獣人
* * *
公爵家へ連れて帰った子は酷くやせぎすで、髪の毛にも艶が無かった。
その艶のない髪の毛から獣の様な耳がぴょこんと出ていることで獣人だとわかる。
メイドに彼の着替えの準備と風呂に入ることを指示しながら、怯えた目でこちらを見る彼と目が合う。
彼が人でなくて良かったと思う。
人だったらまた裏切られるのかについてかんがえなければいけなかった。
「ねえ、あなた名前は?」
「……ルイ、です」
「ふうん。ルイって言うの。あなたなんの獣人なの?」
「……オオカミです」
言った後、ルイはびくびくと怯えていた。
オオカミは森の嫌われ者だ、その位の知識は私にもあった。
魔女に、オオカミ。嫌われ者同士使い魔にはお似合いだと思った。
「私はあなたに絶対に酷いことはしないわ。
それだけは約束をする」
私はルイの目を見ていった。
周りにメイドもいる。魔女だと明かすのは然るべき別の時がいいだろう。
「あなた……おじょうさまは?」
たどたどしい口調でルイはそう言った。
彼には色々な知識を学ぶことも必要だろうと思った。
「私は公爵令嬢のアリスよ」
私がそう言うと「こしゃく……?」と困ったようにルイは言った。
貴族についての知識も無いようだった。
であれば巻き戻り前、人間たちのいざこざもよくわかっていなかったかもしれない。
この国では獣人は人間より下の存在とされている。
学校もないし、劣悪な環境で働いている。
中には酷い目に合うものも多いという。
貴族同士の何かに気を向けている暇など無かったであろう存在。
私が魔女になった時、私に嫌悪感を向けていなかった可能性の高い、私のことを知らなかったひと。
それがルイだ。
私は困惑するメイドたちに彼のための部屋と風呂を出た後食べる暖かい食事の準備を言づけた。
後は、彼の扱いだ。
魔女の勉強が終わり次第この家もこの国も出ていってしまおうと思ったけれど、彼の体調がよくなって、それから少し周りが見えるようになるまでここにいた方がいいのかもしれない。
風呂からでたルイは煤やほこり等がきれいに落ちていて、グレーの髪によく似あうとても整った顔をしていた。
「暖かいスープと、やわらかいパンを用意してあるわ」
ルイは食事を見るとぱっと華やいだ顔をした後、うかがう様に私のことを見た。
「あなたの分よ、食べていいのよ」
なるべく優しく聞こえるように言った。
ルイはごくんと唾を飲み込んで何か覚悟を決めた様に見えた。
別に毒なんか入ってやしないし、食べた後危ない仕事を頼むなんてことはしないけれど、多分話したところで彼は警戒を解けないだろう。
態度と実績で示すしかない。そういうのは嫌いではない。
私はおずおずと食事を食べ始めるルイを見ながら、折角見目がいいのだからどう着飾ってあげようか。そんなことを考えていた。