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見わたせば神も仏もなかりけり

これは小説習作です。とある本を開き、ランダムに3ワード指差して、三題噺してみました。

随時更新して行きます。

【お断り】「勇気、母、命」の三題噺です。


(以下、本文)


農業の本質は自然破壊だ。ジャガイモ一つ作るのだって、目障りな草は抜き、目障りな虫は殺し、食べられない所は捨てて、おいしい所だけ人間がちゃっかり、いただいているんだから。

そもそも私たちが知っている「ジャガイモ」は、そこらへんの野山に自生していたものではない。人間の手で作られた品種、つまり、こしらえ物だ。「自然と共生する農業」と言えば聞こえはいいが、要は自然からの搾取だ。自然開発だってリッパな開発行為だ。石油だの石炭だの化学だの自動車だのばっかりを悪者みたいにあつかうのは、どうかと思う。


それと、もう一つ。畑も田んぼも林も山も、人の手が入っている内はいい。慎重に管理されている内はいい。これが、ある日突然、まるでかき消すように耕す人の姿が消えてしまうと、自然破壊どころの話じゃ済まなくなる。


耕作放棄地には草が生える。低木林になる。これが原生林になるまで、どれくらい時間がかかるんだろう。それでも平地なら、まだいいが、傾斜地はどうなる? 段々畑はどうなる? やっぱり土砂崩れは防げないんだろうか。


鹿や狸や猪が妙に増えた。そうなる環境を、私たちが作ってやったからだ。花粉症だって、杉をちゃんと40年で伐採している内は、今ほどひどくなかった。


私たちは、いずれバチが当たるだろう。自分の田や畑を大事にしない国民が、いつまでも無事で済む訳がない。私たちが耕作地を放棄したのではなく、私たちが大地に放棄されたのだ。


こればっかりは田畑で自分の体を動かしてみないと分からないのだが、自然は偉大だ。人間は弱い。夏の日でも冬の風でも草木は倒れない。人間は暑ければ「暑い」と言い、寒ければ「寒い」と言って逃げ隠れするしかない。雀だって蝶だって、吹きさらしの中で冬を越すのに。


そもそも人間の体なんて、豆腐に竹串を突き刺したようなものだ。篠竹一本の方が、人間の体よりはるかに頑丈にできている。

大自然は母のふところのように大きい。人間は母親の財布から小銭を抜き取る子どもみたいなものだ。


以上が母の事実上の遺言になった。

また、こうも言った。


「私は病院で死ぬ事に不満はないよ。家も田畑も、おまえの好きにするがいい。必要以上の手間ひまをかける必要はないよ。私もお父さんも、この家屋敷を受け継ぐには勇気が必要だったんだから。お父さんが亡くなる直前に『屋敷森の木を全部切ってしまえ。庭はコンクリートで固めてしまえ』と言ったのが忘れられないよ。『それは子どもたちが決めればいい事だから』と言って、その場は収めたけどさ。」


「オヤジの事はともかく、おふくろさんは、オレにどうして欲しいのさ」と聞いたら、こんな答えが返って来た。


「どうするも、こうするも、アンタが実際にゴム長靴はいてみなけりゃ何も始まらないよ。それで、ある程度の時間、土いじりして、大地の命を感じられなかったら、それまでの話さ。放置して迷惑がかかるほどの物でもないしね。ああ、そうだ。あの家の電気ガス水道の契約は切りなさんなよ。空き家と見られると、税金も役所の態度もガラリと変わるからね。」


子どものころ、父が買った郊外の家で多少の土いじりは経験した。

田畑は家庭菜園の積もりでもやれる。

墓は寺への義理を欠かさなければいい。

家屋敷は火事さえ出さなければいい。

問題は山だ。相続財産の中に山も入っているのだ。


山の神さまは情け知らずだ。今、このナマった体で山に入ったら生きては帰れまい。岡に毛の生えたような、ただの竹ヤブ山なんだが。


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