Act 4. Under the flag of “ Cloud ” 23-2
†Physical phenomenon is zero, because it is physical phenomenon.†
Chpt23 聖者あらわる・・・・
☆Sept2 ユリイカ(見つけた)!
その夜も雨はやまず、しとしと。あたしたちは、ネブカドネザル館のちかくに、大きなタープをはって野営した。
肉を炙り、野菜のスープを飲む。
交替の見はり以外は、それぞれの寝場所で眠った。バロイたちは、まだまだ呑んでいたけど、あたしは、もう、眠くて眠くてzzz
「ユリイカ」
あたしは、眠りから覚まされた。
時計を見た。午前2時?
「どうしたの?」
あたしを起こしたのは、非錄斗だった。
「ジン・メタルハートと、なかまたちが出発した。フル装備で武装していたらしい」
あたし、飛び起きた。
「ぇえーっ! なんで?」
「それだけじゃないよ」
「なに? はやくいってよ!」
「ようすをうかがっていたグローからの報告によれば、出発の少しまえに、ジンは、王の私室に入った。近衛兵は、だれもいなくて、しかも」
「え?」
「悲鳴がきこえて、すぐに消えた」
「まさかっ」
「しかも、衛兵も、いや、だれも駈けて来なかった。駈けつけようとするけはいさえなかったらしい。
ジンは、血まみれのすがたのまま、ゆうぜんとした態度で、ゆうゆうと部屋から出て来た・・・・」
「!」
「そして、すでに出発の準備をととのえていた4人と合流し、出発したんだ!」
「やられた! 急ごう」
あたし、すばやく着がえをすませた。けれど、なにもかもすでにおそかったらしい。イースがキャビンにはいって来るなり、
「アルハンドロ王は、たったいま亡くなられた。
話はきいたかい? メタルハートを追跡しよう」
「ANKAは、どこ?」
あたし、きいた。
「まだ館のようすを見ている」
そう話しているあいだにも、ANKAが〆裂やユリアスやジャジュや迦楼羅たちともどって来た。
「さあ、すぐにいこう。もう、ここにいても意味がない」
ケータイが鳴った。話終えると、ANKAは、さらに暗鬱な顔になっていた。
「わるい知らせよ。
ボダシェヴィ大統領が暗殺されたわ。
犯人は、少数民族の過激派といわれているらしいけど、ほんとのことはわからない。
ヴォゼヘルゴは、混乱におちいっている。
南下しているシルヴィエが介入してくるのはあきらかだ。こういうことだったのか!
いまおもえば、難民虐殺は、アルハンドロやボダシェヴィが殺されてもしかたない統治者だとおもわせるための作戦だったのかもしれない」
「そんな・・・・そんなことのために、なん十万もの人を虐殺するの!
ちょー信じらんない!」
「まだつづきがある」
「これ以上、なにが?」
イースがそう問うと、ANNKAは、
「大統領暗殺の犯人は、クラウドだとシルヴィエがわは公表しているらしいわ」
非錄斗が沈鬱な表情、
「めちゃくちゃだね。ほんと、ひどい。サイアクだ」
「もー、なれたよ。気にしなくていいよ。それに盗難事件のぬれぎぬのことがあるから、きっと一般の人は、またかとおもうだけだよ」
あたし、そういった。
午前3時、あたしたちは、出発した。雨が強くなった。
ANKAは、眠らずに、眉根をよせて、地図を見ていた。
エリコが起き、いっしょに地図をにらむ。まだ少し熱をおびているようだったが、眼のかがやきは強く、少し別人っぽくなっていた。
やつれているようにも見えたけど、じぶんの失敗をかみしめながらも、捨てたようなすがすがしさと、あきらめのかなしさとをたたえている。彼女がいう、
「なんといっても、相手は、50万からの軍隊。しかも、最新の高性能科学兵器をそなえている。空挺部隊もあるし、戦闘機でわたしたちを空から爆撃することも可能なのよ。
それに比べてこっちは、最大かき集めても、2千だわ。
たとえ、こっちが敵の100倍くらいの人数いたって勝てそうもないのに、じっさいは250分の1なのよ」
ANKAもうなずき、
「ひろいところでは、ぜったいに戦いたくないよね。
せまいところにおびきよせるか、夜襲をかけるとか、森のなかにさそいこんでゲリラ戦に持ちこむとかしなくっちゃ。
そんなふうにうまくいけば・・・・それでもムリかな・・・・」
ミーシャがお茶をはこんで来た。あたしは、がんばって眼をぱっちりさせようとしてたけど、気がつくとウトウト・・・・・・眠気ざましに、ちかくにあったチョコをつまんだ。
アーモンドが入ってるー、好きなやつだ。カシューナッツも好きなんだけどな・・・・・・
剣の手入れをはじめながらイースが、
「どっちみち、敵は、山岳地帯のどこかを経由して来るしかないのだから、そこでむかえ撃つ。そもそも、それしかない」
ANKAが、
「それは、すぐに考えたわ。すでに先遣隊を派遣している。
けれど、わたしたちが戦っているあいだに、クラウドが空爆されることだってありうる。
山へ全員いってしまうわけにはいかない。国の防衛のために、兵をのこさなくては。少ない軍を、さらに分断しなければならなくなる」
エリコが地図にらみながら、すかさず、
「でも、空から来られたら、わたしたちがいたって、なにができるかな」
「だからって、全員でいくわけにもいかないでしょ?」
みんな、だまった。あたしだけが人ごとみたいに、
「ふーん」
だって、あたしは、ラグナレクが教えてくれたウイルスのいる場所がどこかを考えていたからだ。真理の中枢か。哲学的な意味なのかな。あんがい、なんのひねりもないあたりまえな場所かも。
ANKAの声がする。
「あんた、ユリイカ、なに、ぼっとしてんの? 寝ててもいいのよ」
「え?」
「え、じゃないよ。さっきからさ」
「ごめーん、なんかさあ、ラグナレクがいってたのが気になっていてさー。
真理の中枢って、どこだろ、みたいな」
エリコがまたすかさずいう、地図に眼をおとしたまま、
「アカデミアだよ。ほかにないでしょ」
「え? エリコ、あんた、わかるの?」
イースも同意し、
「いわれてみればそうだな」
ANKAも、
「わたしもそうおもう。おそらく・・・・」
エリコが顔を上げた。
「大聖堂がいちばん疑わしいよね。まさに中枢の中枢だし」
「うそぉー、信じらんねー。まぢそうだとしても、なんで、ウイルスなんか入れちゃうわけ?」
って、あたし。エリコが首をひねりながら、
「ユーザーのだれかがしこんだ・・・・しかありえないよね。あるいはユーザーがこのなかでつくったとか? メールで来たとか・・・」
そういった。けど、あたしは、
「それって、現実世界みたい?
このなかでも同じことができるもんなの? でも、それじゃあ、もっとウイルスだらけになっていそうなもんだけどー。
でもさー、ウイルスが侵入するのをさえぎるために、アカデミアとかに、シールド部隊ウォールとかいるわけでしょう?
バリユースたちだって、そうだよね?
彼らって、IE全体の掃除人でしょ? いったい、彼らは、なにしてたわけ?」
「んー。なんでだろ」
エリコも、そういって腕を組み、考えこむ。ANKAがさえぎるように、
「やりかたは、いろいろあるんだろうけど・・・・・
システムとかの話だと、わたしたちじゃ、こたえをきいてもわかんないんじゃない?
侵入ルートを考えても切りがないよ。問題は〝いま〟〝どこに〟あるかだよ」
あたし、ふっと、おもい出した。
「ねー、あのときさー、『kOO』の納められてる聖櫃がおかしかったでしょ?」
エリコが眼を睜いた。
「そうだ。ユリイカ」
ミーシャが首をかしげる。
「なんかあったぁ?」
ANKAがまなざしを深くし、
「そういえば、RWの文字が欠けていた」
イースも、
「そう、そうだった」
あたし、じぶんで鼻がふくらむのがわかった。
「でしょー? Wが欠けていて、まるで」
エリコがはっとし、
「そう、そうよ、まるで、Wじゃなくって、Vみたいだった」
ANKAも気がつく、
「そうか、RVだ」
ミーシャが、
「もぉー、なんなのよー? ちゃんと教えてぇー」
イースが驚きをかくしきれない表情でいった、
「Real Virusだ! そう、RVじゃないか! 本当のウイルス! 現実的ウイルスだ!
なんてことだ! ぼくたちは、さいしょっから眼のまえで見ていたんだ!」