怒られる
叱ると怒るは違うという。
今まで私は、両親も家庭教師の先生も”私のため”を思って叱ってくださっていると思っていた。
けれどそれが違う事を今はちゃんと知っている。
政略の駒としてさえ大切にされなかったことをちゃんと知っている。
あの時見殺しにするにしても、愛する娘を冤罪で失ったという王家に対する借りにさえせずただ私を切り捨てたことを、私はちゃんと覚えている。
だから、勝手に獣人を屋敷に連れ込んだ件で父親であった人に呼び出された時も特に何も思わなかった。
実際、私から事情や理由すら聞こうとしなかったし。
私に対しても汚らわしい物を見る目で見る母親だったものと、唾を飛ばしながら怒鳴り散らす父親だったものがいるだけだった。
それなのにちゃんと『私のため』という言葉は忘れないところが滑稽だった。
汚らしい獣人を屋敷に入れたことがいかに家名を傷つけるかについて、延々と話しているけれど、私には私の使い魔を守る責務がある。
私は彼に酷いことをしないと決めているし、私の使い魔としてちゃんと幸せになってもらわなければならない。
誰にも愛されない魔女の使い魔になってしまう彼を守らねばならない。
それに、この人たちは私を見殺しにした。
仕方がなくではなく、私が魔女かなんていう事実はどうでもよく、そして、私のこともどうでもいいのだろう。
いまも体面の話ばかりしていて聞くのもうんざりだ。
多分、ここでこの人たちを呪い殺すこともできる。
それくらい魔女の勉強は進んでいた。
逆に殺すことは割と簡単にできることの様だった。
だけど、ルイが来たその日に両親が死んでしまう。
最初に疑われるのは彼だ。
それは避けたかった。
「ねえ、お父様」
私がそう言うと父だったものは私をちらりと見た。
あの時のことが嫌でも脳裏に焼き付く。
けれど、それが私の意思をはっきりとさせてくれていた。
「お父様、少し『お疲れ』ですわ。
そんな小さなことで……。
お父様は『お疲れ』の様ですので領地で静養したらいかがかしら」
公爵家ほどの組織だ。
公務のほとんどは家令衆が行っており、彼が必要なことは戦争でも起きない限りない。そして今はまだそういうものを起こすつもりはない。少なくとも私は。
だから少し彼にはどこかに行って静かに引きこもっていてほしかった。
だから言葉に呪をかけた。
「あ、ああ……そうだな……」
「あなた!!!」
母だったっものが叫ぶけれど、現公爵であるその男は「アリスの言う通りだ。少し休んで過ごすことにしよう」とうつろな目で言った。
案外魔法というのものは簡単に使えるものなのだと思った次の瞬間酷い耳鳴りがした。
前言撤回。魔法というのもは結構難しいらしい。
けれど、ルイのことはうやむやになった。
公爵の移動だ。
準備には何日もかかるし移動だって体に負担のかからない豪華なものになる。
少なくとも私は静かに過ごせる。
私には今やらなければならないことがある。それが終わったら、この人たちを破滅させてやろう。
そう決めた。