Act 4. Under the flag of “ Cloud ” 15-1
†Physical phenomenon is zero, because it is physical phenomenon.†
Chpt15 ともだちふえたょ
☆Sept1 〆裂登場!
土砂降りだった。
烈風がそれを水の弾に変える。水平に飛ぶ瀑布だ。
岩や幹や窓ガラスをはげしく撃つ。
ちょっとでも外に出ようものなら、
「ィタッ、ぃたたっ、痛いっ、つ、冷た―いっ」
あわててキャビンにもどるハメになる。
難民たちも、この尋常じゃない風や雨になぶられ、なぐられているにちがいない。はやくなんとかしなくっちゃ。
一瞬、バリユースを見たような気がした。
風雨のなか、灌木と岩の陰にかくれるようにあたしを見ている・・・キャビンにもどって、もういちど、眼をこらして見ると、そのすがたは・・・なかった。
背筋に寒気が走る・・・・・・・・・
きっと、幻よ。さあ、しっかり現実を見なくっちゃ。
ゴルガスト峠はそのぶきみなすがたを、ヴォゼヘルゴとレオン・ドラゴとの国境にさらしていた。つるつるぬめるような黄土いろの岩でできた小さな山で、樹木がなく、髑髏のようなかたちをしている。
ハグレーポルガ軍はゴルガストのふもとで隊を休ませていた。
そのさきにひろがるのがハン・グアリスの大平原だ。一面緑なす、海のような平原。
あたしたちは、樹木のよくしげった丘の上に停まった。敵からは、1キロメートルくらいか。
ポンチョをかぶって、デッキに出てみる。たたきつける豪雨が風で飛沫になってけぶっていた。とおくかすかに数千人の軍隊が見える。大きなテントがいくつかあった。鬚をたくわえた指揮官や高級将校が火酒を飲み、葉巻を燻らせているにちがい。
「せめるなら、あそこだな」
イースがつぶやく。でも、あんなにたくさんの兵隊と闘えるのかしら・・・・・・なんだか、ゴルガストがよけいぶきみに見える。あたし、こわくなって、
「ムリだよ」
エリコがよこ眼であたしをにらみ、
「なに弱気になってんのよ。
・・・まあ、ちょっと無謀かもね。ようす見るべきじゃない?」
オメーも弱気じゃんか!
けど、そんな会話をよそに、ケータイをいじっていたANKAがいう、
「待って。
ここから見えているものだけが事実のすべてじゃなさそうだわ。キャビンにもどろう」
「え?」
あたしたちは、ふたたびディスプレイのまえに集まった。
ANKAが照準をあわせる。なにごとかしら・・・?
「あーっ!」
映っていたものは・・・・雨のなか、森のなかをすすむ軍隊だった。風雨をものともせず、鋼鉄の甲冑を鳴らし、草土を蹴ちらし、流旗をなびかせている。
エリコがANKAのほうをむき、
「なんなの、これ?」
ANKAがきびしい表情で、
「レオン・ドラゴの兵よ」
エリコがさらに問う、
「どこにいるの? てか、こいつら、どこにむかってンのよ?」
ANKAは、冷静に指さし、
「こっちの画面を見て。この周辺の地図よ。レオドラ軍は、いま、この森林地帯を走っているのよ。これにむかってね」
それって、つまり、
「ねえ、だって、こっちのこれって、平原でしょ、てゆーことゎ」
「そう、この軍隊は、ハン・グアリスにむかってるわ」
ミーシャが声を上げて、
「どぉーしてぇー、なんで、レオン・ドラゴが」
エリコの顔がすっと青ざめ、
「それだけじゃない。これって」
「あぁーーっっ!」
じぶんの血の気がひくのがわかる。
「ジン・メタルハート!」
鋼鉄の女戦士と彼女のなかま4人が疾駈する騎兵部隊のなかにいた!
イースがうなる、
「そうか、ジンがいて、とうぜん。ふしぎはない。
彼女は、レオン・ドラゴに雇われているんだからね。
ともかく、この軍は、いったい、なにをしようとしているのか」
エリコがタブレット型PCを出し、
「わかったよ。宣戦布告が公開されてる。
レオン・ドラゴはハグレーポルガが国境をおかそうとしているとして、宣戦布告しているわ」
「言葉どおりには受けとれないな」
イースが冷たくそういった。
ANKAも、
「そうね。わたしたちか、あるいは難民たちを、はさみうちにしようとしているのかもしれない」
「あたしたちをねらうのは、盗人をつかまえるってことなんだろーけど、なんで難民をねらうの?」
「いろいろ考えられるよ。
レオン・ドラゴの領内に難民がいるだけで王国には負担になるし、治安の悪化(たとえば、一部の難民たちが飢えや寒さのために盗みを働くとかね)をまねく可能性もあるし、ヴォゼヘルゴへ強制送還すれば他国に批判されるだろうし。
でも、どっちかっていうと、ヴォゼヘルゴに協力して難民をしまつしてしまおうとしている、ってのが、いちばん正解にちかいようにおもえるわ。
レオン・ドラゴも、シルヴィエの影響下にあるからね」
「そうだね。
それに乗じて、ジンがぼくたちを襲撃する可能性も高い。彼女は、ぼくたちがここにいることを、とうぜん、知っているだろうからね。
男爵とのいさかいで、ぼくたちの存在は、おおっぴらになってしまっているはずだ」
「イース、おちついてそんなこといってるばあいじゃないでしょー。
どーしよー、ANKA!」
あたし、あせる。
「おちついて、ユリイカ。こういうときこそおちつくのよ。
ねえ、ディスプレイの画像を拡大して。ちょっと気になるのよ」
エリコが、
「あ、ANKA、それは!」
イースも気がついたらしく、
「ほんとだ、レオン・ドラゴ軍の、この荷馬車に載っているのは!」
ANKAが勝ちほこって微笑し、
「民兵の軍服よ。これでレオン・ドラゴとハグレーポルガの意図はあきらかになったわ。
さあ、画像を保存しよう。
これをネット上に流すのよ。どっかのサイトにスレッド立ててもいいし、Twitterでもいいし、とにかくIEユーザーのすべてにうったえよう。
もし、わずかでもこの世界に正義がのこっているならば、勝つのは、わたしたち力なき民衆だわ」
監視委員会に画像を添付したメールを送付するとともに、添付した画像と同じ画像をネット上に公開した。
次の文を添えて。
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『この画像は、ハグレーポルガ軍およびレオン・ドラゴ軍を撮影した画像です。
さいきん、起こった一連の難民虐殺事件は、民兵をよそおった彼らのしわざではないでしょうか。わたしたちは、この事実を監視委員会に報告し、しかるべき措置をするように要望しました。
わたしたちは、正義の御名において、この悪逆行為を阻止すべきことをすべてのIEユーザーにひろく、そして、強く、うったえます。
もしも、わたしたちに共感されるかたがいたならば、わたしたちに協力してください。
現在のIEに疑問をいだく人たちは、集まってください。いま、理想の世界であるべきIEはウイルスによっておかされています。それに気がついた人は、覚醒めた人です。正義を胸にいだく者よ、ここに来たれ。(この文に、AR機能で位置情報や周辺情報を添付した)』
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すぐにたくさんのフォローがあった。意外だった。しかし、彼らは、あたしたちが『kOO』を盗んだ犯人として報道され、追われている者であることは知らないにちがいない。
「まだ正義をうしなっていない者たちがたくさんいるんだな」
見ながら、イースがそういった。
エリコがケータイ片手にいう、
「見て、すごいわ。
監視委員会がうごいたよ! 勧告が公表されたわ。『レオン・ドラゴ王国およびハグレーポルガ王国は即時活動を停止し、監視委員会の調査を承諾するよう勧告する』だって!」
ANKA、うなずく。
あたしは、
「カンコクって、なに?」
「勧告っつーのわさー、○○○○をするように、って勧めることよ。知ンないのかよ?」
うっせー、エリコ! ぷぃっ!
「すすめる? やめろって命令じゃないの? なんかまどろっこしい! もっと強くいえないの?」
「監視委員会に、その権限がないんだろうな。まあ、いいじゃないか。これも強い追い風だ。
ぼくたちは、御墨付をもらったのさ」
「オスミツキって?」
「あんたねー、いいかげんにしなよ! 御墨付ってのわねー、むかし徳川幕府とかが証明のために墨印の押してある文書をあたえたのよ。それが言葉の由来!」
たしかに効果はあったらしい。
ディスプレイのなかのレオン・ドラゴの進軍がとまった。もういちど、デッキへ出てみると、ハグレーポルガ軍も、おたおたしている。本部テントへの人の出入りがはげしくなっているのだ。
「ねー、ほら、ハグレーにも反応があらわれたわ」
あたし、ANKAにそう教えた。
「あっ、あれ、なぁに?」
とうとつに、ミーシャが空を指さす。
それは、6枚の翼と3つの首を持ち、白日のようにかがやく白い龍だった。豪雨でも、そのまわりだけ晴天のようだ。
乗っていたのは、眼の光がするどい1人の若者だった。ロングのトレンチコートはもともと白かったにちがいない。いまは、ねずみいろとオリーブいろのまだらだ。ロングブーツをはいて、第6弦のない(弦が5本しかない)テレキャスター(E・ギター)を肩にかついでいる。
「俺の名は、〆裂ってんだ。
ふ。きみたちのステートメントに感銘を受けたよ。
ともに闘おう」
腰に佩いた剣がはばひろで大きい。鞘にはアイルランドの十字架なんかによくある文様に似た浮き彫りがあるほか、創世叙事詩『エヌマ・エリシュ』の浮き彫りがされていた。マルドゥク神と闘うティアマト神、蠍尾竜(バビロンでイシュタル門を守る守護龍)、女神イシュタル、ティシュパク神、ニンギシュジダ神、アヌ神が彫られていた。
顔は頬がこけて面長、口がよこに大きくて鼻がとがって高く、あらあらしく黒い蓬髪が背までとどいている。
ANKAは、
「ずぶぬれになるわ。ともかく、なかに入ろう」
そういって、キャビンにまねき、握手して、すぐにいう、
「さっそくだけど、わたしたちには、『kOO』を盗んだ疑惑がかけられているわ。
まずは、真相をあなたに話しておくべきだとおもう」
「いや、それについては、すでに了解ずみだ。
きみたちのことは、マコトヤ・アマヤスからきいている」
「マコトヤ・アマヤスから!?
なんで? 会ったこともないのに!」
「いや。そうじゃない。気がつかなかったのか。会ってるよ」
「・・・っ! どこで?」
「北大陸の最高峰カム・イ・アレズヲ山の嶺の上でさ」
「管理局だ!」
エリコが声を上げた。
「そう。彼がマコトヤさ。
かくいう俺も、IEの古参で、4神の1人といわれ、最も古いユーザーの1人だ。イタルといっしょに、バンドでギターを弾いていたこともある」
註 4(し)神とは、マコトヤ・アマヤス、ドォゲン・叭羅蜜斗、天平普蕭、彝之〆(い)裂。かつては、イタル(現アカデミア大司教、彝之イタル)をふくめ、5柱の神といわれた。
「ユリイカ、きみの師であったタカフシは、俺の子分みたいなもんさ。たとえ神聖皇帝ジニイ・ムイや南大陸の帝王羅氾ですら、俺には、一目おいている。
なんなら、レオン・ドラゴの王アルハンドロⅢ世とのあいだに入ってやってもいい」
「センセイの先輩っ?! クドク・ポイント見せてもらっていい?」
「ああ、かまわんよ」
QDQ:1789 すっ、スゲェー!!
「なーに、たいしたこたぁない。マコトヤなら、かるく2000超さ」
そういうと、とーとつに、第6弦のないギターをダウンストロークでかき鳴らしはじめた。きいたことないフレーズ。
「’70年代Rock ‘n’ Rollのリフさ」
エリコが眼をほそめ、疑わしげに不満をいう、
「あなたたちがそれほどの実力者なら、なんで北や南の皇帝たちの暴走を止められないの? ウイルスにおかされたいまの事態をなんで修正できなかったのよ?」
〆裂は、眼をかがやかせて高らかに笑い、
「俺もゲーマーだからな。それがゲームの性格なのさ」
それ以上は、なにもいわなかった。
ANKAがなかばけげんそうに、
「よくわからないけど、力強いみかたがふえたことは、たしかだわね・・・・・」
でも、じっさい、そのとおりだった。
〆裂の参加をきいて、さまざまな人たちが参加を申し出てきた。
同時に、ハグレーポルガやレオン・ドラゴのホームページは非難のメールが殺到、2国の王のブログも炎上し、王国の裏サイトになん千もの書きこみがあふれ、荒れまくった。
これらのことが画像と告発文の公開から、1時間ちょっとのあいだに起こったのだ。
驚いたことに、ハグレーポルガもレオン・ドラゴも、軍の撤退を宣言した。しかし、
「じっさいにうごくまでは、信じないわ」
エリコは、いった。
たしかに、あたしもそうおもう。
「どうやら、エリコの考えが正しいようだ。
彼らの撤退は、名誉棄損で、ぼくたちをうったえる準備、それから、異議申立の準備、そのために一時的に撤退する、ってことらしいね」
イースがレオン・ドラゴとハグレーポルガが共同で公開したステートメントをケータイで見ながらそういった。