31.私は誰、キター
棺桶にしか見えない箱にワラを詰めてあるのが、俺のベッドだ。
転生したばかりの頃はワラのチクチクする感覚と戦いながら寝ていたが、
今はシーツの下にキャンプマットが有るので寝心地が良い。
俺は上手くやっている・・・やっているんだ。
『そう思いながら涙は流すんですね。
そんなにあの妖怪爺が怖かったんですか?』
「それもあるけど、自分が情けなくて仕方ないんだ。」
マリアさんは今日も俺を自分の身体の後ろに隠し、
妖怪爺から必死で守ってくれた。
俺は日本で格闘技なんかやった事ない。体育で受け身とか素振りとか
やった事あるかな?程度だ。
拳銃を持っているといっても、今の9歳の体にその武道の腕前という事は白兵戦最弱、
捕まったらあの爺にすら好きなようにされてしまうだろう。
彼女にしがみついて守ってもらうだけの情けない奴。
大事にすると誓った彼女に心配かけ通し。厄介者、面倒な奴・・・
『アンタが一番知ってるでしょ?あの人がそんな事考えるはずない。』
「それが痛い程わかるから苦しいんだよ。その位理解しろ。」
妖怪爺、ジェニ子爵は大金持ちで国の上層部にも顔が聞き、
性格はシツコイという評判らしい。
今日はあれで済んだけど、後で何か言ってきたらどうしようとマリアさんは
心配して暗い顔になってしっていた。
『それで笑わせようと下手なブリンブリンダンスとかやったんですね。』
「あの人にあんな顔させとけないだろ?ダンスが下手なのは自覚あるよ。」
夕食後二人でチョコムース食べてる時、変な踊りを見せたら笑ってくれた。
今の俺にはそれ位しかできない。本当に何もできない。
「もし、ジェニ子爵から正式に話が来たら俺どうなるだろう?」
『どっかに奉公に出すのが既定路線みたいですから決まりじゃないですか。』
「そんな気がしていた。最悪の状況だな。」
あの妖怪の所に行かされたら俺の貞操と精神は破壊されそうだけど、
本館の連中は俺の意思とは関係なく勝手に決めるだろう。
お尻筋が寒くなる状況だ。
『首筋でしょ。もう少し真面目に考えて下さい。』
「これでも必死に考えているよ。
愛のカタチが沢山あっても良いとは思うが、それはお互いが了承している場合だ。
俺はお互い愛し合い求めあう恋愛がしたいんだ!」
『DTらしい純愛理想主義ですね。』
「うるさいな。それ位の妄想させてくれ。」
天井ならぬワラ屋根裏を見ながら俺は考える。
俺は誰だ?この世界のエアヴァルトか?日本に居た諸星望か?
何でこんな所に居る?奴隷の様に売り飛ばされる心配をしながら。
今”力が欲しいか?”なんて言われたら魂を売るかもしれない。
『アンタ高校の時違う事言ってませんでしたっけ?』
「諦めない、最後まで。か。」
『どんな相手にでも向かって行くんでしょ。』
「野球と実生活は違うよ。俺だって落ち込む時はあるんだ。
今はそっとしといてくれ。」
圧倒的戦力差だけど、無抵抗で負けてたまるか。
チームメートとよくそんな話をしていたな。
最後はシード校相手に粘りまくってサヨナラ負けしたんだよな。
いい奴ばっかりだったよな。皆どうしているのかな。
久しぶりに奴らと話してみたいな。
求めてもいない奴は勝手にやって来くるのに変なのは・・・。
あれ、なんか引っかかるぞ。
マリアさんにこの国のおおよその地理を習ったんだけどジャニ子爵領って
この辺の一般的な交通ルートと全然違う所にあるはずだ。
マンチェスまで行くらしいが、それも無茶遠回りだ。
何だろう、この違和感。
「貧すれば鈍す、って本当だな。働き詰めで頭が回らない。
噂に聞くブラック労働状態だ。すごい引っかかっているのに何故かわからない。」
『何か用事があるんですかね。距離がありすぎて会談内容はわかりませんが。』
「王国一の辺境と言われてるこの地域にか?人口も産業も無いぞ。」
この地域、シャーフラントは80年前までエルフ達の領土だったため
大きな町も伝統産業も何もない。
80年の間に開墾された畑と牧草地があるだけだ。
エンターテーメントやレジャー関係で財を築いたと聞くジャニ子爵が
この地域に興味を持つとも思えない。
人材発掘?人より羊の方が多い、何なら魔物まで出る田舎より
都会の方が母数が多くて効率が良いだろう。
『そんなに気になりますか。』
「男爵の様子は明らかにいつもと違った。
盗塁のサインが出た一塁ランナーみたいにジェニ子爵を見ていた。」
俺は確信を持った。絶対何かある。
意地でも親父とは言いたくない、あの特殊な髪型の男は何か隠している。
『でも、何があるかはわかりませんね。』
「今はな。何か動きが有れば事態を好転させるチャンスがあるかもしれない。」
貞操の危機であるのは変わらないが、俺には亜空間倉庫がある。
逃げるだけなら何時でも逃げられる。
それでは、マリアさんが悲しい思いをしてしまう。
俺の目標はマリアさんの家族を救い出し、皆で幸せに生きる事だ。
短気を起こすな、チャンスは必ず来る!
『また野球のスローガンですか。』
「または余計だ。戦力はあるんだ。絶対目標達成してやる。」
希望はある!
俺の体は成長している。
今は爺にも勝てないこの小さな体だが数年先はわからない。
亜空間倉庫には大量の物資がある。
今は使いこなせない武器や道具が使いこなせれば、
使えなくても売るルートさえ確率できれば。
『やっと前向きになりましたね。
私は誰、なんてどうしようかと思いましたよ。』
「そうなる方が普通だと思うけどな。」
とりあえず今日は眠ろう。
昼間の事件のせいで悪夢を見たり、寝つきが悪いかと思ったが
瞼を閉じた瞬間眠ってしまった。
9歳の体には酷な労働をしているせいだろう。




