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27.外伝。寂しくなんてないんだから。

「すいません。無理言っちゃって。」

「気にしなくて良いよ。お兄さんの49日なんだろ?

当たり前の休みだよ。遠慮する方がおかしいよ。」

「そうだよ。力になれなくて申し訳ないと思ってるんだから。」


諸星希もろぼしのぞみ20歳♀はファミレスの裏口で店長とバイトリーダーに謝っていた。

明日は日曜日で人手が足りないはずなのに気持ち良く休ませてくれた。

今回は前もって予定していただろうけど、急に休んだ時も文句は言われなかった。


”馬鹿兄貴が勝手に死ぬから悪いんだ。あの人たちにまで迷惑じゃん。”

なぜ自分が怒っているのか、自分でもわからないまま彼女は帰宅した。


「ただいま。」

声をかけても返事は無かったが照明は灯いている。

いつもの事なので和室、父がどうしても欲しいと無理やり作った、に行ってみる。


「ただいま。父さんは?」

「おかえりなさい。今日は残業になるって。」

小さな祭壇の前に座り込んでいた母が答えた。


『土曜出勤の上残業か。社畜は辛いねェ。』

以前の希なら言ったセリフを飲み込んだ。


正社員でそこそこの会社の管理職、アラフィフにしては若々しい母は

ここ1カ月少々で随分やつれてしまった。自慢の母さんなんだぞ。

これも馬鹿兄貴が勝手に死んだせいだ。


「何してたの?また何か書類が必要になったの?」

母の前には何枚かの紙が散らばっている。


兄が死んだ後事務処理ができたのは伯父と従兄のおかげだ。

しばらくは家の中に書類が滞留していた。

必要なのはわかるが急死した者の家族には酷すぎると思う。


「スーツのお直し期限が近いから早めにご来店下さい、だって。」


両親は兄貴の卒業式と入社式に着せようとサプライズでスーツを買ったらしい。

「今時デパートで買ったんだ。キャンセルし忘れたの?」

母は首を振った。

「無いんだもの。お兄ちゃんの他所行き。安物のスーツが一着きりで

他も安物の服しか無いんだもの。・・・。」


確かに、兄の服ときたらユニク〇が高級品に見えるような服しかなかった。

しかも繕ってあったりして・・・馬鹿兄貴、お前がモテないのはそういう所だぞ。


母はデパートからのお知らせをじっと見ている。

サプライズだったから当人は知らなかっただろうに、当人は袖も通してないのに。


・・・仕方ない。何か食べる物を用意しよう。カップ麺で良いか、

レストランで賄い食べてくれば良かった。


馬鹿兄貴が居れば絶対なんか作るな。

うちの家の両親は共稼ぎだから夕飯の支度は問題だった。

私が空腹で文句を言うと兄は両親の許可を得ては何か作ってくれた。

小学校高学年の頃には両親よりも兄が作った回数の方が多かったかもしれない。

両親もそれを食べていたし。


馬鹿兄貴の妙な才能だ。料理はむしろ下手なくせに、妙に手早く手抜き料理を作る。

冷凍食品やらレトルトやらインスタントを改造して野菜マシマシな物にする。

私が野菜嫌いだと知ってて作るからタチが悪い。

当人も野菜嫌いなクセに。


馬鹿兄貴、食べ物にも文句言わなかったな。

食事の時、兄の物は私の物だった。

「一口頂戴。」と言えば何でももらえた。

「お前の口はクジラの口か!一口が大きいわ!」とか言ってたけど。


母さんはカップ麺食べたくないみたい。

後で何か食べると言っている。


和室、無駄と思っていたけどあって良かった。

馬鹿兄貴のせいで来る人たちがお香上げていくんだけど

あの祭壇リビングに置いたら変だよ、LDKだし。


明日も兄貴の友達来るのかな。

『生まれながらの子分肌!とか言いながら皆の潤滑剤になってくれました。

チームにとって欠かせない奴でした。』

高校の野球部でキャプテンだった人が泣きながら言っていた。

他の部員も監督も来て家に入りきらずに困ったんだよ、馬鹿兄貴。


だいたい7番セカンドとか県予選3回戦とか微妙で友達に自慢しにくいんだよ!


微妙といえば『硬式野球やらせて貰ってるから。』と言って塾にも行かないクセに

現役合格したから自慢したいのに、田舎の大学に行ったのも微妙だよ。

素直に東大にでも入ってくれれば自慢できたし、死なずに済んだのに。


本当に明日からどうするんだろう?祖父母の家の仏壇は母さんが嫌みたいだし。

仏壇買うのかな?


カップ麺を食べ終えた。片付けて自分の部屋に戻る前に兄の部屋に入る。

すっかり私の部屋の倉庫になっている。

お陰で私の部屋はスッキリ。目出度し目出度し。

『まあ使わないともったいないしな。』と馬鹿兄貴も認めていた、無問題!


馬鹿兄貴の机の引き出しを開けると裁縫セットがある。

私も母も針仕事が出来ないので兄がよくやっていた。


小学校の時付けてもらったゼッケンは下手な縫い方だと友達に笑われた。

悔しくて馬鹿兄貴を叩いたり蹴ったりしたのを覚えている。

そういえばいつの間にか友達の親が縫ったのと変わらなくなっていた。


久しぶりに兄貴のベットに座ると猛烈に腹が立ってきた。

これから誰が私の縫物してくれるんだよ、デザート分けてくれるんだよ。

教科書のわからない所教えてくれるんだよ。


服装のアドバイスに照れ笑いして何か奢ってくれよ。

何だよ、優しくするだけしてどっか行ってしまうのかよ。

馬鹿兄貴!最低だ!


彼女は本当に怒っていた。

涙が頬を伝い、嗚咽さえ上げていたが、彼女は確かに怒っていた。

















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