Act 4. Under the flag of “ Cloud ” 23-1
†Physical phenomenon is zero, because it is physical phenomenon.†
Chpt23 聖者あらわる・・・・
☆Sept1 神の鉄槌 エリコの叫び
非難囂々(ひなんごうごう)だ。
王の臣従や側近の貴族がぶちギレて、ANKAとユリアスを、あたしたちをののしっている。
手を上げ、こぶしをふってさけぶやつもいれば、剣の柄に手をかけるやつもいる。もう、剣をぬいてふりかざしてるやつもいる。顔をまっ赤にし、激怒していた。
しかし、ANKAもユリアスも、超然と立っている。
あたしも、(ちょっと怖かったけど)ハン・グアリスの憤りが強くつらぬいていて、ひるまなかった。
そのとき、とうとつに扉が音を立ててひらく。
え?
エチカだった。なんで、ここに? つか・・・
腕には、エリコが抱かれていた。
呼吸があさくあらく、顔が熱であからみ、まなざしはぼうっとしている。
「国王アルハンドロⅢ世陛下っ!」
エリコが必死でさけぶ。
「陛下は、それで恥じることがないのですか。
王さま、あなたは、ごぞんじないのですか。
人の世で罪をまぬがれても、現実の罪が、事実として存在していることを」
いったん、沈黙があったあと、ざわめきは、さらに大きくなった。
なんのこと? エリコは、いったい、なにをいってるの?
大臣の1人が声をはり上げ、
「無礼者が、きさまは、偉大にして聖なるわれらが国王にむかって、なにをいっているのか」
エリコは、動揺しない。つか、夢遊状態のような感じだった。でも、声がよくひびく。
「アルハンドロ王、あなたは、保身のためにシルヴィエと通じて罪もないあわれな、なんの抵抗もできない難民を虐殺しました。
ただ、保身のために! ただ、それだけのためにです。あなた個人の保身のために、あなたは、難民を虐殺したのです!
シルヴィエを怖れ、自らの王権を、王家の城館や貨幣をうしないたくないという、ただ、そのみにくい、低俗な欲望のためだけに、あなたは、女やこどもや老人たちを殺戮したのです。
そんな下劣な、おろかな理由のために、20万人もの人間が人生を奪われたのです。王よ。
あなたは、知らないのですか?
罪が存在であることを。罪は概念でも法律でも言葉でもない。現実の存在です。実在している。おそらく、あなたには、すでに見えているでしょう!
だから、王よ、たとえ人の世で罪を逃れ、人のつくった法の裁きをまぬがれようとも、存在がなくなるわけではない。
事実は消えない。事実は人間に関係なく、存在している。たとえ、わたしの口を封じても、事実として厳然として存在し、存在しつづける。
虐殺をおこなったシルヴィエ商人は、王の通行許可書を持っていた。王がジン・メタルハートを通じてシルヴィエと連絡をとっていたならつじつまがあう。
証拠はない。法廷では通用しない。
だが、そんなことは塵のようなことだ。
事実は存在する。人がだれも知らなくとも、事実は存在している。
神が知っている! 神が見ている!
なによりも、王よ、あなた自身がそれを知っているではないか。あなたは、罪から、ぜったいに逃れられない」
アルハンドロは、いきどおりたぎって逆上に震え、立ち上がる。顔面は蒼白だった。王がさけぶ、
「神授の王権を侮辱する者をとらえよ、とらえて裁け、裁いてそのけがらわしき冒涜の罪をつぐなわせろっ!」
エリコのへいぜんとした態度は、神々しいまでだった。
「わたしをとらえなさい。そして、殺しなさい。正義のために死ねる者は、幸福です。
王よ、わたしを滅ぼしても事実は滅びない。事実は、わたしに関係なく、実在する。神が知っている!
人間の世界で無実といわれ、栄光といわれようとも、うちけしがたく事実は存在している。
おまえは、その罪の汚辱で、国の名誉さえもけがしたのだ! 王の身でありながら!
恥知らず! 売国奴! 虐殺者! 卑怯者!」
「あっ」
あたし、そう声が出ちゃった。ありえねー。言葉だけなのに、王がよろめいて玉座の背もたれをつかんでからだをささえている。
エリコは、王を指さし、はげしく責めつづける!
「おまえは、罪のない無力な人々を殺した。おまえは、こどもを虐殺した。女を骸に変えた。あのむごたらしい光景を、むごたらしい死骸を、心におもい泛かべてみろ。ぜんぶ、おまえがやったことだ。悪魔すら驚愕するような大罪だった。おもい泛かべてみろ、生きたいとおもう人たち、幸せになりたいと願う人々、夢を描いていた少年たち、困難に耐えながらも、一所懸命に生きていた少女たち、小さな幸せ、幼子の笑顔を血まみれにした、どんな贖罪があるとおもうか、法の裁きを逃れても、おまえの罪は存在する。人の裁きなど、表面的なことでしかない。
神が見ている! 神が見ている!
過去に虐殺を指導した権力者と同じように、もしおまえがじぶんの正当性を主張しても、まったくムダだ、殺人の事実は消えない。
法や人の裁きなど、神のまえでは、幻影にすぎない。事実こそが実体だ。神のまえでは、人の小細工など、むなしい。神に事実が見えないとおもうか。神が嘘や偽りを見とおせないとでもおもうのか。
神の眼を感じないか? 気がつかないのか?
神が見ている! 神が見ている! 神の怒りを知れっ! それが現実だ! ただ、1つの現実だ! おまえは、永遠に赦されない罪を犯した。
もはや救いはない。
死してのちも、永劫の罪業に、おまえの魂は、永遠にひき裂かれつづける!
見よ、神の鉄槌がいま下されたっ!」
まるで、落雷にうたれたように、王は、くずれ、ひざを突いた。目は見ひらかれ、唇が紫いろで痙攣し、からだがガクガク震えている。そのようすは、いま、まさに神の鉄槌が下されたようにしか見えなかった。
罪って存在するんだ。そうとしかいいようがない。
王の臣下たちに、はげしい動揺が走った。法廷で罪を裁くまでもなく、判決を下されたも同然だ。だれの眼にも、あきらかだった。
あたしには、エリコが聖者に見えた!
動揺し、混乱し、収拾のつかなくなっているレオン・ドラゴの重鎮たちをおいて、あたしたちは、謁見の間を出た。
エリコは、意識を失ってエチカの腕のなかでぐったりしている。外の空気が吸いたかった。外へ出る。雨がまだ降っていた。エチカは、エリコを抱いてジョリーにもどる。あたしたちは、エントランスにもどって、坐った。
「難民虐殺に関与した者たちすべてに制裁をあたえたい。
レオン・ドラゴの者たちだけじゃなく、ヴォゼヘルゴのボダシェヴィにもね」
ANKAがいいきる。
〆裂が雨のしずくをはらいながら入って来た。
「交渉成立のようだ」
「え?」
「イヴィルとラグナレクさ。
シルヴィエ軍50万が再び南下をはじめた」
ANKAは、驚いたふうもなく、
「予想どおりね。
ラグナレクの気持ちは悪魔のように気まぐれで、冷酷なたわむれに満ちているわ。彼にとっては、なん十万人が虐殺されようとも、なんの関心もないのよ。
あたかも洪水が家屋を呑みこみ、海が荒れて船を沈めても、河や海がなんの良心の呵責も感じないのと同じよ」
〆裂は、そんなANKAの言葉には、きょうみがないように、
「どうでもいいことさ」
あたし、
「つーか、どうでもよくないよ、50万って! そんなにたくさん、なに考えてんのよ。多すぎじゃーん」
「そうでもないさ。
シルヴィエの人口は、おおよそ100億人。そのうち予備軍人や私的な義勇兵も含めれば、戦闘員は人口のうち20人に1人のわりあいだ。シルヴィエは最大5億人の軍を持っている。軍人を職業とする人間だけも3億人近くいる。
宗教国家であるシルヴィエは、聖戦に参加する義勇軍がつねに1億人以上いる。
50万なんて、やつらには、たいした数字じゃないのさ(笑)」
「もー、笑ってるばあいじゃないよ、〆裂!
ANKA、いってやってよ!」
ユリアスがあごに手をあてる、
「さて、どうしたものかな?」
イースがいう、
「さいわい、レオン・ドラゴは、いま、力を喪ってる。そうでなければ、ぼくらは、いまごろやられてる」
「なんで?」
「シルヴィエのうごきに呼応するからだよ。
帝国軍が来てくれれば、シルヴィエの犬になり下がったボダシェヴィやアルハンドロは、いわれるがまま、どんなむちゃもするさ。
どうせ利用されてるだけで、それが終われば、じきに消されちまうのにね。おろかだよ」
「そっかー」
ANKAが決定した、
「今日は、もう時間おそいわ。ここで1泊して早朝、クラウドと、ハン・グアリスへ帰ることにする」
けど、ユリアスが口をはさみ、
「そのまえに片づけておいたほうがよい件がある」
「なに?」
って、たずねたあたしに、ユリアスは、しばし考えてからこたえた、
「いや、やはり、いまはやめましょう。機会を見て話します」
「なんなの? もったいぶらないでよ」
ユリアスは、肩をすくめて、あたしから離れていった。
なんなんだ?




