。 

 セキュリティって、いったい、どうなってたのよ。それとも、IEって、じつは、ラグナレクのように、人知のおよばない風や海や雲や火山の噴火のようなものだったりして・・・・あはは、人間(キャラ)じゃあるまいし、そんなバカな。


 そのとき、扉がひらいた。あたし、はっ、じぶんに返る。いま、なにを考えていたのか、一瞬わからなくなった。雨にぬれたユリアスがキャビンに入って来て坐る。

 表情がきびしい。いつものひょうひょうとしたふんいきはない。なぜだろう。

「そろそろ、ハン・グアリスに入ります」

「わかった」

 ANKAも口をかたくむすんでうなずく。

 え? いったい、なにが起こるの?

 イースがしずかに剣の柄をにぎった。


「すでに周囲に集まっています」

 ユリアスが不敵な笑いを泛かべながら、たのしそうにそういった。


 とつぜん、外があかるくなり、爆裂音がなん発もとどろく。ものすごいさわぎが起こる。

夜襲? 奇襲攻撃? ジョリーが止まる!

「さあ、ユリイカ、きみも外に出て」

 イースにうながされる。

「え?」

 こんなことはめずらしい。

 あたしやエリコやミーシャは、安全のために留守番になることが多いからだ。

 それに、ジョリーのなかには、『kOO』がしまってある。だれもいなくなるなんて、いままでなかった。

 どういうこと?


「みんな、あわてて飛び出し、聖典のことなんかわすれちゃっている、って設定なのよ」

 ANKAが微笑して、そういった。なに?? 

 外に出ると、雨の音が耳を占領する。夜の闇に顔をたたく雨。風も強い。

「旗は降ろしたよ」

 声でジャジュだとわかる。

 あっというまに、びしょびしょ。それでも、あっちこっちで火が燃えている。

「ぅわぁ!」

 炎に照らされた黒い装甲騎兵のすがたがたくさん見える。

「さあ、降りるのよ、ユリイカ」

 え、なんで、なんで? 


 しかし、ぬかるんだ地面に降りたのは、ほんの一瞬だけ。ANKAは、あたしに大きな黒い布をかぶせ、彼女も入ると、すぐに身をひるがえし、ひらりとすばやくデッキの上にもどる。な、なんなんだ?


 驚いたことに、エリコ、イース、ミーシャ、ほかのみんなも同じうごきをしたみたいだ。音とうごきの感じでわかる。なんで? 


 デッキの片すみにかくれるように、小さくかたまった。

 周囲では、激烈な闘い。鉄と鉄がはげしくぶつかる音。


 あたしがたずねようとすると、ANKAが指を唇にあてる。「しーっ」


 そのときだ。だれかがデッキに上がって来た。あたし、布を少しめくってのぞく。暗くて、だれだかわからない。その人は、炎の光をさけて、影になる場所をえらんでうごいていた。キャビンのドアをあけ、なかに入る。

「ANKA、たいへん、入っちゃったよ」

「わかってる。だまって!」


 侵入者は、すぐに出て来た。腕に箱をかかえている。

『kOO』の入った箱だ!

 あたしがさけびそうになるのをANKAが手でおさえる。

 イースが黒布から出て声高にさけぶ、

「待てっ!」

 男は、止まった。その瞬間、ちかくで火柱が上がって、男の顔を照らし出す。邪悪な眼つきで、顔がひきつり、別人のようだったけど、見まちがうはずもない。


 グローだった。グロー・クロヴィス! 傭兵隊ガリア・コマータの隊長!

 まさか、彼が裏切り者だったなんて! 


 乱闘のさなかにもかかわらず、黒い装甲兵たちには、こっちのようすがわかったらしい。騒乱(そうらん)に乗じて聖典を略奪(りゃくだつ)する作戦の失敗がわかり、1人、2人と逃げはじめた。


深追(ふかお)いするな」

 イースが大声でそういった。いわれるまでもなく、バロイ、ソンタグ、カノン、ボノ、チェバロたちは、追うつもりなどなかったようだ。敵が逃げはじめると、さっさと剣を鞘におさめて、さあ、飯でも食おうかって感じの顔になった。


 さいしょから筋書きができていて、寸劇のようだ。

 黒装甲兵を追い駈けたガリア・コマータも、すぐにもどって来た。

 わずかにのこった炎が照らすクラウドの戦士たちすがたは、みんなぐしょぐしょだった。


 ANKAが、

「副隊長のストランド。おまえが今日からガリア・コマータの隊長だ」

 ストランドとよばれた若者は、あぜんとした顔をした。ぬれた髪がひたいにはりついている。事態を理解できていない。

「しかし、ANKAどの・・・」

 けど、グローの表情はもっと(しん)(こく)で、ドストエフスキーの小説の人物みたい(笑)に蒼白で、わなわなしていた。


 傭兵隊長は、いきなりデッキから飛び降り、馬に乗って馬首をひるがえす。いまさら逃げる気? しかし、イースが馬の尻に飛び乗り、グローの首をしめ上げた。

「ええい、ちくしょう、はなせ、はなしてくれ、・・・ぅぎゃーっ!」

 ひきずり降ろされる。

 ユリアスが大きな声で告げた、

「ここに、グローを処刑する。

 いま、しょくんが見てのとおり、彼は、『kOO』を盗んだ。

 だが、それだけではない。

 グローは、われわれの位置情報をシルヴィエに流した。密告者だ。裏切り者だ。

 さらに、しょくん、難民虐殺に傭兵がつかわれたことをおもい出せ。

 彼は、虐殺のために、各地の傭兵たちに連絡をとって、シルヴィエのために便(べん)()をはかったのだ」


 ストランドは、なっとくできない表情だ。

「しかし、そんなふうには見えなかった。

 なるほど、聖典を盗むという大罪をおかしたのは、いま、この眼で見ましたが。

 シルヴィエがわについたとは。どんな証拠があって、そのようにいわれるのか」


 〆裂がそれにこたえ、

「へい、へいっ、証拠はあるさ。

 まずは、グローの剣だ。

Nabu Kudurri Usurナブー・クドゥリ・ウツルという(めい)がきざまれているだろ。バビロニア語だ。これをヘブライ語で、なんというかわかるか?」

 ユリアスがゆっくり微笑し、こたえた、

「ネブカドネザル、だ」

 おお、という声が上がる。〆裂がふたたびいう、

「しかし、とうぜんのこと、それだけでは、じゅうぶんではない、証拠としては。

 さあ、グロー、おまえがいつも腰につけている革の袋をあけろ。そして、そのなかを見せろ」

 なかから、金貨がなん十枚も出てきて、こぼれおちる。ユリアスが1枚をひろい、指でつまんでみんなに見せる。

「シルヴィエ金貨だ。

 おもての面に(レリ)(ーフ)になっている肖像(しょうぞう)は神聖皇帝のよこ顔だ。神聖文字で『聖神のごとく永遠の真実である神聖皇帝』としるされている」


 そうだったんだ・・・・・・・あたし、ショックだった。

 〆裂がさらに1歩まえに出て、

「これ以上、いうひつようはあるまい。罪は確定した。

 さあ、グロー、最後に自らの罪を()い、難民たちに謝罪しろ。

 せめて人として死ね。それがおまえにとって最善であり、俺たちにできる最大の()()だ」

 グローは、うなだれてひざをつき、(こうべ)をたれた。すすり泣きふるえながら、神にじぶんの罪を告げて謝罪し、難民たちの魂へゆるしをこい、最後にいった、

「俺も武士(もののふ)。せめて、名誉のために・・・自ら命を絶たせてください」


 イースは、非情の声音(こわね)で告げる、

「だめだ! おまえは、(ざん)(しゅ)だ」

 グローの口から悲痛な、なんともいえない苦しげなうめきがもれた。イースは、(さや)からぬく。

()け!」

 剣がふり下ろされ、首は地におち、亡骸(なきがら)が埋められた。


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