23.貞操の危機、キター!
ああ嫌だ今日も一番鶏が鳴いた。
「三千世界の鶏を殺し、主と焼き鳥喰らいたい。」
『起こされた恨みと食欲のコンボですか。アンタらしい。』
「おはようのかわりが憎まれ口かよ。お前らしい。」
まだまだ空は薄暗いのだが本館のガラス窓が明るく光っていて
庭に吊るされたゴブリンの皮を照らしている。
「ハツとレバー、砂肝、旨いのに。軟骨とキンカンも捨てがたい。」
『この世界では内臓は食べないんですよ。諦めて下さい。』
「諦められるか。悪食とか異端と言われても食べたい物は食べたい!」
昨日の父男爵様ご凱旋祝いメニューはこの世界基準では豪華な物。
ローストチキン、卵料理、珍しく煮物以外の料理もあった。
しかしローストチキンは固くてパサパサ、
胡椒が振ってあればご馳走らしいがスパイシー好きの俺には
全然物足らない味だった。
衝撃的なのは卵?冬越しの卵?・・・控えておきます。
こっちの鶏は冬は卵産まないから仕方ないのか。
『食べ残しの骨まで含め鶏の内臓は犬たちの食べ物らしいです。
この前助けてもらっておいて文句を言ってはいけません。』
奴らの食い物が欲しい訳じゃない。そういう問題じゃない。
何度チリパウダーやブラックペッパーを取ってきたいと思った事か。
「絶対脱出してやる。でも今はここに居る他方法がない。
今日も朝練と思い込んで、やるぞ、地獄の水汲み。気合いだ、気合い。」
『そうそう、人間諦めが肝心。』
こいつ。自分はやらないと思って好きな事ばかり。
水汲み始めて朗報。湯あみしないので今日は水の量は少なくて良いとの事。
あれ?風呂桶あったっけ?湯あみってどうするんだろう?
『アンタが水瓶と思い込んだ容器があったでしょ。あれです。』
「あんなのに体入らないだろ?」
『あの容器にお湯を沸かして、その横に洗濯桶を置いて髪を洗ったり
体を流したりします。』
「湯あみと聞いて期待した俺が馬鹿だった。」
ガックリだ。風呂に入りたいよ。俺の中身は日本人なんだ。
水を運び込む本館の中はいつもと違い人が動き回っていた。
その中でレナとレオニーの元気がない。
姉のレーナが奉公に行ってしまうのが寂しいらしい。
「昨日急に言われたわけじゃないんでしょ。」
俺が聞くとレナとレオニーは答えてくれた。
「馬車が帰ってきたら出て行くのは判っていたんだけど。ね。」
「何年会えないのかな。あんまり長いのは嫌だな。」
寂しそうだな。物凄く遠いとか言っていたもんな。
「まずマンチェスまで行って、その後王都か。王都って遠いんだね。」
「マンチェスまで馬車で3日、そこから川船で4日。私も行った事ないけどね。」
「でも親戚皆集まって大賑わいだと思ったら一気に誰も居なくなるね。」
「仕事が楽になって良いじゃない。エアも明日からしばらくは楽できるよ。」
レオニーがウィンクしながら俺に言ったがやはり寂しそうだ。
「でも大丈夫かな?王都までエミュール兄と一緒でしょ?
何かやらかさなきゃ良いけど。」
興味はないが、貴族専用の学校に入学するためエミュール兄も王都へ行く。
エミュール兄は男爵家じゃ幅が効かないと、魔物退治の話を作る気らしいが、
大言壮語せず本当の事を言った方が良くないか?
ゴブリンの皮、後で送ってくれと言っていたが、バレた時最悪だろう。
「マンチェスまではレーナとエミュール兄の他に父上、第一夫人イリスさん
西の村のグスタフ叔父さん、御者のグーノで行って、そこで一泊。
翌朝の船にレーナとエミュール兄、グスタフ叔父さんを乗せたら帰って来る、
という事は7日も楽できるね。」
レナが俺の頭を撫でながら言ったが、少し涙ぐんでいる。
もうすぐ姉とお別れだから、当たり前か。
水汲みが終わった頃、ご一行様ご出立のお見送りをする。
第二夫人とその娘たちは泣き顔で手を振ってお別れしている。
貴族の感情表現は理解できませんねぇ。
しばらくお見送りしている間に馬車ははるか彼方へ。
物凄く揺れている。サスペンションのない馬車なんて
速度は出せないし乗り心地最悪だろう。
早い機会にここから脱出したいが、交通手段は馬車以外を希望する。
『自動車使えば余裕でしょ?』
「だからアクセルに足が届かないし、顔がほとんど出なくて使えないよ。
それに脱失した先で見世物になるか捕まるかするんじゃないかな。」
『難しいのは理解しました。目的地はどこにするんですか?』
「とりあえずはマンチェスだな。人が多い所の方が紛れ込めるし
他の町やら国にも行きやすいらしい。」
マンチェスは第一夫人イリスさんの実家の伯爵様が治める町で
城壁を巡らした港町。交通の要衝で物凄く栄えているらしい。
エア君のママ、マリアさんの出身地でもある。
もっとも俺は行った事がない。
『海の魚はね、川の魚と違って大きくて沢山採れるのよ。
貝もタコも沢山採れてそれはそれは美味しいんだから。』
マリアさん、俺の食欲にダイレクトヒットな事を吹き込むのはやめて欲しい。
そんなわけで、俺にとっても現状行ってみたい異世界の町№1になっている。
なにせ亜空間倉庫には醤油とワサビがあるんだ。日本食ブーム万歳!
お見送りが終わると、皆少し気が抜けた感じで散っていく。
俺も汚れ仕事をちゃっちゃとこなす。
明日以降、短い間だけでも処理量が減ると思うと少しは気持ちが楽だ。
あれ?あんな所に人が居る?
そういえば、あっちでもこっちでも畑を耕し始めたから肥料用に村の人が
取に来てたのかな?
作業中本館から人が出て来たから、急いで隠れたのかもしれない。
この世界に来てから村から出た事のない俺の認識は甘かった。
何故男の子が女装しているのか。
馬車の周りを帯剣した男が固めるのは何故か。
いきなり口を塞がれ、木の陰に連れ込まれた俺は驚いた。
知らない人間が数人、その内一人は全身に毛が生え頭の上に耳がある!
「よし捕まえた。」
「捕まえた、じゃないよ。どうするつもりだよ。」
「だって放っておいたら見つかっちまうじゃないか。こら暴れるな!」
「スターニャ手足を押さえろ。」
「嬢ちゃんなの、坊やなの?とりあえず大人しくしな。」
目の前に短剣を突きつけられた。
「馬鹿だね確認すれば良いだけだろ。ちょっと、大人しくしなさい。」
ちょっと待て、こいつらスカートめくるだけじゃなくその下の
膝上まである下着を脱がしに来た!
「当たり、男の子だよ。」
「ジェニ子爵の所へ連れて行けば金貨100枚位にはなるかな?」
「ねえ、ホントにやるの?人さらいなんてやっぱり止めようよ。」
「何を今更、見なよスベスベで可愛いよ。」
「なに、これ?薄い本で見たのと違う。」
おい、ナニがどう可愛いんだよ。9歳だぞ当たり前だろ。
薄い本?そんな有害図書禁止しろ!
『獣人1、エルフ1、人間3、いづれも女性です。良かったですね
ご希望のハーレム展開ですよ。』
テンプレが念話してくる。
”下らない事言うな。女性に無理やり迫られる展開に興味がない訳じゃないが
こういう迫られ方は遠慮させてもらいたいわ”
ポケットには拳銃がある。
何とかしないと命がなくなるか売り飛ばされるかしそうだ。
とりあえずパンツ返して!




