43.人さらえない、キター
いささか薄汚れてしまった金革の胸甲、金のヘルムの集団が
バルツ男爵館に到着したのはその翌々日の夕方の事だった。
彼らが急いでいるにもかかわらず、バルツ男爵領と最初の村、
地元民が西の村と呼ぶ場所で一泊したのには彼らなりの理由があった。
残った人数のうち20人以上、戦える程度の手傷の者を入れればそれ以上
負傷、残りも疲れ切っていて数日ぶりに入った家屋から出られなかったのだ。
翌日の出発が遅くなったのも彼らとしては仕方ない事だっただろう。
その結果彼らが獲物として狙っていた者たちが逃げてしまった事も
彼らの情報がシャーフラント中に広まっていくのも容認できるのならば。
バルツ男爵の手紙を見せると村人は館に案内してくれたが、
そこには誰もいなかった。
目的の母子は村の子供達と一緒に西部高原の羊飼い達を
迎えにいったという。
魔物の多い場所を避けるため自分たちが来た街道ではなく
一旦南に回ってから行くらしく、すでに近くにはいなかった。
仕方なく鍵を預かっていた村長に扉をあけてもらい、館の中に入った男たちは
内部の物色が終わると相談を始めた。
「ヤバイぞ、あのガキを捕まえないと子爵が怒り狂うぞ。」
「わかってる。朝になったら何人か騎馬で向かわせる。」
「何人か?それじゃ折角人目に付かない所で子供を見つけても
たいして誘拐できないぞ。」
「子供をさらって小遣い稼ぎするのは次の機会にするしかない。
この辺りの子供を何人も連れてあの街道を戻るのは・・・。」
「そりゃそうだ。1人でも無事に連れて帰れるかどうか怪しいぜ。」
「当人にとっちゃ無事に着かない方が幸せじゃないか?知らんけど。」
「ウブそうなガキだったからな。まああの程度じゃ子爵も
すぐ飽きるだろ。」
「センター組に残れそうにはなかったな。
すぐ俺たちの方に回ってくるだろうから思いっきり可愛がってやろうぜ。」
「お前、すぐ壊すから俺の後な。ヒィヒイ言わせてやるか。」
下品に笑う男たちの横で暖炉に火を焚いていた一番身なりの良いのが
大きなため息をついたのを一人が聞きとがめた。
「何だよ。センターで何曲か歌った事のあるリーダー様は
お上品な意見でもするのかよ。」
「そっちじゃない。この手紙見てみろよ。
俺たちに同行するように、って親が女房子供に書いてる。
たいした人のクズだと思ってな。」
「そうか?親なんてそんなもんだろ。
リーダーどうした、仏心が出たか。可哀そう、なんて。」
「ここに居る大半は親に売り飛ばされた奴、
残りは誘拐された奴、孤児だぜ。
酷い目にあって世の中こんなもんと思わされてるのも一緒、
ガキが可哀そうなんて思うもんか。
ただ、この男爵野郎が気に食わないだけさ。」
「違いねえ。俺も俺を売り飛ばしやがった親父は最後まで
気に食わなかったぜ。」
「お前実の親を生きたまま半煮えにして豚に食わせたんだっけ。」
「仕方なかったんだー。とか泣き言叫んでてザマなかったぜ。」
「仕方ないで済むわけねぇ。しかし子爵はたいしたもんだ
お前のやる事全部もみ消すもんな。」
「俺みたいに腕の良い尋問者はいないからな。
子爵に都合の悪い奴は多いから身辺を綺麗にしたいらしい。」
「それ綺麗っていうのか?
まあ嗅ぎまわる奴や生き証人は仕方ないか。」
街道が平坦になり、男爵館には酒も残っていたせいで昨日より随分元気な
男たちは男爵館で金目の物を物色しながら一夜を過ごした。
翌朝、男爵家の馬と馬車を徴発した彼らはノールド男爵館に向かったが、
それとは別にロバと子供の集団にはすぐ追いつけると思いながら
5騎だけが南へ向かって行った。




