6.カユウマ、キター(もう嫌だこの世界)
「・・・痒い!。何か全身痒い、って暗、何があったんだ?」
目を開けても瞑っても変わらない、なんだこの暗さ、
寝ぼけて枕元に有るはずの照明のリモコンを探した。
ざらざらとした手触りの布、その下にチクチクする詰め物。
クッションじゃねぇ!
ようやく本格的に目が覚めた、そうだ転生したんだ。
『やっとお目覚めですか?
折角話しかけてあげたのに無視して眠ってしまうから心配してました。』
頭の中に直接話しかけてくるこの声は。
「テンプレ、夕食会の時いろいろ教えて欲しかったのに
全然答えてくれなかったろ?
何サボってんだよ。」
『私が話しかけると高確率で声に出して返事するでしょう?
別の人がいる所でやったら高確率で頭がおかしいと思われます。』
「頭は本当におかしくなっているかもしれない。
なんかエア君の記憶と俺の記憶とが混じりあっているし
動作も俺が意識して動く動作とこの体に染みついてる動作が
ぶつかって物凄く気持ち悪い。
混乱して何やってるかわからない時がある。」
『まだ24時間経ってないのに何音を上げてるんですか。
そのうち慣れますから頑張って。』
「そんな他人事みたいに。」
『他人事ですよ。私のご主人は別の方ですから。』
「それでも面倒みるように命令されてるんだろ?少しは助けてくれよ。」
『仕方ありません。少しはアンタの要望もかなえてあげましょう。』
「最初の希望として何にも見えないのを何とかしてくれ。
ここは最初に目覚めた部屋か?」
『私に照明機能はありません。淡く光る位が精いっぱいです。』
「この状況で何もないよりマシだ。頼む」
胸の所が光り出した、がロウソクより暗い。
直近以外はかえって見えにくいかもしれない。
「俺が持ってたスマホはどうなったんだ?
照明機能だけでも欲しい」
『欲しいのはスマホの照明機能ですか?
それとも保存されているエロいデータですか?』
「この状況なら照明機能一択だろう?
何を根拠にそんな言いがかりを。」
『あなたのスマホおよびノートPCは電撃により破損した為
データーが読めなくなりました。
従って入っていたエロいデータや検索履歴はバレません。
良かったですね。』
ラッキー安心した。両親や妹にあんなの見られたら
俺の思い出が汚れてしまう。
『なんか考えている事が小物ですね。』
「悪かったな。それより体が痒い、眠れない程痒い。
なんだこれ。」
『何らかの虫のせいだと思います。
そのベットや服に生物反応があります。』
「思い出した、この体に南京虫いたんだ!
考えたら体中痒い」
『だからベットに入った時に話しかけたのに
寝落ちしたんですよアンタ。折角殺虫剤持ってたのに』
「知ってたんならちゃんと起こしてくれよ。
他人事みたいに。」
『私は虫に食われないので関係ありません。
少しで良いから眠らせてくれと言ったのアンタですからね。』
うん、かすかに記憶がある。言ったと思う。その原因は・・・。
「なあ、この体って凄い疲れやすくないか?物を持っても重く感じるし。」
『当たり前です。8歳の体です。
元の体である22歳県予選3回戦が最高成績の中途半端な元高校球児と
同じではありません。』
「必要ない細かい説明を有難う。
エア君を鏡見た時小さくて痩せてるんで驚いたよ。
苦労してるんだね。」
『最初は難しいかもしれませんが精神と肉体を合わせるようにして下さい。
その体で無理は禁物です。』
こうしてはいられない。落ち着くと、痒い、なんとかして。
昨日は緊張してたからあまり感じなかったのかもしれない。
物凄く痒いぞこの体。
そういや風呂に入ってない、いつから入ってないんだ。
髪がべた付いてる、たまらん。
「日本人として要求する!風呂に入らせろ。」
『残念、この辺一帯に風呂はありません。
お湯で体を拭くか冬でも水浴びです。』
テンプレが即答してきた。
こいつ絶対面白がっているだろ。
とりあえず淡い光の中で昼間着ていた服を探す。
ポケットを探して殺虫剤を取り出して自分の体とベットにまき散らす。
他の人に不審がられても良いや。
何とか誤魔化そう、この痒みよりマシだ。
しかし、殺虫剤では痒みはおさまらない。
ついでに「腹減った・・・。」
カチカチ、ボッソボソのパンを何個か食べたはずなのに、
猛烈な空腹が襲ってくる。
腹持ち最悪のカスカスパンの他は激マズの塩汁だけだから当然か。
しかし成長期の子供に十分食わさないなんて虐待だ訴えてやる。
下らない事を考えるが、このままでは何も解決しない事は明らかだ。
「仕方ない。」俺は極力やりたくない動作を行った。
「萌え萌えキュン!」ポーズをとるとあっという間に白い世界に入り込んだ。
『恥ずかしいとか言いながら結局頼るんですね。』
「うるさい、中身の22歳学生はこのポーズを取るたびに
大切な物を捨てた気がして心理的ダメージを受けているんだ。」
背に腹は代えられない。
この言葉の意味と重みが骨身に染みる。
説明通り前に来た場所だ。
事務机があり置いてあったタブレットを手に取る。
「とりあえず、かゆみ止めと食料が欲しい。」
薬品を探す。アンモニア水、抗ヒスタミン軟膏、
よしよし結構ある。
食品、びっくりする位用意してある。
種類も多い、どれもアメリカンサイズ、良いね!
うん?良いねか?この体にいきなり入れたら腹下さないか?
考えた結果巨大缶のビスケットを持ってきた。
食べる分だけ取り出しても。ここに置いておけば劣化しないんだろ?
ビスケットなら向こうの世界で持ち歩けるし
見られても怪しまれないだろうと考えての選択だった。
それが馬鹿だと気が付いたのは缶を開けた後だった。
アメリカのビスケット、デカい!。
エア君の手で収まりきらない位あって具沢山、重みもある。
でも体が要求しているのか、口に入れたら止まらない。
見た目からボソボソ食感かと思ったがバターが効いてて
何より空腹に染みる。
お茶かコーヒーが欲しくなるがもう一口、もう一口と止まらない。
薬をまだ塗ってなくて痒くてたまらないのに食べるの止められない。
「カユイ、ウマイ、カユイ、ウマ、ウマイ、カユ・・・」
あの人に見られたらヘッドショットされるセリフ言いながら食べきった。
お腹が膨れてから姿見の前で全裸になり、着ていた物を振り回す。
人に見せられない姿だが、ここなら構わないだろう。
振り落とされた虫は固まるわけだし。
着ていた服はリネンの肌着にウールの上着、
セーター、リネンのエプロン。
昨日第一夫人が着ていた服も大差なかったと思う。
綿や絹はないのか?
それより薬だ、姿見を見ながら薬を塗る。
恥ずかしい所まで食われてるから仕方ない。
鏡に映る姿は8歳の男の子。
令和の日本基準で見てはいけないんだろうが痩せている。
栄養失調という事は無いようだが全体的に垢じみて肉付きが悪い。
さて、服を着るか。嫌だな。
でも元の服を着てないと騒ぎになるだろうな。
タブレットを見てみるが子供服はないようだ。
仕方ない諦めよう。そばにシマム〇でもあれば良いのに。
さて落ち着いたら喉が渇いた。
古い服にもう一度殺虫剤をふりかけながら
ミネラルウオーターとミルクを探す。
ついでに栄養サプリメントも探す。
流石アメリカ人、サプリは山程ある。
さて栄養摂取は済んだ。
うーん小さな懐中電灯は持って行こうこの位なら隠せるだろう。
忘れてた髪の毛にも殺虫剤をかけなきゃ。
さあ服を着よう。え、今までどうしてって。
首からテンプレはぶら下げてたよ。
おまたの間にぶら下げたものは丸見えでしたよ。
誰も居ないんだもん良いでしょ。
服を洗うかアイロンかけしたいけど水道も電気も無い。、
発電機は離れた瞬間止まってしまう。
そうか、俺に付属してない物は時間がとまるんだもんな。
さて、テンプレが転生世界の活動時間に注意と言い出した。
起床時間らしい。
もっと準備する時間が欲しいが仕方ない、やりたくないけどやるぞ。
「”萌え萌えキュン”」
俺は元の部屋のベットの上に降り立った。