33.魔力キター
「ねぇ、お願い。少しだけ、先っちょだけでも良いから。」
「駄目よ。いくらエアでもそれはダメ!大きくなるまで我慢しなさい。」
チョロいはずのマリアさんに拒否された。
ここは恥を忘れ、令和日本の妹がやっていた必殺技を使ってみるか。
「一生のお願い!ママ、やってみたいんだ。」
上目遣いで、目をウルウルさせて体を揺すってみせる。
「ずるい・・・。なんて可愛いの・・・。でもダメ・・・。うーん。」
マリアさんが動揺している。
この人の感性、俺と似た所がある。
自分の要求を通そうと、あざと可愛くしているだけなのはわかるけど
つい許してしまうんだ。
俺なんか妹の一生のお願い何回聞かされたか。
断れないとバレてるんだよな。
目を閉じて考え込んでいたマリアさんは首を振ってから、
息がかかる程の距離まで俺に顔を近づけてきた。
「エア、解ってる?本当はいけない事なのよ。体に害があるかもしれないわ。」
「うん解ってる。でもやってみたい。出来たら世界が広がると思うんだ。」
心配そうな瞳を見ながらはっきり返事をする。
「エアがそこまで言うなら教えてあげる。
でももう少し大きくなるまで魔法が使えるのを他の人に言ってはダメよ。」
俺の唇に指をあてながらマリアさんが言い聞かせてきた。
「うん、誰にも言わないよ。」
「じゃあ、テーブルの所に立ちなさい。」
テーブルの上には本館から持ち込まれた黄色い魔石が淡く光っている。
鶏卵位の大きさでオークの魔石らしい。
「先っちょだけでも根本まででも同じよ、全部入っちゃうから。」
俺の後ろから抱きしめるような形で両手首を握りながらマリアさんが言った。
「もっと力を抜いて。おへその下に力を入れる感じで。そうそう、来てる。」
マリアさんの頬が俺の頬に触れている。
「詠唱は覚えているんでしょ?魔石に触れながらゆっくり詠唱して。
何か変わった事があったらすぐ言うのよ。」
この状況で令和日本時代の俺の体なら変わった事がありそうだが、
幸いエア君の体に変化はない。さすが9歳。
そんな事より、俺の手が触れても魔石は変化ないように見える。
「おへその下から手のひらに力が流れる感じで、すーとやるの。」
球がビュンとくるからグッと引き付けてパチンと叩く、みたいな指導だな。
感性のみで良くわからんが、イメージしてみよう。
?!魔石の様子が変わったぞ。手が当たっている所が光り出した。
というか俺の体から何かが魔石の中に入って行く感じがする。
「凄いわ。始めてなのに上手ね。そのまま続けられる?」
「うん。やってみる。」
体調に異常はない、何かが流れ様子をイメージし続ける。
魔石の光が全体に広がり強くなってきた。
蛍光灯程度の明るさになった時ストップがかかった。
「もういいわ。それ以上入れると壊れてしまうと思う。
エア、何か変わった感じがしなかった?」
「魔石が暖かくなってきたのと、
何かが入って行く感じがしなくなった。」
「それが魔石の限界なの。無理に魔力を入れようとすると壊れてしまうわ。」
マリアさんは俺の手を離して魔石を持ち上げた。
「あと何回使えるかな。とりあえず本館に返してくるわ。」
残念な事に密着コーチの時間は終わりのようだ。
「良いと言うまでこの事は内緒よ。
それと体は本当に大丈夫?疲れてない?」
「うん、何にも変わらない。疲れてないよ。」
本当に何の変化もない。さっきので良いなら永遠に繰り返せそうだ。
マリアさんは俺の向きを変えると、正面から顔を近づけてきた。
「ママでもあんなに早く入れられないし、少し疲れが出るわ。
エアの魔力はとても強いと思う。
でもね、魔力が強かったり、魔法が使えるのは良い事ばかりじゃないのよ。」
「いろんな人が寄って来るんだよね。」
「そう、エアはお利口だから大丈夫だと思うけど、変な人に騙されたり
するから小さい子には魔法を教えてはダメって決まってるの。」
「10歳までだっけ。」
「10歳で魔法が使える子は滅多にいないけどね。
あんまり小さい子が魔法を使うと体を壊すらしいから
エアも注意してね。勝手に魔法を使ってはだめよ。」
「うん。わかった。使わない」
「良い子にしていたら回復魔法も教えてあげる。私のは我流だけど。」
「お願いします。ママを助けられるように勉強したいんだ。」
俺が頭を下げるとそんな動作や言葉をどこで覚えたの?と
マリアさんが笑い出した。
照れ笑いで誤魔化したがマリアさんでなければ怪しまれたかもしれない。
相変わらずチョロい。
『気が付きましたか?』
マリアさんが出て行くとテンプレが念話してきた。
「何にだよ。」
『あの詠唱、意味がありません。』
「マジか。いちいち詠唱するから必要だと思ってた。」
『この世界の人はそう思っているみたいですね。
でも詠唱内容って体の部分を意識させてるだけでしょ?
イメージをハッキリさせる補助にすぎません。
アンタのように詠唱に気を取られる人はイメージングに
集中した方が良い結果が出ると思います。』
「お前は魔法は使えないのか?」
『この世界の魔法は無理そうです。知識はありますし、
さっき実物を観察した感じだと補助だけなら出来そうです。』
「補助って?」
『魔力の入れ方とかですね。あの魔石、もう少しで壊れそうでしたよ。』
使える魔石って金貨が何枚とか位高価だったような。アブねー。
「折角脱出計画が進んでいるのに障害が増える所だった。」
『カエル採りに行って何も取って来ないので少し怪しまれてますけどね。』
「カエルも少しは採ってるよ。持って帰らないけど。」
この地方の人はカエルを食べる。
海が遠い地で貴重な動物性たんぱく質を得る人々をとやかく言う気はない。
問題は俺にある。カエルを捕まえる事は出来るけど
殺して皮を剥くのをやりたくない。
俺より年下の子達が実に器用に足の筋肉だけの状態にしていて、
『やってあげようか?』とか言われるがやりたくない物はやりたくない。
唐揚げにすると旨いらしいが別に食いたくないし。
「カエルよりずっと良い物採ってるから良いんだよ。」
川の流れの緩やかな場所、川岸に生えている草の根っこの所、
そういう所の土を採って川の水の中で揺すると金が採れる。
『この辺にはあまりないですけどね。』
「大きいのは米粒位あるのにか?細かいの含めたら結構集めたぞ。」
『大きいのは上流に溜まってると思われます。効率良く集めましょうよ。』
「今すぐには難しいな。計画通り人手を集めよう。」
金山と砂金の事はマリアさんに話してある。
彼女は最初信じなかったが砂金を見せてから顔色が変わった。
マリアさんは実家、会った事のない俺の祖父母に連絡をとった。
祖父母は昔はそこそこの商人だったとかで各所に顔が効くらしい。
金鉱石と砂金のサンプルも一緒に送った。信じてくれるだろう。
場所については濁した、というよりテンプレが居ないと俺にもわからん。
『上手くいくと良いですね。』
「騒ぎにはなるだろうけど、今より悪くならないと信じたいね。」
俺は自分の部屋に入り、エア君の持っていた箱を開けた。
銅貨が10枚、3個あった鉱石は1個減っているが
代わりに砂金の包みを入れたので元より価値は上がっているだろう。
「わからないのがこのボタンだ。何か意味あるのかな?」
金属のボタンが1個、木製のボタンが4個入っている。
物が貴重なこの世界だから何でも取ってあるのかもしれないが、
金鉱石が入っていた箱だ、何か意味があるのかもしれない。
『金属は錫です。多少の不純物はありますが。
木のボタンはフロロの木を削った物のようです。』
「何も変わった所はないんだよな。」
『はい。特に細工してあるとかはありません。』
うーん、わからない。単なる裁縫用のボタンだろうか。
文字が書いてあるとかもないんだよな。
考えてもわからない。
今日はフライドチキンにしようと思いながら俺は台所に戻った。
鶏も殺せなくて、村の子に助けてもらってる。
『えー、出来ないの?』とか言われて俺の株は暴落中だ。
この世界でもモテ期は遠いようだ。
^^^今モテても仕方ないから良いんだい!




