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12.害虫再びキター

感情が爆発しそうになったので、あの方にはお帰りいただいた。

昼食後すぐだったのにすっかり日が傾いている。

外が騒がしくなったと思ったらセバスの大声が聞こえた。

別館の扉を開けて様子を見ると本館の前に大人たちが集まっている。


・・・ちょっと様子を見に行こう。ゴブリン見たいし。

「魔物を野放しとはどういう事だ?」

エミュール兄が詰問している。

「間もなく夜です。それに何故か犬が進みません今日はここまでです。」

セバスが大声で答える。

「村に魔物が来たらどうする!それで代わりに見つけてきたのがこれ、か」

エミュール兄が地面に置かれた古びた破れ袋を指さした。

「残っていた物から見て鉱石探しの山師のだと思われます。

荷物を放り出して行くとも思えませんから何かあったのでしょう。」

セバスが答えるとイリスさんが眉をひそめた

「山師がウチの領地に勝手に入り込んできたというのか?」

「母上、魔物を放置する事はできません。私が討伐して参ります。

夜であろうとゴブリンの一匹位に不覚を取るなどありえません。」

エミュール兄が意気盛んだが、父男爵が帰ってくるまで家長は

第一夫人のイリスさんである。

「セバスはどう考えますか。

 主人達が帰って来るまで魔物討伐の経験者はお前しかいない。

 お前に任せます。」

「明日になれば他の村に伝令に出した者を討伐に加える事ができます。

その数の力を持って討伐すべきでしょう。

本日は村の木戸を固め、明日の準備をするべきだと存じます。」

「エミュール、分かりましたね。」

不服そうなエミュール兄にイリスさんが言い渡す。

グヌヌ顔が面白いので見ているとエミュール兄と目が合った。

「母上、明日の討伐には私とエアヴァルトも加わります。」

え、一瞬判らなかったけど何を言ってやがります?

「屋敷を守る者も必要ですからお前は残りなさい。

 エアヴァルトは論外です。皆の足手まといになるだけです。」

そうです、そうです。危険な事はやめましょう。

「王都の学園に行く前に魔物を斃していれば、入学時から

一目置いてもらえるでしょう。

エアバルトには兄の強さを見せてやる良い機会だと思います。」

「遊びに行く訳ではありませんよ。」

そうです、そうです言ってやって下さい。

「ゴブリン一匹ではないですか。何も危険はありませんよ。

私の炎の魔法の手柄にして見せます。」

エミュール兄って言い出したら聞かないんだよな。

イリスさんとセバスが相談してる。

「それではエミュールは討伐に加わりなさい。

でもエアヴァルトは連れて行ってはいけません。

討伐中はセバスの意見をよく聞くように。」

そりゃそうでしょう。

俺の足では森の奥まで2時間以上かかるぞ少し冷静に考えてくれ。

足引っ張りまくる自信しかないぞ。

「エアヴァルトは日が暮れる前に家の中に入ってなさい。」

いつもは高圧的で嫌だなと思うイリスさんの提案が嬉しい。

よし、だらだらするぞ。


別館に帰ろうとするとセバスの犬が匂いを嗅いできた。

こいつは愛想のない犬だが、時々亜空間倉庫の中の食い物をやっている。

だって独り占めは気が引けるし、こいつ絶対口を割らないし。

問題はこの犬、山野を駆け回るせいかノミや虫が付着している。

今夜は久しぶりに殺虫剤撒いてから寝る事になりそうだ。


しかし今日は最悪の一日だ、血まみれの来訪者を迎えたと思ったら

自分の葬式を見せられ、魔物討伐に連行されそうになった。

異世界に来てから毎日厄日だけど、日本の家族の様子は堪えたんだ。


誰か慰めろよ。

そりゃ、家族に不満言ってましたよ。

仕送りが少ないだの、俺の物勝手に使うなだの。

でも本質的な不満は何もなかった。

今の境遇と比べると本当に恵まれていて愛情を注がれていた。

何の恩返しも出来ないまま迷惑かけっぱなし、どうしてくれるんだよ。

『その件に関しては私もご主人様が全面的に悪いと思います。』

”テンプレ、やっとデーター更新が終わったのか”

『はい、ついでにデフラグもしていました。』

コイツ少し旧型過ぎんが?

”珍しく俺の味方してくれたけど、気の迷いか?”

『どういう言葉を伝えれば良いか、という事については迷ってます。』

”お前でも真面目に考える事あるんだな。

でも俺の方が受け止められそうにないから言葉は良いや。”

『・・・申し訳ありません。』

”お前に謝罪されてもどうしようもない。今はとにかく

この体、エア君として頑張ってマリアママを喜ばすことにする。

無償の愛を与えてくれる人をこれ以上悲しませたくない。”

『ご主人様が言っていました。望さんは本当は優しい人だと。』

ーそう思って、悪いと思っていて、あの対応かい!


別館に戻るとマリアさんは食堂の椅子で休んでいた。

「魔法を使うと疲れちゃって。ついて行けなくてごめんね。

何か言われたの?」

今日はよく謝られる日だな。

「何で?ママは魔法で人を癒したんだもの仕方ないよ。」

「だって顔が・・・、泣いてない?」

いけない、直前までテンプレと念話してたからだ。

俺は本館前の出来事を話した。

「いくら何でもエアを連れて行こうだなんて。」

マリアさんが怒ったのを見たのは初めてかもしれない。

「大丈夫だよ。できるだけ家の中に居ろって。明日は勉強教えてね。」

「エアはどんどん賢こくなるから教える事がなくて困るわ。」

まあ、数学はもう良いです。単語とかも何とかなりそうです。

「それに心も大人になってきたわよね。

 前は血が怖くて見ていられなかったのに、今日はしっかり見てたものね。」

それは中身が違うせいです。ヤバいです。話題変えます。

「ママは傭兵だったって言ってたけど、戦争に行ったの?」

「他国との戦争なんてもう80年も無いのよ。

 傭兵の仕事は貴族の私兵や商人とかの護衛よ。

 魔石や薬草採取なんて仕事もあるかな。」

それ異世界物語の冒険者だな。

「上手くやれば稼げるって言われて傭兵ギルドに入ったけどママは

攻撃魔法や武器の使い方が全然だめですぐやめたの。」

「それなら、お医者さんや治療師になれば良かったのに」

「治癒士ギルドはお金が沢山要るの。それに稼げるまで時間かかるし。」

「でも折角魔法が使えるのにもったいなくない。」

「魔法のおかげで、ここにお嫁に来れたのよ。

お嫁に来ることでママが大好きな人を助けたのよ。」

事情を知った後だと重い話だな・・・。

「お嫁に来たからエアに会えたのよ。優しくて賢い私のエア。」

抱きしめられたのは役得、と思ってた時もあったよな。

・・・中身が入れ替わっている事はもう少し黙っていよう。




































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