51.延命措置、キター
悲鳴をあげながら男は走っていた。意識の中では。
実際には片足が効かず、転がり、這いつくばりながら逃げていた。
彼はブツブツと独り言を発しだした。
「あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
小っぽけなガキをぶん殴ろうとしたら 俺の方が大けがをしていた
な… 何を言っているのか わからねーと思うが
おれも 何をされたのか わからなかった…
頭がどうにかなりそうだ。変わった武器?そんなチャチなもんじゃあ
断じてねえ もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…」
大量の出血は彼の意識を混濁させ、いないはずの仲間達が彼には見えていた。
あのガキは高く売れる。魔法かなにか知らないが
ジェニ子爵なんかにゃもったいない。
王都に連れて行けば天井知らずの値段で売れる。
ここを襲って皆で大金持ちだ!
脱出して一刻も早く仲間たちに知らせようとしたのか。
それとも水音に惹かれたのか、彼は泉からの水が流れ込む池に到着した。
水だ!池に顔を付けて水を飲むと少しだけ体が楽になった。
後ろから大勢が追て来る。池の中に隠れるか?そっと体を入れてみた。
池は淵から急に深くなっていて、底に向かって流れていた。
大けがをして、十分に動けない男はあっという間に吸い込まれていった。
『・・・りしろ!アンタ、エアー、諸星望、
動け、動くんだ、しっかりしろ!』
頭の中にとんでもなく大きな声がする。
「テンプレか、マリアさんが、、、、。マリアさんが、、、、。」
『だから、しっかりして下さい。緊急事態です!
私の指示に従って。今すぐマリアさんの傍に寄って!』
そうだ、急がなければ、回復魔法だ!
この世界には魔法があるんだ。
倒れているマリアさんに駆け寄る、出血が酷い!
「血を止めなきゃ。テンプレ、どうしたら良い?指示をくれ」
『肺の動脈が傷ついています。肺胞が浸潤しています。
出血多量により脳に酸素が供給されず失神しています。
出血量が多すぎます。
回復魔法をかけても処置中に絶命します。』
「ふざけるな!絶対助けるんだ。何か方法を考えろ!」
『手当する間、輸血が必要です。酸素吸引が必要です。
血液が適合しているのは、この付近ではあなただけですが
生命維持ギリギリまで抜いても必要な血液量を採血できません。
採血の方法がありません。輸血の方法がありません。えーっと・・・。』
「なんか、もう一つあるのか?」
『ご主人様が居れば、医療装置で対処可能ですが、時間的に・・・。』
時間?それまでの時間を稼げば良いのか。
俺の中で動かなくなった南京虫のイメージが浮かぶ。
「テンプレ、マリアさんを亜空間倉庫に入れたら、時間が止まるんだよな。」
『その手は考え付きませんでした。はい、理論的には今の状態が保てます。』
「そうとわかれば、一刻も惜しい。
皆、魔法を使うからしばらくここから離れてて。」
いつの間にか周りを取り囲み、オロオロしているエルフ達に声をかけてから
俺は思いっきり叫んだ「萌え萌え、キュン♡」
切羽詰まっていてあまり可愛くなかったと思うけど、空気を読んだのだろう。
俺とマリアさんの体は亜空間倉庫に引き込まれた。
真っ白い空間の中で、マリアさんの体から少し離れると出血が止まった。
「テンプレ、呼吸が止まっているように思うんだけど。」
『次元の狭間で時間が流れませんから生命現象も止まったように見えます。
あなたの認知できる範囲では心臓も止まっています。』
「死んでないんだよな?」
『生きています。この状態ですぐに適切な処置をすれば
回復が見込めます。』
「そうか・・・。」
良かった、とにかく最悪の事態だけは避けた。
助かる方法があるんだ、次にあの人に会ったらお願いしよう。
マリアさんの為なら足でも尻でも舐めるからお願いします。
「ヤバイけど、男爵館に戻るしかないか。」
不定期であそこに来る事しかわからないもんな。
『書置き見るだろうから、大丈夫だと思いますよ。』
男爵館を出る時、あちこちにマジックインキで書置きしてきた。
館の外の岩にまで書いたけど、気づいてくれるかな?
日本語で”マンチェスに行きます”って書いたから
この世界の人には謎文字だろう。
「近くまで来たら、お前の電磁波でわかるんだっけ。」
『地上で10km 空中なら60km位なら見つけてくれると思います。』
そこまでできるなら通信もできそうな物だが。
『焦る気持ちは理解しますが、そこまで焦らなくても命に別状はありません。
自分の安全を第一に考えて行動して下さい。』
安全か、俺はポケットから拳銃を取り出した。
「あいつら、死んだかな?」
『・・・。』
「答えてくれよ。俺、人殺しになったんだよな?」
『心情お察ししますが、それには答えられません。
私の立場からは、警告射撃を行わず撃つべきだった、としか言えません。
建物の中に居る人間二人の敵意に気が付けなかったのは私の失態です。』
失態か、そういえば一人は倒れたけどもう一人は逃げていった。
エルフ達、村の幼児達、大丈夫だろうか。
それにカッチャが殴られて倒れてた。マリアさんに気を取られたけど
助けなきゃ。戻らなきゃ、皆を守らなきゃ。
俺は亜空間倉庫の机の上に出しっぱなしにしてある自動小銃、AR-15の
スリングを肩にかけた。
拳銃は弾倉を抜き机の上に置く。
発砲したから手入れしなきゃいけないけど、もう行かなきゃ。
時間の止まった倉庫の中に置いておけば錆びないのは確認済みだ。
チラッと鏡を見ると、殴られて思いっきり腫れた顔、
血まみれ泥まみれの男の娘が居た。
140cm無いのに自動小銃を担いでいる。
令和日本だったら何と言われるかな?
大騒ぎ、大炎上間違いなしだ。
何故だか笑えてきた。
この笑いが良かったのかもしれない。
「萌え萌え、キュン♡」
あの姿じゃ絶対可愛く無かったと思うがスムーズに対応された。
子供が寄るなと叫んで母親と突如消えた事に驚愕したエルフ達は
カッチャを助け出すと少し離れた場所に移っていた。
そこに、またしても突然子供だけが現れた。
「ウッソ!ホントだったの!」
「だから言ったでしょ、パッと消えたって。ウチは嘘つかないんだから」
「こんな大魔法見た事ない!で、女の人はどうなったの?」
「あの子ケガしてない?大丈夫?」
「ねぇ、もう近寄っても良い?」
俺が頷くとエルフ達が近寄ってきた。
横を見ると男が倒れている、俺がそっちを見ていると
エルフの一人が目を塞いできた。
「アンタは良い人間、私たち良いエルフが保障するよ。」
柔らかい、その手は暖かくて、血と泥でぐちゃぐちゃの
俺の顔に他の水分まで加わってさらにぐちゃぐちゃになってしまった。




