35.お留守番キター!
一面のクソミドリが見事な金色に変わった。麦秋って奴だ。
それを村中で刈り取っりだすと男爵館に動きがあった。
社交シーズンとかで男爵様と第一夫人の家族は王都に行った。
なんと、3カ月程も帰ってこれない!
いやー、皆さんの顔を見れなくて寂しいな(棒)
しかも、第二夫人エマさんは父のノールド男爵が病気という事で里帰り中。
リナとレオニーも後から行ったから相当悪いのかもしれない。
それは心配だが、そんな事よりも、館はスカスカ、
ほとんど無人、うるさい奴らが居ない事の方が嬉しい。
「へへへ・・・。最高だ。」
『顔に出てますよ。皆気味悪がってますから、注意して下さい。』
「そんなに?いつも通りクールな俺だと思うんだけどな。」
『よだれ垂らしそうな口で何を言ってるんですか。
それかクールクールパーと間違えてませんか?』
テンプレが老害らしい悪口を言ってくるが、余裕で許せる位気分が良い。
馬車が見えなくなってから笑いが止まらない。
「夏休みの宿題があるのは意外だったけど、大した事無いし。」
これを読んでおけ、と渡されたのはどうみても活版印刷+銅版画の
マナーの本だった。
まあ内容は大したことはない、基本的なマナーの他に
一般会話ができる程度の歴史の話や大雑把な地図があって大変助かる。
しかしこの世界、古代から中世と聞いてきたけど近世入ってないか?
明らかに営利出版している奴がいるぞ。
『それでアンタも営利泥棒ですか?本館に忍び込んで。』
「忍び込むとは人聞きの悪い。戸締りの確認に入ってるだけだ。
大体営利誘拐というのは聞いた事があるが、泥棒は最初から営利活動だろう。
変な造語するな。」
俺は狙いをつけた、じゃない、前から不思議に思っていた部屋に向かった。
3年前まで男爵の母親、俺のおばあ様がいた部屋だ。
今は客間扱いになっていてリナとレオニーが掃除している時に見た
ワードローブが何か変だった。
具体的に言うと厚みが有りすぎる。絶対何か仕掛けがある。
鍵が閉まっているが問題はない。
この館の鍵穴は向こうが覗けるタイプ。
錠前の基本的な構造を知っていれば楽々開けられる。
『バイトで泥棒でもやってたんですか?』
「だから人聞きの悪い事言うな。令和日本のちゃんとした鍵なんか
俺に開けられるもんか。俺が開けられるのは古墳みたいな鍵穴の奴だけだ。
妹がピアノの鍵を失くしたと騒いでいた時ネットで調べたんだけど
中の溝の間をゴニュヨゴニョすれば開いちゃうんだよ。」
『という事は令和日本の鍵も試してみた事ありますね。』
「ピッキングのやり方、みたいなサイトがあったんで面白半分に
自分の家の鍵を悪戯した事ならある。でも手も足も出なかったよ。」
『私は犯罪の手助けはしませんよ。下着ドロとか辞めて下さいよ。』
「今はいてるのはレオニーのお下がりのパンツだ。
ドロしなくても入手している。というかパンツ位新しいの寄こせ!」
『悪用しないなら閂を動かすだけの開錠魔法教えますけど。』
「有用情報は早く教えてくれよ!」
おばあ様の衣装は形見分けされたし、客間のワードローブなので
観音開きの大きな扉の中には何も入っていない。
ワードローブの奥は合板なんてないから細い無垢板を何枚も並べてある。
やっぱり何かある。20cm位奥行が短いと思う。
奥の板を叩いてみた。空間、あると思うが開け方がわからない。
扉の他に引き出しが有るので、そっちも開けてみたが細工は無いようだ。
もう一度大きな扉の奥板を調べる、真ん中当たりに補強の鉄板が横向きに
入っている。
補強、なのか。貯金箱の穴みたいなのがあるぞ。
穴の中をライトで覗くと何か細工がある。
さっき覚えた開錠魔法を使ってみたが変化はない。
『単純な鍵しか使えませんからね。鍵を探すほかないでしょう。』
「いや、解った。謎は解けたような気がする。」
面倒だが一旦別館に戻り箱の中のボタンを持ってこよう。
マリアさんは俺が鍵を開けられる事を知らない。
本館の合鍵を自分が持っていれば、俺は本館に入れないと思っている。
俺が館の隅っこに作った畑に居るというと簡単に見逃してくれた。
畑は本当に作っていて砂糖大根と大豆を試験栽培中だ。
トウモロコシも植えたかったが目立ちすぎると思い、今年は断念した。
さて本館客間に戻って、補強の鉄板を見る。
良く見ると穴の大きさが違うし、穴の周りに細かい傷がある。
箱根細工+錠前みたいな構造で多少の試行錯誤が必要だ。
ボタンの穴の形により差し込む向きが決まっていたし、
入れるのにも順番があって最後に錫のボタンを入れなくてはならない。
俺は何度もピンでボタンを取り出しては入れ直し、遂に・・・。
「開いた!」
錫のボタンだけは半分くらいしか入らず、取っ手の役割をするようだ。
下の棚には小さな壺が3個あり、上の棚には束ねた書類があった。
『水銀、ですね。そっちに金アマルガムもあります。』
壺の中を見ていたらテンプレが念話してきた。
壺に蓋はしてあったが、水銀蒸気は大丈夫か?
常温なら大した事はないはずだけど、あまり近づかない方が良いだろう。
「壺の感じからいって相当長くここにあった感じだな。書類も痛んでる。」
羊皮紙を丸めたのとか植物紙の冊子とかあるが、ほとんどは通信文だ。
「全部読んでると日が暮れそうだ。亜空間倉庫に持ち込もう」
『故人の通信の秘密を侵すつもりですか?』
「後ろめたい気持ちはある。でも放置するのも違うような気がする。」
エア君の記憶をさぐると優しい人で、あの箱をエア君にと言ってくれたようだし。
「不都合な内容は決して他言しません。今の生活から何とか脱出したいんです。
どうかお許し下さい。」
俺は部屋の中で手を合わせてから中の物を取り出し、
ワードローブの裏板を閉じる。開ける時と逆方向にすると
穴からボタンが出て来るようになっている。
「凝った構造だな。誰が作ったんだろう?」
『これを作るには高度な幾何と機械に対する知識が必要ですね。
私のデーターの中に制作できそうな人物はいません。』
「わかりきった事言われても。まあ書類を読めば何かわかるかも。」
さて、誰も見てないし、やるか「萌え萌え、キュン♡」
重い水銀壺も多量の文書も難なく亜空間倉庫に運び込めた。
これぞチート!
誰も見てないから恥ずかしくない!、もう一回やるんだ俺!
「萌え萌え、キュン♡」
周囲に怪しまれる前に帰ろう、今日は時間をかけ過ぎた。
戸締りを確認しながら別館に帰ると、マリアさんから畑の様子を聞かれた。
一瞬バレたか?と思ったけど、砂糖大根の様子が気になるみたいだ。
「本当にお砂糖が採れたら良いね。」
甘い物好きのマリアさんは本当に楽しみにしている。
「うん、頑張って育てるよ。お砂糖ができたら最初に食べてね。」
俺が答えると本当に嬉しそうにしている。
・・・。こんな良い人に隠し事してる。心が痛い。
砂糖は多分大丈夫だと思う。
亜空間倉庫の物品の元の持ち主は文明が滅びると思っていたようで
種やら肥料やら農薬やら用意してあった。
そういう訳で俺が育てているのは21世紀に改良された品種だ。
これもチートかな?でっかい葉っぱが茂り、上手く育っているようだ。
いろいろ楽しみな事が増えてきた。
お留守番、最高!




