57. 鬼BBA、キター
「では互いの秘密は口外しない。約束じゃぞ」
「こちらこそお願いします。もちろん約束は守ります。」
「人間やドワーフに知られたら不幸を招くと言い聞かせておったじゃろ。
全く愚か者ばかりで困ったものじゃ。」
族長の家に呼ばれた俺は、互いに秘密を守る約束をしていた。
具体的には金の鍋や魔物素材、亜空間倉庫や近代火器についてだ。
俺たちの前では族長とバッチャに小言で詰められていたらしい
調理係りのエルフが泣いている。
「だってー、重いしー、落とすと曲がっちゃうしー、不便だったんだもん。」
このエルフに何か欲しい物はないか、聞いてアルミの鍋を贈ったので
若干の責任を感じる。
「人間やドワーフは金を見ると狂うのじゃ。
戦の時にわからんかったか?
エルフから奪うだけなら解らん事もないが、
あ奴ら仲間同士で殺し合ってまで欲しがる。
こんな物があると知れたら大群でやって来るぞ。」
「そんな呪われ鍋要らないからこの子の鍋と交換しようとしたら
要らないって言われただけもん。」
「こ奴は大魔法使いにして変わり者だ。人間一般と考えん方が良い。」
随分な事を言われているような気がするんだが。
それと、呪われアイテムをしれっと俺に押し付けようとしたのかよ。
「族長さん、金はその時全部渡したんじゃなかったの?
何故鍋だけ残ってたの?」
「ふむ、戦の講和条件で手持ちの金は全部渡したつもり
だったんじゃが、鍋の材質まで考えなかったのじゃ。」
「他に金で出来たもの無い?って聞いたのに、
アンタ”ない”ってハッキリ言ったよね。」
バッチャに詰められた調理係りのエルフがまた泣き出した。
「フライパンとか食器はちゃんと出したもん、
鍋はその時煮物してたから気が付かなかっただけだもん。」
「と、言うわけじゃ。気が付いた時には何十年か経っていて
人間とドワーフの血まみれの金探しも終わっておったのじゃ。」
「鍋が金で出来てるのを忘れてたんだ。」
「何度か売るか捨てるかしようとしたのじゃが
絶対出どころを探られるじゃろ?扱いに困っているのじゃ。」
確かに。もっとないか探ろうとする奴が大量発生するだろう。
「誰かに見られたら不幸を招くと言っておるのにコイツときたら。」
バッチャが料理係りのエルフに文句を言っている。
何かこのエルフが可哀想になってきた。
「貰わないけど、預かっても良いよ。」
「”亜空間倉庫”とかいうのじゃな。」
「うん。鍋一個位どうという事は無いし、取りに来てくれたら
何時でもわたせるし。」
「ならお願いしよう。鍋を預かってくれ。」
「了解、じゃあ鍋の重さを測って預かりを書かないと。」
「何の事じゃ。預かってくれんのか?」
「僕が持ち逃げするとか、品物をすり替えるとか考えないの?」
「人間は細かいのう。欲しければクレてやるといっておるじゃろ。
ワシらの所から出たとさえ言わぬなら、それで良いのじゃ。」
俺はエルフ達を見た。
族長の家でさえ家具や調度はほとんどない。
服はヒートモスで織った布とエーケルラウペという芋虫の革で作ったのを
2,3着持っているだけ。(下着は乙女の秘密♡だって)
金、要らないよな。酒や嗜好品は好きみたいだけど、
そこまでガツガツしていない。
「わかった。なんかあったら言ってね。俺で出来る事なら何でもやります」
金はおれもないが、大っぴらにできない金目の物は沢山ある。
状況によってはイロイロ助けられそうな品物もある。
「それは助かるの。お前の好意は何より価値があるのじゃ」
「さて、カッチャを助けてもらった恩もあるし、ネッチャの希望もある。
お前の母親に頼まれていたマンテェスまで同行する話じゃが受けてやろう。
バッチャとネッチャが一緒に行っても良いそうじゃ。」
「本当に!有難うございます。」
「まだ話の途中じゃ。人間の世界の揉め事が収まるまで街道は通れん。
となると樹木の道を行く他ないのじゃが、普通の人間は通れん。」
「どうして人間は行けないの?」
「樹木から樹木へ飛び移り、魔物をかわせる人間が
これまではいなかったのじゃ。だがお前の魔力は桁違いじゃ
鍛えれば通れるようになるかもしれん。
今日からバッチャの指導を受けるのじゃ。」
「3日だけ待つね。それを過ぎたらネッチャと二人でマンテェスに行くから」
・・・エルフへの見解一部改変、メッチャ我がままじゃん。
自分らが行きたいだけじゃん。3日待つてくれるだけマシ?
族長の家を出る時からバッチャの指導が始まった。
足の裏から魔力を出すことに集中しろ?
掌から出せるんだから出来るだろって?
やってみましょう。こうですか?
えっ、ここから飛び降りろ?
ムリです10m以上ありますよ。
魔力ちゃんと出せているし、
バッチャと炊事係の二人で両側から支えるから大丈夫だって?
何の冗談ですか、無理ですってば!
『重力系の魔法を使えているようです。初めてにしては上出来でしょう。』
『テンプレ、大丈夫なら早く言え。心臓に悪いわ!』
族長の家から突き落とされた俺の体は、加速度を感じさせる事無く
落ちる、ではなく降りていった。
「うん、才能がある。これなら間に合うかもしれない。」
バッチャ、途中の説明省いて訓練開始するのはやめてくれ。
地面に付くのを待ち構えていたように瀕死だった男が力尽きたと知らされた。
最後まで意識は戻らなかったらしい。
エルフの習慣で葬式はせず、集落傍の目立たない場所に放置するらしい。
現場で死んだ奴と合わせ2体が集落から運びだされていくのを見送った。
疲れていたせいか、あんまり感情が動かなかった。
恨まれるかな?恨まれても良いや。気持ちの整理がついたのかもしれない。
感情が動かなかった理由はもう一つあった。
「魔力集中が遅い、もっと次の場所を意識して、だからダメだって」
優しいエルフさんだと思っていたバッチャが鬼BBAになっていたのだ。




