42.ジェニ軍キター
シャーフラント人が北方街道と呼ぶ森の中を武装した一団が野営していた。
茜の軍服、金革の胸甲、金のヘルム、随分派手な恰好をした彼らは焦っていた。
「予定より3日も遅れている、既に王都で事は起きたはずだ。
こんな所でグズグズしていると子爵様のお怒りをかってしまうぞ。」
「夏に来た時には道が悪い以外、問題が無かったのに。」
「お前、夏しか通れないと皆いうのを馬鹿にしていたな。
問題大ありじゃねぇか。」
彼らは3日で北方街道を抜け、シャーフラントに侵入する計画だった。
その翌日、無人のバルツ男爵領に到達、第一任務を果たした後
挙兵しているはずのノールド男爵に合流するのが最終目的だった。
「ノールド男爵は待ちわびているだろうな。着いたら嫌味を言われるかな。」
「田舎男爵なんぞどうでも良いさ。稼げるだけ稼ごうぜ。」
「一番稼げそうなのは子爵様に目をつけられちまったがな。
他にも良さそうなのいるかな。」
「シャーフラント、金は無い、料理屋もない、
ないない尽くしだが女子供は良さそうだったぜww。」
下卑た会話をしているジェニ子爵の軍は男性だけで構成された
歌って踊れる軍団である。
馬鹿にされる事もあるが内容は体育系で内部は結構暴力的だったりするので
彼らは決して弱くはない、と自分達で思っている。
その彼らだが、北方街道の最初の峠の前に山賊に襲われた。
150名もの武装集団を襲う馬鹿はいない、と油断していたら
最後尾の馬車を崖下に落とされたのである。
いきなり馬車に飛び乗ってきて、御者を蹴落とした獣人は
馬車を暴走させた後、崖下の樹木に飛び移り逃走した。
後を追おうとしたら付近の森にいたエルフから矢が飛んできた。
食料の半分以上を失い、死傷者を出した彼らは部隊の一部を
ジェニの町に帰した。
その後も山賊やら魔物、ゴブリンやトーテムフート、オークに
遭遇し、時間と人員を損耗していた。
「秋口は魔物が降りて来るから注意するように言われはしたが、・・・。」
「ゴブリンはともかく、他の魔物なんか二度と見たくねぇな。
何だよあのムカデ、矢も槍も貫けないなんてありか。」
「おかげで灯油は全滅、ランプの油もねぇ。」
「子爵もケチらず魔石位寄こせよな、って子爵様にチクるなよ。」
「解ってるよ、腹が減りすぎて何があったか覚えてられないよ。」
彼らは道にいたトーテムフートに灯油をかけ火責めにして撃退したが
結果灯油を使い切っていた。
「昼にたおしたオーク、あれで良いから食いたいな。」
「正気か?気持ち悪い。そもそもあんな物食ったら腹壊すだろ。」
「違いねぇ。ああ木の実とか、ウサギとかで良いから食いたい!」
「食料も水も残り少ない。森の中を探してみるか?」
「エルフの山賊が居るのに森の中を?自殺行為だなそれ。」
「明日には人の住んでいる場所に付く。それまで我慢しろ。」
100人足らずに減ってしまった集団は負傷者を庇うように
円陣を敷き、周囲に火を焚き野営していた。
わずかに残ったパンも皆で分けたようだった。
ーーー同じ時刻ーーー
「”萌え萌えキュン”」
すっかり片付いた部屋に戻ると、どっと疲れが出てきた。
クーデーターが起きたという話を聞いた後、どうしようかと
迷っていたが周囲の人の方が先に騒ぎ出した。
ノールド男爵が戦支度をしている、それも
野盗や魔物を討伐する支度ではなく館に迎え撃つため
堀や塀を整備している、バルツ領だけでなく各地の村が
何事かと情報を集め出した。
俺は父の男爵がコソコソと喋っていた事にして、クーデターの話を
マリアさんや村長にしてみた。
それが、ノールドで流れた噂と合致していたため皆信じてくれた。
西部高原の羊飼いはじめ各地に伝令が走ったようだ。
村の人達は、軍隊に接収されてはたまらんと貴重品や食料を
隠し始めた。
全部隠してしまわないのがコツだと村長が言っていた。
国を挙げての大きな戦争は長らくないが、シャーフラントは
ここ80年で開かれた辺境であるため少し前まで小競り合いが
絶えなかったそうで、皆結構慣れているのに驚いた。
そういや、この辺警察っていないもんな。
『感心してる場合ですか。さすがにもう来ますよ。』
「聞いてた日からもう何日も経ってるんだけど。
奴らもう来ないんじゃないか。」
『その可能性もありますが、遅れてると思って対策した方が良いです。
この世界、情報伝達が遅いですから、
一度決めた計画はそう簡単には変更できないし、
アンタをどうしても欲しいようですから計画続行だと思います。』
「欲しがられても俺にその趣味はない!全く迷惑な。」
あの妖怪爺、俺を連れて来いと部下に指示を出したみたいだ。
何故俺?人の趣味はいろいろあるから両者が良いのなら別に
構わないと思うけど、俺明確に拒否したよね。
立場的に遠慮気味だったけど思い切り嫌がったよね。
『捕まえちゃえばこっちの物、と思ってましたけどね。』
「こっちの物、って何する気だよ。寒気しかしないわ!」
金と権力は有るみたいだからそういうのが好きな奴、
そっちの趣味の会う奴を相手にしてれば良いのに。
逃走準備として、運び込める物は亜空間倉庫に運び込んだ。
何かの都合でこちらの世界の人に見られた場合、缶入りやレトルトの
食い物はマズいだろうから保険の為にもともとあった物以外、
余分に焼いてもらったパンやら野菜まで運び込んだ。
時間が止まって劣化しないので本当に便利だ。
万一の時は、マリアさんを抱えてあそこに逃げ込むつもりだけど
その場合どうなるんだろう?
前の南京虫みたいに固まって動かなくなるのかな?
なんか変な企画物A〇みたいになるのか?
『意外です。アンタの趣味はキョヌーとばかり思ってました。』
「俺の検索記録を何で知ってる!というか人の趣味を決めつけるな」
別に小さくても良い、気持ちが合えば良いんだ。
その点から時間停止って意味わからん。
お互い確かめ合うからよいんだろ?
じっとしていて良い点って良く見えるだけの気がするけど。
『どこが見えるんですか。本当に品性下劣!』
「勝手に心を覗くな!好奇心という物があるんだよ。」
テンプレと馬鹿な念話をした翌日、西の村から伝令がやって来た。
昨日北街道にあたる山中に火が焚かれているのを見たらしい。
人さらいの連中、本当に来た・・・。




