25.外伝、彼女達の逃避行(逃走成功!)
早春の街道を荷馬車がガタガタと進んで行く。
荷台には5人?が窮屈そうにしているが、大声で何か話している。
「お尻痛ーい。割れちゃいそう。」
「歩くよりマシって喜んだのは誰よ。文句ばっかりなんだから。」
荷台に乗っているのはバルツ男爵家でエアヴァルトを押さえつけた5人だった。
時間は2時間ばかり遡る。
バルツ男爵家を出た5人は丸一日以上歩いてやっと到着したノールド村に居た。
「農家の人に肉を譲ってもらうニャ。
ニャーはもう冬眠明けの痩せカエルなんて食べたくないニャ。」
「冬越しのフロロなんて萎びていて美味しくない!新鮮な果物が欲しい。」
「貰った物にケチをつけるんじゃないわよ。そりゃパンもカチカチだけど。」
「アンタもしっかり文句言ってるじゃん。」
村人は突然来た5人を不審がったが、バルツ家でもらった木簡を見せると
警戒を解いてくれた。
彼女達が幸運だったのは男爵不在のためマリアが紋章を刻んだ木簡を
ある程度勝手に発行できた事である。
「銀貨を見せたら急に愛想よくなって、村の人も調子良いね。」
「仕方ないよ。物乞いとお金出して買いだしに来た人じゃ全然違うもん。」
数日間も野宿と徒歩移動を繰り返していた彼女たちは久しぶりの人家に
警戒が緩んでいた。
マンチェス伯爵の旗を立てた武装集団を発見した時には逃走不能の距離
だったのも仕方ないだろう。
「どうしよう?今更逃げたら怪しまれるわよね。」
「その木簡とマンチェスの尋ね先があれば大丈夫だって。
昨日それで押し通す計画立てたじゃん。」
「そうは言っても、あれ討伐隊よ。いきなりハードモード過ぎない?」
「野盗の拠点で姿見られてたらどうしよう。」
「そんな事言わない。態度にも出さない。私たちはジェニから来て
マンチェスまで仕事探しに行く途中。」
「オイシイ仕事は無かったニャー。」
「だから余計な事言っちゃダメ!アンタは黙ってなさい。」
その少し後。
「君がヘレナでそっちがダーナ、短剣吊ってるのがオーリアだね。」
「はいそうです。隣のエルフがインガ、獣人がスターニャです。」
マンチェス伯爵に仕えているという初老の男が5人と木簡を見比べる。
「行先の住所は確かに実在の住所だけど・・・。
君たちジャニから来たと言ったな。いつジェニを離れた?」
「はいジェニの方から来ました。ジェニを離れたのは10日程前です。」
「それを証明できるような物はあるかい?」
「舞台の半券なんですけど証明になりませんか?半月ほど前のです。」
「確かに日付はそうだが・・・。」
初老の男はかなり不審がっているようだ。
「その舞台、超クールなんですよ。キョウヤがスーパー格好よくって。」
「ゲ、キョウヤ推しなの?趣味悪。ってかありえなくね?」
「アンタみたいなガキにはキョウヤの良さが分からないのよ!」
「1年早く産まれただけじゃない。何を偉そうに。
あんなの会わなくて性格悪いのわかるわ。」
初老の男は自分を無視して言い争いを始めた娘たちを見て警戒を解いた。
「もういいよ、疑って悪かった。これも仕事でな。」
その言葉を聞いても娘たちの言い争いが収まらなかったのは
芝居なのか地なのか。
「あのー。」
必要物資を調達した討伐隊が出発準備をしている所にヘレナが声をかける。
「どうした?」
「皆さんはこれからマンチェスまで帰るんですよね?」
「野盗の討伐は終わったからな。」
「空いてる荷馬車の隅っこで良いんで乗せてもらえないでしょうか。」
5人に事情を聞いていた初老の男は少し考えて答えた。
「乗せてやっても構わないが、何日もかかるぞ。用意はできているのか。」
食事までは出せないぞ、という意味だ。
マリアに貰ったパンとフロロの袋を見せると乗せてくれる事になった。
荷馬車に乗ってからも5人はずっと喋りっぱなしでいた。
「御免なさい。無理やり乗せてもらったのにうるさくして。」
ヘレナがが御者に向かって話しかけたが、御者は笑って首を振る。
「退屈しなくて助かるよ。」
「お詫びにフロロでもどうですか。ってヤバ!」
「ヤバッ、てどうしたの?」
オーリアがフロロの袋から子供用の下着を取り出す。
「それってあの子のズロースじゃない。何故そこにあるの。」
「脱がした後どうしたか覚えていないんだけど、袋に入れたらしい。」
「その上からフロロを入れちゃったの?」
「私、昨日皮剥かずに食べちゃったんだけど。最悪じゃない。」
「ニャーはフロロ食べないから知らなかったニャ。」
「あの子困ってないかな。悪い事したな。」
「田舎臭いけど、いい子だったね。」
「ジェニで活動してるような子と比べたら可哀そうだよ。」
「結構可愛かったよね。私見ーちゃった。」
「あんな子供のを見て喜ぶとは変態め。」
「目をランランとさせてたアンタに言われたくない!」
マンチェスに着くまで、馬車の上は賑やかなままだった。




