Act 4. Under the flag of “ Cloud ” 18
†Physical phenomenon is zero, because it is physical phenomenon.†
Chpt18 神々の黄昏
キツネにつままれたような気持ちだったのは、あたしとミーシャだけだったみたいで、レオン・ドラゴの迎賓館の部屋にもどると、ANKAがうながした。
「急いで国に帰ろう」
イースもユリアスも、だまってうなずいた。
王都の門をくぐり、戦艦を降りて、ジョリーが風のようなスピードでクーガを離れはじめると、ANKAは、話し出す、
「彼らがあっさり譲歩したのは、もう交渉などというまどろっこしいことはせずに、わたしたちを力でたたきつぶそうと決めたからだ。
もはや、わたしたちに時間のよゆうはない。
いっこくもはやく、シルヴィエ軍へ、なんだかの対策を講じないといけない。
しかし、いったい、どんな手があるだろう。南下して来る敵軍の推定兵力は、数万以上、いや、数十万だ」
「しかも、自走式装甲戦闘装軌車輛や重機関砲なんかの大量殺戮兵器でかんぜんに武装している」
イースがそうこたえた。
あたし、震える。リアルに怖い。
ユリアスがいった、
「対シルヴィエ戦略も重要だが、せっかく難民のために、ハン・グアリスの管理権を獲得したんだ。そっちのほうも仕事をすすめよう。
ちなみに、シルヴィエ問題に関しては、私に案がある」
「なによ」
ANKAがきいた。ユリアスがいう、
「ラグナレクさ」
エリコが息をのむ。
「神々の黄昏・・・・辺境伯」
ANKAもイースも、うなって考えこむ。
「なぁーに、そんなにむずかしく考えることはない。
ほかになにかよいアイディアがあるかい?
シルヴィエの科学兵器に対抗できる者といえば、あの大魔王しかいないだろう。
さ、とにかく、国に帰ろう。そして、態勢をととのえるんだ」
午後4時、あたしたちは、クラウドにもどった。休む時間もとらず、会議をはじめる。
ANKAのあたまのなかにはすでにプランがあり、それが即決された。
「じゃ、これから具体的な役割の分担をいうわよ。
ハン・グアリスの警戒には、イース、エリコ、ミーシャ、迦楼羅、エチカ、ユユ、〆裂、ソンタグ、カノン、バロイ、ノーロイ、チェバロ、ミハイルアンジェロ、ボノ、グローとガリア・コマータ、RZD、カブキ、タイラク。
あなたたちは、平原にあるすべての街道に検問所をつくって、出入りする人間を徹底的に制限して。
そして、平原のあっちこっちにちらばっている難民を、警護しやすいようになるべく集め、つねに難民の周囲にいて警戒するようにして。
襲撃者のやりかたは、ゲリラ的で、正体がバレないように民兵や盗賊をよそおって襲い、殺戮している。
それをよく理解し、慎重に見きわめて、じゅうぶんに警護してほしい。
それから、衣類や食糧や薬の配給も可能なかぎりお願いするわ。
わたしたちの無実が万人周知の事実となってきたせいもあって、ネットを見た人からの難民救援の物資が急激に集まりはじめているからね。
できれば、ボランティアで医者が来てくれればいいけど・・・・いまは、まだ、そういう連絡はない。
イース、エリコ、あんたたちに指揮をたのむわ」
エリコ、うなずきながらも、
「わかった。
でも、人数も配給品も足りないから限界が低い。それに、理想をいえば、莫大な資金がひつようね。
ボランティアや寄附じゃ追いつかないわ。
わたしなりに少し考えさせて」
「OK、まかせるわ。
それで、わたし、ユリイカ、ジャジュ、非錄斗、ユリアスは、ラグナレクの湖上城へいって、シルヴィエ軍の南下を阻止するか、妨害するように依頼する」
ユリアスの進言を容れた結果だ。
ANKAは、言葉をつづける、
「そして、もし可能ならば、わたしたちとともに闘ってくれるように、協力を要請する。それに」
「それに?」
あたし、きいた。
「辺境小領の伯爵にすぎない身分でありながら、大帝国を敵にまわしても、いっこうにゆるがないラグナレクの底知れないふしぎの力をもってすれば、リアル・ウイルスについて、わたしたちには、知ることのできないようなことも、知っちることができるんじゃないかな、って、彼の異能に、ちょっと期待しているんだよね」
それをきいた〆裂が鼻さきで、「ふっ」って笑った。
ANKA、少しムッとし、
「笑いごとじゃないわ。しんけんなのよ。
考えてもみて。最大の問題はウイルス。理想の大地(The ideal earth)を現実世界みたいに変えちゃっているウイルスがある。
でも、わたしたちには、それがどういうものなのかとか、どこにいて、なにをしているかとか、だれがつくったのかとか、ぜんぜん、わからない。わからないけど、駆除するか、隔離するかしなくちゃいけない。
けど、そのためには、どこにウイルスがいるのか知らなくちゃいけない。わずかのヒントでも、なんでもいいから情報がほしい。
藁をもすがる気持ちなのよ」
イースとチェバロが同時にうなずき、
「あの怪人ならば、ありえない話じゃない」
ユリアスがいう、
「学究上の資料がほしくて、彼とメールのやりとりをしたことがあるので、交渉は私がメインでやりましょう。
いった以上、責任はとりますよ。
アポイントメントは、いま、メールでちょくせつ入れます」
「よっしゃ、出発じゃ。難民の警護じゃ」
そういって、バロイがジョッキを呑みほす。
「ちょっと待てよ。ノーロイには、馬がないが、だいじょうぶか」
ボノがいった。
ノーロイ(乗せられる馬がいるのかなァ・・・)だけじゃなく、ミハイルアンジェロにも馬がない。
イースがいった、
「ぼくが龍馬をつごうしてこよう。1人じゃ、3頭以上を御しきれないので、迦楼羅といく。
エリコたちは、さきにいってくれ」
「あてがあるのか?」
〆裂がきいた。
「あります。
そもそも、ここは騎馬民族の国。ハイムブルグにいけば、たくさん馬がいます。希少な龍馬も十数頭いるはずです」
カノンが『石の城壁と高原のハイムブルグよ』、と古い民謡を口ずさんだ。
ユリアスがいう、
「ハイムブルグか。
クーガのそばをとおるはずです・・・。気をつけていったほうがいい。イースのことだから、だいじょうぶだとはおもうけど」
「ああ。だいじょうぶさ」
あたし、ANKA、ジャジュ、非錄斗が應龍に乗り、ユリアスが黒い龍馬に乗る。
2頭の麒麟をイース、迦楼羅がつかい、海馬2頭をエリコとエチカ、ミーシャとユユがつかう。ANKAは、
「『kOO』を持っていくわ。だれもいない場所においていくのは危険だわ。
肌身離さず、わたしとユリイカとでまもるのよ」
だれも反論しなかった。出発する。すでに夜の8時だった。
みんな、おたがいにケータイで毎日、連絡をとりあうことに決めている。あたしたちの連繋が国家なのだ。
翌日の早朝には、もういくつかメールが来ていた。
ハン・グアリスを警戒するグループは、縦横に走る街道とその枝道に、いくつもの検問所を設置し、おもにグローとガリア・コマータがそこで通過する者たちをしらべて、武装した者をいっさい平原のなかに入れないようにしているとのことだ。
エリコとエチカとがそれらの検問所をまわって、ようすを見ているらしい。
ミーシャ、ユユ、カブキ、タイラクは、難民たちのあいだをまわって、食糧や衣料や薬をくばってまわっているという。とうぜんだけど、ぜんぜん手がまわらないらしい。
〆裂、ソンタグ、カノン、バロイ、チェバロ、ボノ、RZDは、平原を昼夜巡回し、虐殺がおこなわれないよう、監視しているが、いまは不穏なうごきはない、とのことだった。
しかし、RZDって、こういう仕事、だいじょうぶなのか? なんか似あわないけど。
ちなみに、クラウドの難民救済のようすは、そのつどミニ・ブログで報告され、多くのフォロワーのフォローが集まっていた。
そのうちのなん人かがじっさいにハン・グアリスに来て、難民のめんどうを看たり、食事をつくってあたえたり、病人やけが人を治療したり、検問所の仕事をしたり、虐殺者を侵入させないための巡回や監視活動を、ボランティアでやりはじめている。
情報って、だいじなんだナー。
などともいつつも、でも、ゲームの世界だから、交通費もかかるわけじゃないし、仕事があるからいけないとかないし、よーするに、現実とちがって、なんのリスクも損失もないからなー。
などと、ミもフタもないことも考えてみたりもする(笑)。
イース、迦楼羅は、ハイムブルグでみごとな龍馬と2輪で走る戦車を手に入れたようだ。写メがおくられてきていた。
戦車はノーロイ用だろう。型は古いけど、武骨でがんじょうみたい。
ミハイルアンジェロとノーロイは、イースと迦楼羅の帰って来るのを、待ちどおしくおもっているようだった。
順調、・・・っていうには、ほどとおい。でも、なにかがすすんでいる感じがして、気持ちは上がっていた。やっと、なにかができるようになっていた。
湖上城へむかう應龍の背なかで、あたし、ANKAにきく、
「ラグナレクって、湖上城に住んでいるんだよね」
「そうよ。
アカデミアのパルメニデス寮に、はじめて入った日、階段の壁にあったタペストリーに織られていた絵、おぼえているでしょう」
「うん。すっごい、神秘的な光景だった。
どんな人なの、ラグナレク、って」
「魔神ね。
あなたも、知っておくひつようがあるよね。
じゃ、まず彼の生い立ちから話すわ。
さいしょから湖上城にいたわけじゃない。サン・クトゥ地方という辺境の領主の家に生まれたのよ。
サ・クトゥはモンテ大公国の一地方で、モンテ大公国はユヴィンゴとヴォゼヘルゴとにはさまれている小さな国だった。
っていうと、すごくとおいみたいだけど、シルヴィエ~ユヴィンゴ~モンテ~ヴォゼヘルゴ~レオン・ドラゴ~クァバ、ってつづいていく道は、脚のよい馬なら、2週間くらい。
ちなみに、屋敷はサン・クトゥのブロゥワ村にあったから、ブロゥワ城館とよばれていたわ。
で、ラグナレクはブロゥワで生まれたんだけど、母親だったユーグノ伯爵夫人イリャーシャは、ある晩、夢魔に襲われ、はらんでしまった、といわれているの」
「ええ?」
「うわさよ。
で、生まれてきた、いわくつきの赤ん坊がラグナレク伯爵。
彼は、幼少時から異常な能力をあらわしていたらしいわ」
「魔法つかいなわけ?」
「てか、異能の持ち主ね。父親は、彼の生まれた日に死んで、母親は、彼が5歳のときに死んでいる。
2人とも惨殺体でね」
「まぢーっ! なんでよ?
ね~、ANKA、あたし、いかなくてもいい?」
「ここまで来て、なにいってんの。いいから、ききなさい。
それで、使用人たちも怖がっちゃったらしい。でも、辞めるに辞められない。
そんなふうに数年がたったのよ。
ラグナレ伯爵は、爵位の継承のみとめられた11歳の冬、ブロゥワの館を放棄した。
そして、奇人で知られた6代まえのワシーリイ伯爵が建てたまま、無人となっていた湖上城を改修し、外部との交渉をいっさい絶って、そこに〝籠城〟してしまったのよ。
彼の名が世界にとどろいたのは、3年まえね。
ラグナレクが湖上城へ移動した翌年、モンテ大公国はシルヴィエ帝国軍によって占領され、ルクセク大公が神聖皇帝に臣下の誓いを立てさせられた。
そして、モンテのすべての諸侯はルクセクにならった。ラグナレクをのぞいて・・・・・」
「ええ! じゃ、なんで、いまもいるのよ」
「ラグナレクが13歳のとき、シルヴィエは1万の正規軍を湖上城のあるムユイノヒ地方におくりこんだ」
「でーっ?」
「で? 全滅よ」
「? だって・・・・・あたしたち、これから会いにいくんだよね?」
「全滅したのは、シルヴィエ正規軍のほうよ。
モヘロエの森で1人のこらず死んでしまったらしいわ」
「ぅぇええええーっ、うっそーっ、なんで?
どぉ、どーゆーことよ、ラグナレクは軍を持っていたの?」
「常備軍は・・・・せいぜい、2百人ぐらいだったとおもう」
「2百で1万を?」
「どうやって戦ったかは、だれにもわからない。もちろん、湖上城の人間は、わかっているでしょうけどね。
わたしたちのような外国人で、知っている人は、だれもいない。てか、戦闘があったかどうかさえ、確認されていないのよ」
「ねー、いかなきゃだめ?」
「リアルにムリでしょ。もう(笑)」
ユリアスが声をかけてきて、
「ユリイカ、あなたは、ムジョーのつかい手ではないですか。
レベルからいえば、伯爵にはりあえるのは、あなたと〆裂ぐらいですよ。
ムジョー。怖ろしい技ですね。だれも逃れられない。どうか、私にだけは、お手やわらかにおねがいしますよ」
って、ウィンクする。
あたしたちは、丘陵地帯を駈けぬけ、森に入り、遠くに見える北の山岳地帯へとすすむ。
午後、霧が深くなってきた。ふんいきはさらに陰鬱で、神秘的になる。道は坂になり、木々は低くなり、しだいに草木はなくなり、岩だらけになると、霧も雲もなくなり、よじ登るようなけわしい崖の路となり、すぐに路なき路となった。そして、ふたたび下りになり、谷底へいく。亀裂のように切りこんだ谷が山脈を縦横に走っていて、それがルートになっていた。
しばらくすすむと、平地がちかいのか、ふたたび深い霧におおわれるようになってくる。
まるで、すすめばすすむほど、沈んでいくような感覚だった。
ANKAが憂鬱な顔をしていたことに、あたし、気がつく。
「どしたの?」
あたし、きいた。
「エリコよ。
ちょっと、かってな行動してるらしいの」
「えっ?」
「まあ、彼女の考えもわかるんだけどさー。まかせるっていったのも、わたしだし。
けどね。
そうよ、たしかに財源がないわ。お金の出どころがね。
寄附やボランティアにたよるだけでは、規模が小さいことしかできないし、なにかと時間もかかる。
難民救済には、莫大なお金がかかる。資金が潤沢なほうが救援もすすむし、たとえば、仮設住宅なんかをつくることもできるようになるし」
「ごめん、話が見えてないんだけど」
「むろん、管理を委託されているんだから、違法じゃないわ」
「?」
「あー、ちゃんと説明するわ。
エリコがね、検問所で通行税をとっているのよ」
「つーこーぜー?」
「そう。
いろいろな商人やビジネスマンが商売するために品物をつんで街道をとおるでしょう。
そのはこぶものの内容や数や重さによって、お金をはらわせるのよ。はらわなきゃ、道をとおさない。
検問所を通過させないってことよ。
だから、商人たちは、みんなはらうわ。貧乏な人はムリだけど」
「えっ、道とおるだけで、なんでそんなことできるの?」
「だって、道を整備するのにお金がかかるでしょう?
道をとおる人は、整備された道をつかえるんだから、お金をはらう、って理屈も成り立たなくはないのよ」
「いわれてみれば、そうね。あたしたちがつくったんじゃないけど」
「でも、警備しているからね。
おかげで盗賊に遭うリスクが少なくなる。
まあ、ほかにもいろいろ理由はあるけど、おおざっぱにいえば、そういうことなのよ」
「わかった。でも、ANKAは、いやなんだよね」
「そりゃー、あんまりにも、現実っぽいやりかただからね。
まさか、彼女、ウイルスにやられてないよね、とか考えちゃって」
「まさかー。
だって、ユーザーがウイルスにやられるわけないじゃん」
あたしのあたまにある考えがひらめいた。
「ウイルスをしかけたやつと、聖典を奪っているやつは、きっとつながっているよね。そいつが首謀者よね。
ジンは、どうやってそいつらとつながったんだろ。ジンが首謀者とはおもえないから」
ANKAは、
「接触したとすれば、IEのなかでとしか考えられない。とすると、シルヴィエよね・・・・」
あたしがそれにこたえようとしたとき、ユリアスがいう、
「霧が晴れたよ!
ほら、あれだ! あれを見て!」
あたしたちは、山にかこまれた平地にいた。眼のまえには台形のかたちをした山が見えている。
「ユイゴード山だ。見てのとおり、むかしは火を噴く山だった。いまは死火山だ。
さあ、もうすぐ湖上城だよ、ユリイカ。ここを登るんだ」
え? なんで山を登るの?